第57話おっさんの期待とつぶらな瞳

 スキルを唱えた瞬間。いつも通り両手の魔石がひかり、1個の魔石が完成する。


 魔石が光の強さが一層増していき、同時に全身から魔力が魔石へと吸い込まれ、魔石から魔法陣が浮き出る。すぐにその魔石を地面に置くと……


 パキッパキパキ


 リィスやフリナの時と同じように、魔石が卵のように割れ始め、強く発光する。


 そして光の収まったその場にいたのは。魔物的な凶悪な蝙蝠顔ではなく、つぶらな瞳とふかふかの光沢のある毛を持つ、1匹のビッグバットと同じくらいの大きさの蝙蝠だった。


 これは愛くるしいコウモリですね。ビッグバットの鋭く細い毛ではなく、予想以上に毛がふわふわです。


「これからよろしくお願いしますね。あなたの名前は 《ペル》です。リィスと同じフランス語から真珠と言う意味からつけました。そのつぶらな瞳が黒真珠のように綺麗でしたからね。」


「キィーー」


(喜んでるよ。ペルちゃん。よろしくーリィスだよー)


 リィスが挨拶のためプルンと揺れる。


「キィキィ!」


 リィスとペルが挨拶を交わす中、両手で持ったペルに意識しステータスを表示させる。


 種族:大蝙蝠 Lv1

 名前:ペル

 スキル

 夜目

 索敵


 どうやらビッグバットと同じように見えるが、大蝙蝠と書いてビッグバットではなく大蝙蝠というオリジナルのようだ。

 スキルは夜目に索敵。嬉しい事に欲していたスキルを両方持っていた。


 そっとなでながら、先程からペルが強く訴え続けている感覚に従った。


『融合』


融合を確認すると、持ってきていた手鏡で自分の姿を確認する。


 リィスとの融合で、融合した魔物の特徴が少し容姿に出る事は分かっている。それを確認するためだ。


「お。耳の形が少し尖りましたね。エルフみたいでちょっとカッコいい……。それと一番分かりやすいのはこれですね。」


 口に指を入れ、口角をあげるとニョキっと少し長く尖った牙となった八重歯が顔を出す。


 どうやらペルとの融合は牙と耳の変化のようですね。あまり派手じゃなく助かりました。


 服とか突き破って羽とか生えたらどうしよう。とか思って、実はシャツを脱いで融合しましたが杞憂のようですね……。


 リィスのなんで脱いだんだろう?って言う好奇心満載の目が痛いっ……。


 耳は帽子で隠せばなんとかなるし、牙は口を開かなければ分からない。

 これくらいで済んで良かったです。


 それにしても……

 洞窟に入り魔石を回収するために灯していた松明の火を消す。


 それでも辺りから視界が消えるような事はなかった。昼間の外のようにはっきり見える。


 松明で照らしてきた時よりもよほど見えやすいくらいだ。


 無事『夜目』が取得できたみたいです。

 

 そしてあたりを観察していると、天井から石のかけらが落ちる。


 カコーンと落ちた石から波紋のように音の波が広がり、その石だけでなく、周囲のの形を脳裏に映し出した。


「これは……?」


『索敵』を意識すれば、こちらからも出せますね。


『索敵』を奥へと向けると、奥にいる無数のビッグバットの気配を察知する。


 なるほど超音波。エコーロケーションですか。

 さすが蝙蝠型の魔物。実際なにかを飛ばしているのならば、同じ事ができるビックバットにその飛ばした何かを察知されているでしょうから。種族特性に近い超音波の原理のスキル化。これが索敵の正体ですね。これなら隠れている敵なども事前に発見できそうです。便利なスキルですね。


 ひとしきり実験を終えると、制限時間が切れる前に解除する。


 奥のビッグバット達が目覚める前に洞窟から退散しましょう。


 そして洞窟の外にたどり着いたところで、リィスにはペルのレベリングをお願いし、ペルと共に下水へと送還した。


通常は召喚元への送還だが、リィスがペルを包み込み同時送還を可能にしていた。


 召喚されてきた時の大ネズミのように、リィスの体内に丸々取り込まれるペルを見て、消化しやしないかヒヤヒヤしていたのは、リィスには内緒です。


 送還後も繋がりは切れていない……大丈夫ですよね。


 道中何体かの魔物を倒しながら、森を抜ける。

 日が落ちるギリギリに森を抜けれた事に安堵しつつ、ギルドへと向かうと、やはりいつもとは様子が違っていた。


 緊急依頼は夜が本番。この時間は多くの冒険者は準備しているか仮眠をとっているのでしょう。


夕方過ぎになっても、人気の無いギルドのカウンターへと向かう。


「おかえりなさい。タクトさん。ビッグバットは手に入りましたか?」


 こちらの姿を確認すると、すぐに受付にアンナさんが立つ。既にビッグバットの外套風の生地は脱いでいる。


 これの効果は意外に高かった。

 羽織っている状態で、警戒心の強い鳥の魔物。ピジリスに2mまで近く事が出来きましたから。いつもならば5mでも逃げ出すピジリスが気配を感知出来なかったと言うことは、それだけ効果が高いと言うことでしょう。


「はいお陰様で。それとこれ」


 そして場所を教えて貰った礼を言いバッグからビッグバットの皮膜を取り出した。


 

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