第59話おっさんの懸念と勇者ヒジリ
首元に金の装飾品をつけたローブで着飾った大柄なスケルトン。その腕にも幾つもの金の腕輪を着け、真っ赤な魔石のついた杖を振り上げリッチが姿を現した。
そしてその顔は怒りに満ちていた。
「おっ。おっ。お。誰だ!誰だ誰だ誰だー!我をこんなみずぼらしい姿で復活させたのは!貴様か!貴様かーーー!」
発狂するように発せられた言葉から、どうやら中途半端な状態。不完全な姿で何者かに復活させられたようだ。
そしてリッチがさらに叫びながら怒りに任せ杖を振るう。その度に起こる爆発で騎士、冒険者が吹き飛ばされていく。
「まずいですね……。」
何が出来るかわからない。
が勝手に体が前へと進もうとした瞬間。後ろから強い衝撃を受けた。
「うぐっ」
背中を蹴られた?
「はっははは。相変わらず鈍臭いな。それにその格好。城を出て行った時と殆ど変わっていないじゃないか。相変わらず棒遊びかよ。」
起き上がり見上げると、そこにいたのは遠目に見ていた最も会いたく無い人物。
豪華な鎧に身を包み、聖剣をその手に持ったセイドウ ヒジリがその聖剣の切先をこちらに向けていた。
「セイド……」
セイドウくんと呼ぼうとしたが、鼻先に突きつけられた剣が、違うと横に振られる。
「ヒジリさん。随分遅い登場ですね」
第二騎士団から遅れて1時間。
城からはセイドウくんの足なら10分もかからないでしょう。
「くっく。主役は遅れて登場するものだろ?俺の為に雑魚をどかすのが駒の仕事だ。あんたも含めてな」
「そうですね。勇者様ですからね」
「わかってるじゃないか。なら、一見習い冒険者にすぎないのあんたが、何邪魔しようとしてるんだ?ここは俺の見せ場だろう!」
セイドウくんは、蔑むような視線を変わらず向け、肩に蹴りを入れ言葉を続ける。
しかし、この遅い登場と言い、逆に第二騎士団の到着の速さといい。何か違和感がありますね。
ずしりとした重い肩の痛みに耐え彼に顔を向けた。
「皆さんが頑張っているのに、随分な事を……まるでヒジリさんの為に用意された舞台かのように言うのですね。」
「はっ。お前がそんな事を気にする必要はねえよ。おっ盛り上がりも最高潮。誰も近付けなくていい感じで絶望に染まってんな。こちとら訓練 訓練 訓練でストレスが溜まってんだよ!発散させて貰うぜ!」
リッチに苦戦する騎士達をニヤリと笑う。
その瞬間、土埃と共にセイドウくんの姿が消えた。
「皆んな。よく持ちこたえた!こいつは俺が相手をする!」
颯爽と登場した白い鎧に身を包む青年が、高々と聖剣を掲げ宣言する。
そして聖剣を消し、両手をリッチに向けると同時に
「ハハハハハ!死ね死ね死ね死ね!」
火。土。風。水の属性の魔法が乱舞する。
そしてその光の束がリッチに向かい爆発とともに轟音をあげた。
「あのクソババアめ!俺様が魔法を使いこなせてねぇなんて抜かしやがって!」
なにかを叫びながら、魔法を放ち続けるセイドウくんの顔が喜びに震える。
しかし噴煙が落ち着くと、セイドウくんの余裕が一変した。
「カカカカカ。効かぬ。効かぬぞ。我は魔導を極めた存在なり。このような幼稚な技で我は死なぬ。」
遠くにいた騎士や冒険者達には聞こえなかっただろう。
しかし、近くにいた私と、セイドウくんには聞こえていた。
まさかのまったくのノーダメージですね。
えっ?いいんですかそれで?
横を見れば怒りに震えたセイドウくんが再び聖剣を出現させ、その剣を強く握りしめていた。
「幼稚?この俺が幼稚?!お前もあのクソババアのような事を言うんだな…めんどくせぇ…めんどくせえよ…この俺様に舐めた口をきくんじゃねー!!」
そしてブチ切れ叫ぶと、聖剣を出現させた能力で様々な勇者効果を身に纏わせ、フッと姿を消した。
「な に 。ぐおぉーーーー」
そしてその瞬間。
その聖剣は深々とリッチの胸に突き刺さり、心臓部にあった魔石を破壊していた。
魔法がダメなら物理で押す。それを地でいきますか。セイドウくんあなたって人は……。
それにしてもクソババアとは……。まさかですよね。
「なっな に も の……私は不滅 だ」
その言葉を残し、リッチのローブは塵のようになり空へと舞い散り、骨が四方へと弾け飛んだ。
「スケルトンのボス。リッチをこの私!聖剣の担い手勇者ヒジリ セイドウが討ち取ったぞ!」
「「「「「「「「おおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」
墓地にこだまする歓声。
その後騎士団によって祭り上げられたセイドウくんと士気が上がった騎士団や冒険者によって、あっという間にスケルトン達は下水のスケルトンも含め、ほとんどが討伐された。
そして聖剣を手にし、スケルトンとリッチを苦もなく討伐してみせた若き英雄を、人々はこう呼んだ。
“勇者 ヒジリ”と
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