第44話おっさんの目覚めと事の顛末
広い背中ですね。
森の中から街へと背負われる中、途切れ途切れの意識の中で感じたのは、なるべく揺らさないようにと走る背中の温かさと、必死になって声をかけるポーションをくれようとしていた優しい門番の声だった。
「死ぬんじゃねえぞ!もうすぐ街だかんな」
その声を最後にまた気を失った。
SIDE タクト
「ここは……」
見覚えのある天井だ。
「起きた!起きたよママ!」
「おっ起きたのかい。体は大丈夫かい」
目を覚ますと枕元からネルさんの甲高い声と、ニイナさんの落ち着いた声が聞こえた。
なんだかとても安心の出来る声を聴き、自分が無事戻って来れたと実感した。
目を覚ましたのは宿だった。
寝込んで3日たっているらしく。治療費などの料金は、ニイナさんが立て替えてくれていた。
私を救ってくれたのは、あの門兵さんらしい。名をアグリさんというらしい。
あとでお礼に行かないとですね。
少しだるさの残る体をゆっくり起こすと、ニイナさんが事の顛末を説明してくれた。
意地の悪い受付嬢。キャシーさんに重い罰が下ったことも。
「散々な目にあったね。すまんが歩けそうならギルドへ行ってくれないかい。」
「大丈夫です」
体をほぐし、冒険者ギルドへ向かうと、ニイナさんが教えてくれた通り、すでにキャシーさんと4人組の冒険者は拘束され、牢に入れられているらしい。そして二度と顔を見ることはないだろうと言うことだった。
少し安心しました。
係の人に案内され5階へと向かう。
5階建に見える冒険者ギルド内は、地下も含む6層建となり
地下 訓練場
1階 受付カウンター 軽食屋 簡単な修繕を頼める鍛冶屋
2階 高ランクの受付カウンター 資料室 会議室
3階 貸個室 貸生産用作業室
4階 職員の寮
5階 ギルド長室 職員用会議室
となっている。
つまり5階ということは
「入ります!」
案内の男性がノックとともに扉を開ける。
この世界は、どうぞ。とかはまたないんですかね?
扉を開けると、目の前に2人の女性。
一人は立派な机と椅子に腰掛けた大柄な女性。
そしてもう一人は、凛とした立ち姿が美しい、栗毛のスレンダーなスタイルのモデルのような女性。
大柄な女性はどこかで…
「Fランク冒険者、タクト マミヤ殿をご案内致しました。失礼致します」
部屋に入るなり、私を紹介し出て行く案内の男性。仕事に忠実というか淡白というか……。
それにしても
「殿?」
「はっはっは。殿と呼べれるのは慣れていないか。では私はタクトと呼ばせてもらおうか。初めまし……いや2回目だな。覚えているかはわからんが。私はここのギルドマスターのクレンだ。よろしく異世界から来た少年。」
「!!!」
あぁ見覚えがあるはずです。4人組に最初に絡まれた時に2階から4人を制した女性ですね。
まさかギルドマスターだったとは。
それに今私の事を異世界から来たと
「ふはは。そんな顔だと異世界人だと言っているようなものだぞタクト。安心しな。冒険者ギルドも商人ギルドも情報が命さ。王城で何が起きたかなんて3日もあれば筒抜けさ。まぁ今回は情報源も確かだしね。そしてその情報の対価が秘密を守ること。だからね。」
「クレン様。タクトさんをそれ以上困らせるのはお辞めください。今回の件、非は完全にギルド側にあるのですから。ご挨拶が遅れました。私はアンナ。受付嬢の纏め役の任を任されております。この度の件、誠に申し訳ございません。私共ギルドの受付嬢が起こした不祥事、タクト様には大変ご迷惑をおかけいたしました。今後このような事のないよう受付嬢の教育を徹底いたしますので、お許しいただければと存じます」
ギルドマスターを制した女性はアンナさんと言うらしく、深々と頭を下げた。
ニイナさんから聞いた情報によれば、低ランク。しかも冒険者に有るまじき低輝度の新人が、高品質の薬草を苦もなく採ってきた事で受付嬢のキャシーが、私への鬱憤ばらしと採取場所の把握を目的に計画したらしい。
そもそも、冒険者の輝度やスキルに関する情報を第三者に教えることは厳禁とされている。それをあの場で公開しただけでなく正当な評価もせずに一方的に受理したキャシーは、すぐに規定違反による減俸になった。
それを逆恨みし、今回誰でも大量の高品質な薬草が採れる場所を発見したと考えたキャシーは、自分を懇意にしている冒険者を巧みに誘導し襲撃させたらしい。
どうやらギルドから尾行しようとした冒険者は何も知らされていなかったらしく、城門から出るように誘導し、城門を出るまで見ていて欲しいとキャシーの“お願い”を聞いただけであった。
アンナさんの視線に、そのままどこか一瞬怯えた様子になったギルドマスターであるクレンさんからも謝罪を受け、事情を聞かれた。
その中で異世界人である事は知っているのは、ギルドではギルドマスターとアンナさんだけと言う事で、今後も秘密は守ってくれることになった。
「普通は異世界人は強力なステータスを持っているからな。利用されない様に保護という名で王家に利用されるもんだ。そんな中、城から放り出された異世界人がいると分かれば、情報を集めないわけがないだろ?」
「そうですね。まぁ説明した通りゴブリンにも殺されそうになる弱者ですからね。利用価値がないって言われただけですよ。」
「ふむ。そのことなんだがな。輝度40代でゴブリン4体をソロ、しかも短剣だけで倒せたのが疑問でならんのだ。それに保護された時のタクトの状況は、魔力暴走を起こした者と同じような症状だった。何か覚えていないのか?」
「必死でしたからね。自分で調合した毒をかなり使いましたし、その影響を自分で受けただけかもしれません。」
『融合』の件はあえて伏せた。登録時にも伏せている。
魔石を取り込めるなんて異常ですからね。師匠に相談するまでは内緒にしておきましょう。
「そうか。ではこれで終了だ。今回は本当に申し訳無かった。どうか許して欲しい。ギルド長として事前に気付く事が出来なかった。今後はアンナを専属として登録しておいた。いついかなる時でもアンナが対応する。まあ受付嬢は専属が選べるからな。今回はアンナ自ら決めた事だ。」
「はい。よろしくお願いします。タクトさん。」
「はいっ。よろしくお願いします!」
美人に微笑まれるのは心臓に悪いですね。
30越えてからは、女性との付き合いは少なかったですからね。
いきなりこんな美人と、まともに話せるでしょうか。
結局ギルドからは 迷惑料として10万トール、そしてスキルスクロールで『土魔法』『生活魔法』を渡された。
ついでに奪われ、アグリさんが取り返してくれた薬草の代金と、バッグが返却された。
できれば何種類かは手元に残しておきたかったんですが、中々入荷がない薬草らしく、アンナさんに上目遣いで懇願された結果。
バッグの中身は空になった……。まあいいですけどね。
空になって帰ってきたバッグを背負い、ギルドから外へとでる。
「さて、まだ日も高いですが一旦宿にもどりますか」
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