38 伝説

 

 金光山から引き上げ、一旦レプティルの街ヘ戻った。


「レオ、レオの血脈覚醒クエストについて、もう一度この街を調べてみないか?」


 金光山のクエストをクリアした影響で、新たな情報が増えているかもしれない。それに、まだ調べ残している場所もある。


「そうだね。龍神湖はここから結構遠いみたいだし、行ったり来たりするのもなんだよな。よく調べてから出発するか」


 幸いギルドの資料室[中]と[上]には、以前ギルドランクがシルバー、そしてゴールドに上がったときにもらったキーで入ることができる。


「じゃあレオ、俺は今日はギルドの資料室をさらってみる。昼には食堂に降りるから、待ち合わせは食堂で」


「うん、了解。悪いな。面倒な調べ物を任せちゃって」


「気にするな。こういうのはISAOで散々やったから、案外慣れている。それに、役割分担した方が効率がいいしな」


「ありがとう。じゃあ行ってくる」


 そう言って、レオが元気に飛び出して行った。


 町の住民からの聞き取りは、当事者であるレオが直接聞いた方がヒントが出て来やすいかもしれない。そう考えて、レオが街中、俺が資料を調べることにした。


 さて、早速取り掛かろうか。


 *


「レプティルの歴史と地理」


〈西にあるスカレ火山が大噴火を起こし、噴煙がこの街まで届いた。火山の麓には、龍人族の街がある。以前は交易を行っていたが、その大噴火以来、龍人族の街と連絡が途絶えた。〉


 スカレ火山。位置的には磐梯山ばんだいさんになるのか?


〈噴火がおさまった後に、街から人を派遣した。調査の結果、龍人族の街は見当たらず、火山の麓には、火砕流の堆積物で川がせき止められてできた、大きな湖が広がっていた。〉


 だったらこれは猪苗代湖いなわしろこになりそうだ。どこまでゲームによる侵食が進んでいるかは分からないが。リアルに照らし合わせるとそうなる。


〈湖の中央には、以前は高台だった場所が島として残されており、そこには龍神を祀る祠があった。〉


 いろいろ資料をひっくり返して調べてみたが、今のところ出てきたのはこれらの情報だけだった。火山の噴火によって、龍人族の街が消えたらしいということは分かったが、肝心のところが曖昧だ。


「源次郎、ただいま」


「お帰り、レオ。昼飯を食べながら、お互いに分かったことを擦り合わせしよう」


「うん。俺は結構面白い話が聞けたよ」


 *


「龍神湖の底に街がある?」


「そうらしいよ。晴れた日に舟を出して湖に出ると、湖底に街が透けて見えることがあるんだって」


 それなら資料の記述とも合致する。


「俺が調べた資料では、火山の噴火前にあった龍人族の街が、噴火後にはなくなっていて湖になっていたとあった。その遺跡がまだ湖の底に残っているということか」


「それだけじゃないみたい」


「というと?」


「龍神湖には、竜宮伝説っていうのがあるんだって」


「竜宮伝説? 浦島太郎のあれか?」


「浦島太郎は出てこなかった。竜宮っていうのは、龍人族の魂が戻るところなんだって。いわゆる死後の世界っていうの? 湖のどこかに、現世と竜宮を繋いでいる場所があって、そこに近づくと舟が沈んで湖に吸い込まれてしまうらしいよ」


「吸い込まれた舟はどうなるんだ?」


「それが分からない。気になって聞き返してみたけど、そのあとどうなったかっていう話は出てこなかったんだ」


 場所は分かったが、そこへの行き方が分からないのか。言葉通りに受け取ると舟が要りそうだが。


「それは……もうちょっと情報が欲しいかな?」


「だよね」


「俺の方も、まだ調べ終わっていない資料があるから、今日は午後も情報収集を続けよう」


「うん。俺も街中をいろいろ回ってみるよ」


 結局、午後もこれといった真新しい話は得られなかった。どこかで舟を入手できるのかと考え、改めて聞き込みをしてみたが、残念ながら舟に関する情報は全く出てきていない。


〈湖で舟が沈みそうになった時には、奉納物を湖に投げ込んで祈ると通してくれる。だから、龍神湖を舟で渡るときは、必ず奉納物を積んでいくように〉


 というのが、唯一得られた追加情報だ。湖の中に入りたいのだから不要かもしれないが、一応奉納物とやらも用意していくか。


「奉納物は、何がいいんだ?」


「酒とか、米俵とか、そういうものらしいよ」


 米俵?


「ここには米があるのか?」


 今まで行った街にはなかった食材だ。


「うん。醤油や味噌に、味醂みたいな調味料も売ってる」


 マジか。


「それは是非仕入れたいな」


「そういうと思って、かなり買いだめしておいた。あとでウサギに料理してもらおうよ」


 その日の夕食は、街の外でレオのキャンプセットを広げ、久しぶりの和食を堪能した。親子丼に蟹の味噌汁。芋の煮っ転がし。


 まさか、ここに来て和食が食べられるなんて、思ってもみなかった。

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