第46話おっさんの異世界召喚とスキルが告げた事

 師匠の家の物置へと周囲の背景が変わる。

 想像したような転移酔いなどはなく、あっさりとした転移だった。


 ガチャ


「おや。やっぱりタクトだったのかい。どうしたんだい?」


 転移をすると師匠に伝わると聞いていたが、すぐに師匠が物置へと入ってきた。

 今この転移を使うのは私しかいないらしいですからね。師匠もわかっていたみたいです。


「お邪魔します。師匠。変わらず元気そうで」


 リビングに通されると相変わらず様々な薬草の香りが漂っている。

 この家で過ごした約2週間を思い出し、心の中でただいまと呟いていた。


「さて。ヌシが冒険者になったとこまでは聞いておる。して、転移リングを使ってまでここにきたのは何かあったのかい?」


 そもそもこの転移リングは、リングに蓄えられている魔力を利用して時空魔法を行使している。その為一度使うとしばらく使うことができない。このリングを使うということは緊急な時や、それなりの理由がある時と念を押されていた。


「スキルスクロールを手に入れましたので、どんなものなのかと、使って良いものなのかを確認したく。師匠はスキルブックの使用を嫌っていたので。」


「なんだい。覚えていたのかい。感心だね。で?どんなスクロールを手に入れたんだい?」


「はい。土属性と生活魔法のスキルスクロールですね。」


 2本のスキルスクロールをテーブルの上に置く。


「また。何でこんなマイナーな効果のスクロールを?それも2本も」


 聞けば土属性も生活魔法も冒険者には人気がないらしい。生活魔法は水生成や着火、乾燥など冒険者に役立つ魔法が使えるようになるが、適正者が少なく値段の割にギャンブル性が高いと人気が急降下したらしい。


 ちなみに土属性の人気がないのは、地味の一言に尽きるらしい。冒険者は派手付きですからね。

 私は好きですよ。汎用性が広いですからね。


 とりあえずこの家を出てから、ギルドでの事件とその顛末を説明する。

 結構大変だったんですよ!


「あんたねぇ。あんたの実力なら落ち着いて身体強化していれば、ゴブリンなんて楽勝な相手だよ。環境や魔物に飲まれたんだろうね。全く。はぁこれだから実戦経験のない座学戦士はダメなんだよ。」


 怒られました……。いや頑張ったんですよ私。


 それに座学戦士って……。通販空手みたいなものですかね。私だって在籍はしてたんですよ。幽霊部員でしたが……。


「ぐっ……」


「なんだい。大の大人がその顔は!まあ良い。ステータスカードを見せてごらん。どのくらい成長したのか見せてごらん」


「ググ。ステータスカード!!」


 名前 タクト・マミヤ

 年齢 17

 スキル 融合 採取Lv2 魔法操作Lv3 棒術Lv1 殺傷耐性Lv1 ステータスカード

 輝度 43

 残高 291,500T

 その他

 冒険者 F

 ∈ S


「ほー。魔法操作はやってるみたいだね。それにしてもLv3?それに殺傷耐性だって?…………しまったね…そういう事かい。」


 ステータスカードを確認していた師匠が一瞬考え込み。テーブルを両手で叩く。


「タクトや。本当にすまない!」


 そのまま頭を下げる師匠。小さな幼女のごめんなさいは、それだけで尋常じゃない背徳感なんですが!


「ちょちょっとどういう事ですか?師匠!説明を説明をしてください」


「うむ。そうだな。これだけ師匠面しておいて、こんな大事な事を忘れるとはね。要はタクトが異世界人という事を私自身気にしてなさすぎたんだよ。」


 慌てて顔を上げてもらうと、師匠の顔が本当に悔しそうに歪んでいた。


「何がいけないのですか?師匠は異世界人の私が、外でも生活できるようにしてくれたじゃないですか」


「そう言う事じゃないのじゃ。よいか?『殺傷耐性』とはこの世界の人間には付かぬスキルなのだ。それがどんな殺人鬼にだってね。名前から想像するようなそういうスキルじゃないからじゃ。これが付いたと言うことよりも付いていなかったのが問題なんじゃがな。」


 師匠は『殺傷耐性』を最初は知らなかった。

 しかしスキルに『鑑定』をかけ、その能力をみてある事を思い出してしまった。


【殺傷耐性】

 戦闘、暴力行為時において平和な地から来た者の力を十全に発揮させる。


 これが師匠の見た鑑定結果であった。


 異世界人と現地人の最大の違い。

 異世界には魔物が存在しない。争いや殺し合いが日常的でない。平和な世の中から召喚された異世界人は、殺すこと、傷つける事を本来は異常に抵抗する。


 それはそうだろ。法治国家の元。そう言う教育を、生まれてから常にされていたのだから。

 同時に、現地人は違う。魔物も魔物に襲われることも、人から襲われることも日常的に起こりうるのだ。つまりそのような物に対しナチュラルに耐性をもっている。スキルには表示されないスキル外スキルを持っているのだ。


 それに対し異世界人は持っていない。

 だからこそ、この世界では殺傷沙汰に対しマイナスなシステムが働く。


【力を十全に発揮させる】決して向上させるのではないのだ。スキルがあって普通の状態になるだけなのだ。


 それがないと言う事のマイナス補正が働くのだという。スキル一つで魔法のような効果を生み出すスキルのマイナス補正をだ。


 あの井戸の中でのスライム討伐も含め、訓練で出来ていた事が、訓練という枠組みから外れた実戦に反映しない。それがマイナス補正だった。


 つまり訓練と称して倒したあのスライムは別として、世に出た状態で、4人組に対し身体強化で身を守ることもゴブリンを剛棒や身体強化で倒そうと考えれなかった事も。ホーンラビットでさえ足がすくんでしまった事も、すべてスキルのマイナス補正が働き、恐怖で塗り固められてしまった結果だったのだ。


 それがあの息の詰まるような恐怖心の正体だった。

 ここで倒したホーンラビットでさえ訓練の一部として認識される事で倒せていた。外の世界の野生のホーンラビットとは違うとシステムが定義していたと言う事でしょう。


 城を出た事で、チュートリアル。訓練が終わった。そういう事だと。


「ではセイドウくんも?」


「いや勇者の坊主は違う。なんせ『勇者』という肩書きを付与されておるからの。現地人としての役割を持っているのよ。それは我々も同じ事。スキルはないが現地人という枠の中にいる。それが当初魔力穴も開いておらず、本当にただ巻き込まれただけのヌシには、一切ない。それに気付かんかった。だからすまぬ。許しておくれ。このスキルと魔法操作が急激に上がった事を見れば大体予想がつく。ヌシは言わんかったが命の危機に瀕した。もしくはそういう状況下で魔力を枯渇させた。そして運良く生き残った。そういう状況があったはずじゃ。どうじゃ?間違っておるかの」


 座学戦士以前の問題だった。その事実に驚くと同時に、あえて隠していた事実を告げられる。


 瞬間的に高鳴る鼓動を抑え、師匠をみる。


 ほぼ正確な推理をした師匠の表情は、悔しさと申し訳なさそして私を身を思う気持ちが混在する複雑な表情をしていた。

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