第2章 模索

11 出立の日


 部屋に戻ったところで……寝る前に報酬を片付けてしまうか。


 イベント報酬はメールボックスに届いていた。メール送信ボタンは依然消えたままなのに、受信ボックスからの受け取りはできるようだ。


 防衛戦の後にレオとパーティを組んだら、パーティ内限定の念話チャットが使えるようになっていた。他の機能もどんどん復活すればいいのに。


《防衛戦「水棲人の襲来」イベント報酬。以下の報酬を「亜空間収納」に配布しましたので、ご確認下さい。


 ・50,000Y

 ・回復薬10本

 ・魔法薬5本

 ・【水妖の三叉戟】

 ・【水妖の指輪】

 ・★3以上確定シルバーチケット 1

 ・★3以上確定ゴールドチケット 1

 ・RAID勝利報酬チケット 1

 ・RAIDランクインチケット 1


 ……装備が2つ、チケットが4枚。


 ・【水妖の三叉戟】[槍]★★ 水属性(小)+ 3つの穂を有する戟


 ・【水妖の指輪 】[指装備]★★ 耐水性(小)+ 水中移動補助(小)+ 水中呼吸補助+


 三叉戟は槍の一種だけど、通常の槍とはかなり勝手が違う上にレアリティも低い。これは、予備として使うようかも。指輪は耐水性UPだから早速装備しておく。


 チケットも、人目につくのはマズいから、ここで引いてしまおう。


 ・★3以上確定シルバーチケット

 →【歴戦の鉾槍ハルバート】[槍]★★★ 重量軽減(小)+


 鉾槍だって。これも槍の一種だけど、これまた扱いにくそうだ。とりあえず亜空間収納行きで。

 

 ・★3以上確定ゴールドチケット

 →【飛竜皮革のロングコート】[外装備]★★★ [色:シトロングリーン]空間制御(小)+


 色は……まあ置いておいて、性能的には当たりかな。レアリティは普通だけど、付与効果が俺向きなのがいい。【革のマント】と入れ替えておこう。


 続けて残りの2枚を引く。


 ・RAID勝利報酬チケット

 →【猫足のロングブーツ】[脚装備]★★★★ 消音(中)+ 衝撃吸収(中)+ 跳躍(小)+


 ・RAIDランクインチケット

 →【龍鱗のネックガード】[首装備]★★★★★ [色: アッシュグリーン]斬撃・刺突・衝撃吸収(中)+ 魔法防御力(小)+


 どちらもレアリティが高くて付与効果もいい。靴も当たり。やはりランクイン報酬なだけのことはあるね。


 装備の入れ替え完了。これでよしと。


 外した装備は今後も物々交換に使えそうだから、売却しないで亜空間収納に入れて取っておくことにした。じゃあ明日に備えて寝るか。


 ◇


 夜が明ける少し前に目が覚めた。


 何か夢を見ていた気がする……でもその内容は覚えていない。懐かしい気持ちだけが漠然と残っていた。窓の外は、もう薄っすらと明るくなってきている。このまま起きるか。


 階下の食堂へ降りて行くと、既にレオがテーブルで待っていた。


「源次郎、おはよう!」


「おはよう、レオ。早いな」


「いよいよ出発だからね。 源次郎、装備が随分と変わってる。それ、チケットで出たやつ?」


「ああ、コートとブーツ、それにネックガードが出た」


「そのコート、軍服みたいでカッコイイけど、ますますド派手になったね」


 ただでさえ目を引くオレンジ色の髪に、シトロングリーンのこのロングコートは確かに目立つ。


「現状、見かけより性能を取らざるを得ないからな。そういうレオも、かなり目立つぞ」


 俺と同じくSR種族であり、種族固有カラーを持つレオは、髪も虹彩も鮮やかなウルトラマリンカラーだ。


 その上、まるで青龍族に誂えたかのような色彩の、金色の装飾がついた青い課金装備で全身を固めていた。別の意味で、俺よりも激しく目を引いていることは間違いない。


 *


 朝食後、そのまま街を出て海岸沿いを北上する。この辺りは1度通ったルートだから、地形や様子が分かっている。そこがとても大事。だって分かっちゃうから。


 ……待ち伏せするのに丁度いい場所とかね! 


「レオ!」

「うん!」


 ビュン! 耳を掠める風切り音が聞こえ、上方の死角から矢が飛んできた。


 襲撃は、見通しが悪い、こんもりとした林の脇を通り抜けるときに起こった。でもこんな事態はとっくに想定済みで、難なく避けて態勢を整える。


 隠れているのは……4人だな。


 木の枝上に射手が2人。木立の陰にも2人いる。レオに念話チャットで状況を知らせ、下の2人はレオに任せて、俺は木の上の奴らを相手にすることにした。


 今のはどう考えても、一撃必殺で急所を狙っていた。これで話し合いの余地は消えたわけだ。当然、命を狙われて容赦するつもりはない。


 揃って街の教会に死に戻ってもらおうじゃないか。


 レオは既に、盾を構えて防御態勢に入っている。こうなるとレオは固いから安心だ。林に向かってひと蹴り跳躍しながら、利き腕を前に振り切って鋭い飛斬を放った。


 ザクッ! 肉を切る鈍い効果音が鳴る。ゲームの時は随分とオーバーな音を立てると思ったけど、こうなると分かりやすくていい。今のはかなり深く入ったはず。


 もう1人!


 身体に捻りを加え空を蹴る。即座に方向転換して、再び腕を振り切った。


 ズザザッ! ドンッ!


 バランスを崩して、続けざまに枝から敵2人が落下してきた。抗う余地なんて与えない。縮地で踏み込み、体勢を崩している相手に止めをさしにいく。身体には厚い鎧を着ているから、無防備な喉元を狙った。


 立て続けに頸部を切り裂き、射手2人が光になるのを確かめて、すぐに反転。レオと対峙している剣士の背中に、上段から重い一撃を叩き込んだ。


「もう1人は?」

「手傷は負わせたけど、ちょっと前に逃げちゃった。追いかける?」

「いや。先を急ごう。新手が来ても嫌だしな」


 困ったことに、トレハンCWでは、ISAOでは不可能だったPKができる。そしてPKによる強奪も、システム上「あり」だった。


 課金装備をPKで失うなんて、俺的にはおかしく思う。でも、ここではそれが当たり前の感覚らしい。つくづく殺伐としたゲームだ。


 当然のことながら、救済策も用意されている。これまた課金アイテムになるけど「星の守り」というアイテムを装備していると、PKされてもロストするのを防げるそうだ……そう、これまでは。


 いやらしい仕様で、「星の守り」は消費アイテムだった。つまり使い捨てで、1回PKにあうと消えて無くなってしまう。当然レオも持っているが、課金パック購入の際のオマケとして貰ったものだけなので、所有数が限られている。


 課金システムがなくなったこの世界では、「星の守り」はもう手に入らない。以前はオマケでついてきたものが、非常に貴重なアイテムになっていた。


「なあ、これって俺たちもPKになるの?」


「どうかな? 先に襲ってきたのは向こうだから、仕様的には正当防衛だと思う。……うん、大丈夫そうだ。ステータスには、特に悪い変化は起きていない。……レオ、大丈夫か?」


 少しレオの様子が変だ。やけに不安そうな表情をしている。


「うん。なあ……消えていった奴らって、ちゃんと死に戻るんだよな?」


 なるほど。心配していたのはそこか。俺だって人殺しになるのは御免だから、そこはしっかり確認済みだ。


「ああ。死に戻りシステムは、この世界でも機能している。そこは既に検証が終わっているから、安心していい。奴らが安易に略奪を企んだのも、そのせいだと思うよ」


 そして奴らは「星の守り」もしっかり所持していたようだ。なぜ分かったのかというと、返り討ちした際に、なんのドロップもなかったから。まあこれで、貴重な「星の守り」をひとつずつ失っただろうけど。


「そっか、ならいいや。奴ら自業自得だよな。でもまさか、本当に待ち伏せしてるとは思わなかった」


 あれだけ課金装備で目立てば、PKホイホイになるんだけどね。レオにとっては普通の装備らしくて、その辺りの認識が薄い。


「レオ、おそらく今後もこういったことは起こりうる。油断をすれば奪われる。用心は欠かさないようにしよう」


「うん、分かった」


 素直なんだけどな。こういった価値感は、そう変わるものじゃない。本当に分かるまで時間がかかりそうだ。


「結構時間を食ったな。じゃあ行こうか」


「おうっ!」

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