53 新たなエリア解放


 《ポーン!》


 《エリアボス「瑠璃魔獅子ヴァイドゥーリャ」が出現しました。発見者は、チーム「ソトノセカイカラ」3名。なお、この戦闘は、複数パーティが参加可能です。参加依頼及び許可については、発見者に権限があります》


 現れたエリアボスは、鮮やかなコバルトブルーのマンティコア。


 その体躯は通常のマンティコアよりもふた回り以上も大きく、黄金色に輝くたてがみからは、燃え盛る槍——火槍を射出する。


 でも幸いにして、火槍にさえ気をつければ、HPを増し増しにして固くなったマンティコアといったところ。


 懸命にレベル上げに励み、レオと香里奈がワンランク上のジョブへ転職したこともあって、時間をかければ何とかなりそうだという手応えはあった。


 そして耐久戦ならば、GP管理さえ気をつければ、俺が最も得意とするところだ。


 もう街は目の前。この戦闘が終われば直ぐにたどり着ける。


 ……だから、出し惜しみはしない!


「【天衣無縫てんいむほう】!」GP1800を消費。


 無敵+全ステ100%UPの効果が30分間持続する戦闘支援スキルをレオにかけた。レオの身体から、揺らめく金色のオーラが立ち昇る。


「よっしゃぁぁ! 無敵だ! 行くぜ———っ!」


 レオが弾丸のように飛び出し、エリアボスに向かって大きく跳躍する。


 スキルのクールタイムは3分20秒。


 それが明けたら、直ぐに俺自身にもこのスキルをかけるつもりだ。一旦は大量のGPを消費するが、俺のGP回復速度は超早い。だから結界スキル他を併用しても、俺とレオの二人で1時間以上は戦える計算になる。


「【聖なる行進】! 【天の慟哭どうこく】!」


 香里奈がバフスキルとデバフスキルを立て続けに使用する。


 空中に、大勢の子供天使が描く螺旋に加えて、悲しげな表情をした巨大な大天使が現れ、戦闘フィールドはなんとも神々しい有り様になった。


 ……あとは、力の限り殴る。ただそれだけ。


 今回は火力不足を補うために、戦闘支援と回復は主に香里奈に任せて、俺とレオの二人は、ひたすら敵のHPを削ることに専念する。


「おりゃ! [突き]!」


「[連撃]!」


〈ドゴォッ!〉〈ガツッガツッ!〉激しい効果音と共に、アーツが次々と急所に命中する。


 レオは戦闘力が上がり、速さ特化のスタイルにも慣れてきて、その動きはとても軽快だ。最初は失敗続きだった【空歩】も、今は楽々使いこなせるようになっている。


 エリアボスは、巨体なのにその動きは速い。


 だけど今の俺たちは無敵。


 それをいいことに、頭上から飛びかかってくる敵の真下にあえて潜り込んで、間近に迫った喉元を目がけてアーツを放つ。


「[衝撃波]!」


 跳躍の最中に下からあおられた敵が、大きくバランスを崩した。


「[突き]!」


 そこへレオが追撃。レオとのこうした連携も、随分と上手くなったもんだ。


 守備力には不安はなかった。……というか、ぶっちゃけ過剰なくらいだ。だがいかんせん、攻撃力が大幅に不足している。


 そのせいで、1時間近くにわたる持久戦が続いた。だがとうとう、敵のHPを最後まで削りきり、エリアボス撃破に成功する。


《エリアボス「瑠璃魔獅子ヴァイドゥーリャ」の初回討伐に成功しました。討伐報酬があります》


「やった———っ!」


「やったな!」


「お疲れ様」


 俺たちの粘り勝ちだ。……でもさすがに疲れた。身体的にというよりも精神的にね。


 報酬は気になるけど、チェックは後回し。早く街に入って休みたい。


《ポーン!》


 来た。ワールドアナウンス。当然、エリア解放のだろう。


《 ISAOをご利用中の皆様にお知らせします。


 カティミア平原のエリアボス〈瑠璃魔獅子ヴァイドゥーリャ〉が討伐されました。

 討伐者はチーム「ソトノセカイカラ」です。


 これにより「神聖カティミア教国」の一部マップ及び「尖塔の街キノイセック」が解放されました。


 今回の解放を記念し、ユーザーの皆様に、以下のアイテムをプレゼント致します。


 ・「カティミア川 」遊覧船乗船券 1枚


 ・「尖塔の街キノイセック」展望塔利用券 1枚


 ・「花の里マナキア」香料生産施設体験チケット 1枚


 ・「教都カティミア」 大聖堂観覧チケット1枚


 引き続きISAOをご利用下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。》



 なんかいろいろ貰えたな。街の名前が幾つも出てきたから、これは後で再チェックしておかないと。


 今回は、討伐者の秘匿設定をあえてOFFにしている。討伐チーム名がアナウンスされたのはそのせい。


 なんのためかって? それはもちろん、現在孤立しているISAOエリアにいる人たちに、外の世界があるということを気づいて欲しい……そう願ってだ。


 チーム名をどうするか?


 それについては、俺たちも考えに考えた。具体的にユーザー名を出して伝えるべきか、それともメッセージを伝えた方がいいのかって。


 実際に数パターンの文面を作ってみたけど、これがなかなか難しい。というのも、文字数制限があるからだ。カタカナで8文字。これって、具体的なメッセージを載せるには、かなり少ない。


 ユキムラモドル、ユキムラキカン、ユキムラカエル……etc.


 最初は、ISAOの古参プレイヤーである俺のユーザー名を使ったものを作ってみた。だけど、これだとどこから戻るのか分からないし、俺とユーザー名が被っているプレイヤーがいたら誤解される。それに、俺の知り合い(あまり多くない)が、現在のISAO世界にいるかどうかが不明。だから却下。


 そして結局選んだのがこれ。


「ソトノセカイカラ」


 これも中途半端な言葉かもしれない。だけど、勘のいい人は察してくれるんじゃないか。最終的に、三人の意見が一致した。


 ……まあ、ダメ元だ。



*—— エリアボス「瑠璃魔獅子ヴァイドゥーリャ」討伐報酬 (個人)——*


 ・「瑠璃魔獅子」素材召喚券5


 素材召喚券{瑠璃魔獅子 鬣1/毒針1/皮・肉・骨・肝1/ 羽根2/魔石1}からランダムで召喚


 ・「瑠璃魔獅子」武器/防具/アクセサリ・ランダム召喚券:1枚 ※以下からランダムで召喚。


 瑠璃魔獅子の軽鎧

 瑠璃魔獅子の兜

 瑠璃魔獅子の火炎槍

 瑠璃魔獅子の首飾り

 瑠璃魔獅子の籠手

 瑠璃魔獅子の指輪

 瑠璃魔獅子の跳躍ブーツ

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