第72話おっさんの心の隙間と入り込む営業の怖さ

 勢いよく開いた荷台。

 そこには種々様々な商品……。


 なんて物は無く。

 そこにはずらりと並ぶ首輪を付けた人族や獣人の男女。


 はい。間違いないですね。

 全員奴隷。という事でしょう。


【奴隷】

 借金もしくは犯罪などにより、奴隷として売られた者。

 人族の借金奴隷は、買い手が解放を望めば解放が可能だが、この国では獣人や犯罪奴隷は解放は出来ない。

 奴隷は秘密厳守等、様々な条件を付与して契約し、基本“物”扱いがこの国の奴隷のあり方となっている。


 と、師匠に教わったが、その時は完全に他人事と聞いていましたね。


「いやいや。いらないです。ホントいらないです。」


 勿論断りますとも。


「まままま。そう言わずに。あなたも冒険者なら報酬で揉めない奴隷がおすすめです。結構いるんですよパーティメンバーが奴隷だけって言う方も。何より絶対服従。盾にも武器にも荷物持ちにも使えます。どうです。少々お待ちを!今あなた様にお薦めの奴隷を……」


 いやいや。どんどん話が進んで行くのはどう言う事でしょうか……。


 確かにそういうパーティがいくつかあるのは知っている。それに自分の抱えているものを考えれば、どこかのパーティに所属するなんてことも、知りもしない冒険者とパーティを組むことも難しいでしょう。


 それにしても盾にも武器にもですか……

 確かにこの国の奴隷の扱いは使い捨てに近い感じでしたね。まったく。ホントろくなことしない王族です。


 それでもパーティですか。ランクあげてソロでは厳しい時が来る可能性もありますね。いやその可能性の方が高いですね。


 奴隷は定番ですし見るだけみましょうか。勿論私は使い捨てにする気はないですよ。


 あれ?選ぶ気になってません?

 いやいやないないない。


 怖っ!これが営業の力!


 やはりここは断りましょう。


 しかし顔を上げれば、ずらりと並ぶ奴隷達。

 前半に並ぶのは屈強な肉体を持った男性に、肉食系がベースとなった獣人に、アマゾネス?な女性達。


 ここまでは正しく盾になる前衛の奴隷達なのでしょう。

 そして、次は魔道士でしょうか。少しひ弱な感じの奴隷が続いて……。


 うん。

 後半は見なかったことにしましょう。所謂性奴隷ってやつです。


 しかしここまで様々な人が並ぶと、異世界を感じますね。


 ん?ん!


「ほほー。タクト殿はそちらが好みですか。」


 もう一度端から見直していると、一人の奴隷に目を奪われる。


 それを誤魔化すように次の奴隷に目を移しましたが遅かったようです。その瞬間を商人ならば見落とさない。ホント目ざといですね。


「おやおや。そんな顔しないで下さい。少々お待ち下さいね。」


 そう言うと他の奴隷を下げさせ、その奴隷を前に進ませる。


 長い旅で汚れ、くたびれてはいるが、たしかにモフモフを想像させる尻尾に耳の毛並み。

 狐の獣人ですね。道具屋のフィスさんはあまりモフモフ感が無かったですが、違う種族なんでしょうか?


 たしかに。たしかに。今の生活に足りない物は何か考えた時に、癒し成分としてのモフモフ成分が足りないと言う結論に至りました。


 あぁ近所のスコティッシュフォールドの雑種の野良は元気でしょうか。一度餌をやったら決まった時間に家の前に来るようになったんですよね。大家さんも猫好きで飼うことを許してくれましたけど、結局家には入りませんでした。今思えば私がいなくなっても彼女なら野良のままなら大丈夫でしょう。


 アンナさんにそんなモフモフ成分を求めて、フォレストキャットという小型の猫型モンスターを教えてもらって、狩りに行きましたが……あのモフモフにつぶらな瞳。いや…つぶら…ではなかったですかね。完全に脳内補正です…。肉食動物でした。


 それでも魔石の為とはいえ、100体以上狩るなんて……私には出来ませんよ。魔石の依頼も出せませんし。用途を疑われますからね。


 まぁちょっと強力な眠り薬で眠って貰って、その隙にモフモフは堪能させてもらったんですけどね。ついでに鋭い爪を避けて肉球を堪能しておきました。もちろんちゃんと気付薬で起こしましたよ。


 そのあとアンナさんに何故か冷たい眼を向けられたのはきっとすれ違った冒険者パーティーのせいでしょう。


「うんうん。本当に気に入ってもらえたみたいですね。いいでしょう!彼女は今回の目玉奴隷ですがお譲りしましょう!」


 ノッツさんは、一人で勝手に盛り上がっていく…

 いや…どう見ても竜人の奴隷がいるのですが……超強そうですが…。


 今回の“大物”取引の目玉って、彼らですよね。絶対。

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