第61話おっさんの危機と夜の蝶?


「そうだキュリ。キュリでどうでしょう。語源はオプスキュリテ。“闇”を意味します。どうですか?」


「カッカッカッカカ」


「おー。気に入ってくれましたか。よかったよかった。」


 顎を上下に打ち鳴らし、指を組み見上げるキュリのつるんとした頭を撫でる。

 人骨に触る機会は、大学の考古学以来ですが何とも言えない冷んやりとした手に吸い付くような感触。これはこれで癖になりそうですね。


 その頭を撫でながら、ひとまず墓地のスケルトンの討伐を命じる。まだ何体かはいるみたいですからね。


 ここは墓地、普段から外に出ない程度のスケルトンはいます。定期的に討伐依頼が貼り出されますしね。


 火属性魔法ではなく、その先の炎属性魔法。さすがはスケルトンメイジです。これがあれば墓場の魔物なら楽でしょう。


「あわてなくていいですよ。冒険者来たら隠れる。それが大事です。墓地の奥ならば炎魔法の光も見えないでしょう。まぁ見えても討ち漏らしを討伐してると思われるだけでしょうしね。もう一度言います。見つからない事が大事……。そうだちょっと待っててくださいね。」


 もう一度、頭をひと撫でし、照れるように身をかがめるキュリに、隠れているように念を押す。


 そして墓地から街へ戻り、ある場所を目指した。


夜の蝶パピオン


 それが目指す店の名……


服飾屋 『夜の蝶パピオン』

 ここは前に宿の女将ニイナさんに紹介されたまま、お洒落な服を買う予定が無く結局来ないままになっていた。


 夜の仕事をする人用に、遅くまでやっていることは聞いていましたから間違えなくまだやってるでしょう。


 そしてここは墓地から離れているので、今日の騒動も関係なく、こんな状況でも営業はしているだろうと確信していた。


 カラン


 扉を開けるとドアベルの音がなる。


 商品で通路をつくり、壁一杯にかけられた服が所狭しと並ぶ店内には、夜の商売風の数人の派手な化粧をした女性客が、商品を手に取り肩に合わせ服を選んでいた。


「こんばんわー……」


 入口から声を掛けると奥から返ってきた。


「はぁい〜。」


ん?


聞き間違え……


「ちょ〜っと待ってねん」


 ではないです。

 はい。とても低くて逞しい声です。


 ……よし。帰りましょう。


「大丈夫でっすぃっ!」


「っと。な〜に帰ろうとしてんのよ。あら可愛らしいお顔ね。いらっしゃいませ〜。夜の蝶パピオンへようこそ〜。どうしたの〜。」


 ごっついオネエさんです。たしかパピオンには蝶ではなく蛾という……


 レオタードのような服の胸元が胸筋によって開いちゃいけないところまで開いてます。胸毛と胸筋がなんとも逞しいデス。


 母さん。先立つ不孝をお許しください。私はここで……


「ちょっとー。何走馬灯見てるような顔してるのよ!失礼しちゃうわん。ここの店長のサンドラよ。サンドラお姉ちゃんってよんでねん」


「は…い…。サンドラさ…オネエさん」


「あん?なんか違う気がするけど。まぁいいわ。あなたタクトちゃんでしょ?ニイナ姉さんの所の。」


 おや?私の事を知ってるのですか?


 はぁ少し落ち着いてきましたね。


「はい。タクトと言います。あの〜サンドラオネエさん。おろして貰っても?」


 首元を掴まれ店に引き戻され、今は脇の下に手を入れられ高い高い状態だ。

 この人2m以上身長がありますね。


「あら。よいしょ。ごめんさいね。ニイナ姉さんから可愛い子がいるって聞いてたのに、あなた。なかなか来てくれないんだもの。ちょ〜と興奮しちゃった。でもすぐ分かっちゃった。うふ。」


 そう言いながら、太い指で額をつかられる。


「……そうなんですか。すみません。服に使えるお金の余裕がなかったものですから」


 一瞬首がもげるかと錯覚しました。サンドラオネエさん怖い……。


「知ってるわよん。頑張ってるのもねん。それで?今日はどうしたのかしら?この時間に来るって事は事情がありそうね。言ってごらんなさい」


 さすがはニイナさんのお勧めの人だ。一瞬で雰囲気が変わる……見た目は変わらないですが…。

 そして来た時間だけで、普通の買い物じゃない事がバレてしまったようですね。


 バッグからビッグバットの生地を取り出し、事情を説明する。

 もちろんスケルトンメイジのためでなく、魔法を使う小さな女の子の為に作って欲しいとお願いした。


「あら。スキル持ちの生地ねん。それに継ぎ目のないこの形。随分と腕のいい錬金術師の物なのね。これを私好みにしていいのねん。」


 鑑定?いや経験だろうか?生地を見せただけで、手に取ることも無くこの生地がどういうものかを見抜いた。


流石はサンドラオネェさんだ。

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