第5話 おっさんのスキルと対称的な光景

 3人の魔術師ローブ姿の男達が、ゼンに分厚い本を見せて何やら話し込み始めた。


 やはりあの3人はゼンの部下ですか。ゼンに命じられて何かを調べていたんでしょう。


「王よ。発言をお許しください」


 ゼンが1歩前に出ると、王に向かい発言の許可を求めた。


 王が一度頷いたのを確認すると、ゼンは本を片手にホーエンの前へと歩みでた。


「勇者殿と1名のスキルについての報告でございます。」


 分かりやすいですね。

 勇者達ではなく、私は1名となりましたか。隣の誠道くんの顔が一層緩んでいますね。差がつくことが、嬉しくて仕方がないのでしょう。


「続けよ」


「はっ。まずは聖剣のスキルでございますが、これは歴代の勇者と同じと見て良いでしょう。聖剣を創造し、聖剣を支配し、聖剣を装備中は、スキルに剣術、身体能力上昇、魔力増加、状態異常耐性をもたらします。まさに勇者として相応しいスキルでしょう」


「凄えじゃんか。俺にふさわしいスキルのようだな。なぁ?1名のスキルはどうなんだよ」


 随分いやらしい目付きを向けますね。


 強者ならば嫌味など言わずに、どんと構えていた方が、らしいと思うんですけど。


「我が弟子達に、中央図書にて調べさせましたが、『融合』というスキルについて殆ど記載はございませんでした。しかし説明の記載によれば、薬草と水にて、ポーションの作成が可能と書いてございました。他にも記載はありますが、まずはこの素材でポーションを作らせるのが早いでしょう。」


 中央図書館とは、正式名称『アルグレント王国国立中央図書館』といい。この王城の一角にある図書館である。


 その書籍数は莫大で、建国以来の本を収めている。


 関係者以外立ち入り禁止の禁書庫に行けば、知り得る限りのスキルの情報も調べることができる。そして、ゼンの持つ本。それこそがありとあらゆるスキルの名と効果を記したスキル大全集たる本であった。


 そういうとゼンは、弟子の一人を呼び、薬草らしき植物と、三角フラスコに入った水を受け取っていた。


「さあタクトよ。この素材にてポーションを作成するのだ」


 既に呼び捨てとなった事で、これから起こる事も碌でも無い事だと容易に想像できてしまう。


 半ば強引に渡された薬草は、見るからに品質が悪く萎びていた。


 ゲームなら薬草の品質は、ポーションの出来に大きく関わってくると思うのですが。


 しかし、その薬草を左手に、水を右手で受け取ると、なぜだか分からないが、なんとなくこの2つを『融合』出来るような気がした。


「『融合』」


 そう口にした瞬間。2つの素材が不思議な空間に引き込まれ渦を巻いた。

 そして渦が消えると、薄っすらと緑色した液体が、三角フラスコの中に溜まっていた。


「うっ……」


 参りましたねこれは…酷い目眩がします。それに倦怠感も……。

『融合』のせいでしょうか。これは立っているのも厳しいですね。


 強い倦怠感をおぼえ、片膝をつくと、それを確認したゼンがニヤリと目を細めた。


「ご覧ください。これこそが説明に記載のあった内容そのものでございます。見たところこれは《低級ポーション》。

 駆け出しの錬金術師や薬師見習いの小遣い稼ぎ兼、練習に作られるレベルのポーションでございます。それをたった一つ作っただけでこの有様。記載には『融合』は魔力消費が非常に大きく、時間こそ一瞬で作れるが数は作れず、使い物にならない。そう記載がございました」


 周囲からの嘲笑が、意識が朦朧とするなか聞こえてくる。


 どうやら、彼らの思った通りの展開になったようですね。情けないですねたった1回の力の行使でここまでとは……。


「情けねえ。おいっ!こいつの事は、どうでもいいんだ。それより俺の力はどうなんだ」


 まるで、与えられた玩具で遊ぶ事を我慢できない子供のように、浮かれていますね。


 残念ですが、楽しそうな顔をしているのでしょうけど、わたしにはその顔を見る余裕も、ツッコミを入れる余裕もありませんよ。


 そういう誠道くんに、騎士団長ホーエンが歩み寄り、何かを説明し先程の位置に戻った。


「なるほどな。こうか?『聖剣』創成!」


 先程よりもましになった体を起こすと、スキル発動の詠唱の直後、誠道くんの目の前に輝く剣が創造された。

 そして何かを確かめるように、右横にむけ剣を持っている右腕を振り下ろした。


 ガオンッ!!!


 たった一振り、たった一振りで横に並ぶ兵士の脇を抜け、壁を破壊した。


「… … … … …ぉおお。おおぉ?おおーーーーーーーー!」


 歓声


 それは全ての者が一斉にあげた。


 あまりにも一瞬の出来事に、何をしたのか理解が追いつかない者達が、壁の破壊をキッカケに、そのあまりにも強力な力に一斉に酔いしれ、声をあげたのだ。


 それはあまりにも対称的な光景だった。


 かたや攻撃力どころか、生産職もままならず。嘲笑の的に

 かたや勇者証明の一撃、戦闘職の最上位の技で賞賛の的に


 これが今現在の、置かれた立場の違い。


 そして、役立たずへの冷たく凍えるような視線は、更に強くなる。


 それは異世界召喚術という、莫大な魔力に耐えきれず命を散らせた魔導師達の多大な犠牲を払って召喚した勇者。


 しかしその内の1人は、まるで本物の勇者に力を吸われてしまったかのように、最低の能力値だったのだ。


 それは怒って当然なんでしょうね。まぁあくまでも向こうの理屈では……ですけどね。こっちは勝手に呼ばれてるわけですから。


 弱い奴はいらない。


 勇者は一人で十分。


 そう所々から聞こえてきます。ないやら怪しい雰囲気ですね。


 さて、どうやって出て行きましょうか。

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