第11話おっさんの魔力と腹パン

「タクトよ。ヌシはどう言うわけか、魔力的な穴が殆ど塞がっておるのよ。一般人だってもう少し開いてるよ。今はそれを無理矢理こじ開けて魔力を取り出して、融合スキルに使っている感じじゃの。恐ろしく非効率極まりない状態じゃ。魔力のない世界からきたヌシら異世界人は普通はある程度こちらに対応する形で転移する。しかしヌシは前のまま。つまりは魔法の概念のない一般人じゃ。当然輝度は低い。だからこじ開ける。無理矢理の」


「えっと……。あまり痛いのは苦手ですよ。」


 痛くしないでね……。なんて冗談は通じそうにないですからね。ここは真面目に対応します。


 師匠曰く、転移時に何かがあって魔力の穴が塞がったまま開かなかったらしい。どうやら私の基礎能力は誠道くんに吸収されたのではなく、出てこれていない状態のようですね。


 彼は逆に転移の影響で魔力の穴がいい感じで開いて順応したみたいです。


 せっかく開けてくれても、まあそれでも微々たるものでしょうけど。0よりはマシです。はい。


「大丈夫じゃよ。まあやってみればわかる。そらそこに立ちな。さっきまでの私のようにね」


 そう言われ、肩幅に足を開き手を真横に上げる。“大”のポーズを作る。


「これでいいですか?」


「うむ。良いじゃろう。今から私の魔力を流し込む。それを感じ、似たような物が体内にないか探すのじゃ。いくぞ」


 師匠の薄っすらと光る右手を、私の心臓部分に当てると師匠の右手に溜まっていた魔力が胸の中へ、心臓に向かい入ってくる


椅子に乗った師匠の頭頂部にはえる3本のアホ毛がなんとも可愛らしい。


「おぉ。温かいですね。それに柔らかくて優しい感じ。まるで師匠みたいですね。……師匠?」


「おっおっおヌシは何を馬鹿 馬鹿な事を言っておるのじゃ。ヌシとは会った。会ったばかりじゃぞ!さっさと自分の魔力を探さんか馬鹿者め」


 急に顔を真っ赤に染めた師匠がうろたえ始めると、それに応じて右手の魔力がどんどん高まります。


「ちょちょちょっと師匠。落ち着いて落ち着いてください」


 あまりにも多くの師匠の魔力が流れ込み、私の体内を駆け巡る。


 凄いですね。なんだか体が軽く感じます。

 しかし、自分のというと…………少しも分からないです。


 世の主人公のように「分かるぞ!これが!これが俺の魔力か!」とか言えれば格好いいですが……


「ここっ!!」


「ぐふっおぅ!!」

 急にへその少し上辺りを殴られ肺に溜まっていた空気が、一斉に口から出て行く。


 なっ何をするんですか!。まったく……?えっ?


「はっはっは。そこで魔力が作られんのさ。ちなみに今のはそこに溜まっていた魔力を散らせたんだよ。そこは溜まりやすいからね。さあそんな悠長にしてて良いのかの?」


「何を言っているのでしょうか師匠は……おっおおお熱い!熱いです。今突かれたところが急に熱くなってきました。これがこれが私の魔力ですか!凄いですね。魂が、魂が、燃えているかのようですね。って熱っ!熱っ!って本当に熱いんですけど!」


 熱いです。熱いですよ。これはこのままだとマズイんじゃないでしょうか。めっちゃ燃えているように視えるんですけど!


「さあさあ。早くそれを回すんだよ。全身にね。そのままだと死ぬよ。燃え尽きて死ぬんだよ。終わった頃には真っ白さ!言ったろ普通のやり方じゃヌシの穴は閉じたまんまなんだよ。今それを無理矢理こじ開けてんのさ。まぁ結構な力で叩いたからね。ビックリして吹き出してんのさ。」


 なんて事してくれてんでしょう。このお師匠様は。


 仕方ありませんね。激しく燃えるような魔力に全ての意識を向ける。取り敢えずは心臓に向け、上へと動かすため力を込めます。


「ぬぬぬぬぬ!」


 おぉ少し上に動きましたね。車と一緒で最初のスタートにかなりの力が必要でしたが、一旦進めばそれなりのスピードは維持できそうです。


 魔力の塊を上へ上へと移動させます。


「おっそいねぇ。でもそのまま一定の速さで体内を循環させるのが、『魔術の基本』の一つ、「魔術循環』さ。いいかい。これからゆっくりでもいい出来る限り、早く 多く 正確にじゃ。もう腕をおろしてやっていいからね。」


「はい!」


 熱い塊をゆっくりと心臓に向かい動かします。


「そこから心臓まで持っていきそこから……ん?そう言えばちょいと右手を見せな」


 魔力の移動時に右手を差し出せるわけもなく、結局師匠は勝手に右手側に移動し何かを確認した。


「ん。中指の指紋が右巻。ヌシは右回転型のようだね。それならば心臓から、右手 右脚 左脚 左手 頭 で心臓、そしてスタート地点の腹に戻すんだ。心臓は魔力の増幅器だからね、2回通すのさ。」


 ゆっくりと、言われた通りの道順で塊を動かす。いや動かそうと気張る……。


「ぐぬぬぬぬ。なか な か 大変 です…ね。そう いえば なぜ回転のほ う こうは指紋 な ん ですか?つむじ じゃ……?」


「何言ってんだい。こんな時に。つむじなんて、髪なかったら調べられないじゃないか。それにつむじで分かるのは、右脳型か左脳型かであり魔法とは関係なかったりする分野の調べ方さね。」


 余計な事を考えてないで、全力で動かしな。という師匠の言葉通り、全神経を魔力の塊に向け少しずつ動かしていく。


 ズズー ズズー と言った感じでしょうかね。

 止まりはしないが、スムーズでもない。そんな動きのまま1時間程経過し、やっと左手に来ました。あと少しですね。左脚からの移動が一番きつかったですね。

 師匠曰く上だの下だのという概念なんかないという話でしたが、固定概念でしょうね。どうも下から上が重い感じがしてしまいます。


「ぶはーー。終わったーーーー。」


 バタリと床に倒れ、大の字になる。


 2時間近くかけて、やっと1周回すことに成功した。


「ん。ご苦労さんだね。頑張ったじゃないか。」


 そう言いながら頭の側に座り、優しく前髪辺りを撫でる師匠。


 頑張った甲斐がありましたね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る