第34話おっさんの薬草とギルドの良心

★SIDE 受付嬢 アンナ


「あら。これは?」


 今日一日事務作業に追われ、やっと受付業務を確認に来てみると、納品場に置かれていたのは、ここ最近あまりみない丁寧に採取された質の良い大量の薬草。


 間違いなく、高品質な薬草ね。

 ここまでの薬草を取って来れる冒険者っていたかしら?

 

「誰かしら?」


 納品管理表を見ると納品はつい先程。納品者はFランクの冒険者だった。

 薬草採取は常時依頼。しかし単独で受けるには貢献度は溜まりやすいが報酬は低く、森の浅い場所にも生えている関係で、討伐ついでに採取して納品される事が多い。


 そう。薬草は何かの依頼ついでに採ってくるものなのだ。

 そうしなければ中々利益率が低い。

 ただ常設依頼で、受付する必要もない事から低ランクの冒険者は、出先で必ず薬草を摘んでくる。


 だから乱暴に千切られたり、毒草が混じっていたりと確認が結構面倒な事が多いのよね。

そもそも森の境界で採ってくる薬草は質が悪いのだ。


 それでもただでさえ国に抑えられ、数の少ない街の治癒ポーションの供給の安定化のため、薬草の納品はギルドの最重要事項。だからこそこんなに多くの薬草を丁寧に摘んできてくれる冒険者は貴重なのよね。


「タクト?」


 聞いた事の無い冒険者ね。あら今日登録の冒険者?もともと薬草の採取を生業にしてたのかしら?


 しかしそれよりも驚くべきは他にあった。納品のタグを裏返せば誰がどの位の評価で買い取ったかがわかるようになっている。


 そして、そこに書かれていた評価は『E』最低評価という記載だった。


 担当はキャシー《狐目》ね。


 私は夕方のピークから、やっと一段落ついた受付へと向かう。

 そこには、高ランクの冒険者に笑顔を振りまくキャシーの姿があった。


 私達受付嬢にとって、ここは結婚相手を探す場でもある。

 女性とって冒険者は稼ぎが多く、人気の結婚相手である。さらに依頼者としてやってくる商人とも知り合える。


 その為、商人やお金持ち、冒険者に出会える受付嬢は、倍率が異常に高く、募集すれば数時間で受付が締め切られるほど人気の職業だ。


 だからこそ、ここにいる受付嬢達は、有望な冒険者や商人を見つける事に必死になっている。


 のちにS級冒険者となる相手に見初められ、玉の輿となりその金と此処での人脈を元手に、商人として大成功を収めた受付嬢の逸話は有名で、今でも話題になるほどだ。


 勿論私も、素敵な出会いがあればいいなとは思っている。

 でもそれはそれ、まともに仕事をこなせない受付嬢を置いておくなんて、ここはそんな優しい職場ではないの。


 冒険者が去るのを確認し、キャシーに近付く。


「キャシー。この冒険者は?」


 縦社会であるこの職場で、急に先輩である私から尋ねられ、一瞬緊張した様子を見せたキャシーだが、タクトという名を見て表情を崩す。


「新人の超弱い冒険者ですよ。ゴブリン相手に逃げ出したんですよ。もう冒険者として失格ですよあれは」


 完全に馬鹿にする様子のキャシー。通常新人が行くような森の浅層のゴブリンはまだ弱い。というのが常識だ。

 それでもあなたが戦うわけでは無いのに、冒険者を馬鹿にするなと言いたいが今は問題が別にある。


 どうやら彼は、彼女のお眼鏡には、まったくかなわなかったみたいね。


「何故評価がE最低なのかしら?」


 それでもそんな事は関係ない。強いか弱いかだけが、冒険者の価値ではないのだから。


「あんな素人の納品なんて見なくても……。あぁでも見た感じ毒草はなかったんで、納品は受けましたよ」


 はっ?

 この子は何を言っているの?たしかに私達受付嬢は最低限のスキルとして薬草と毒草、特に偽薬草との感知のスキルを研修で身に付ける。

 だからこそ一瞬で薬草と毒草を見分けられる。


 この量の薬草に毒草が元々入っていなかったの?指摘して省いたんじゃなくて。


 新人冒険者の採取で、毒草を摘まない可能性を考えたの?


「これをみなさい」


 持っていた薬草をキャシーの目の前に置く。タクトという冒険者が採取した薬草だ。


「へーうまいですね。誰ですか?」


 これが上手いとすぐに判別できるくらいの技量はあるのね。と言うことは毒草の感知だけして、本当に何も見なかったってことじゃない。


「そのタクトと言う冒険者です」


「なっ!」


 なんて事を。

 これだけの品質の薬草を、碌に確認もせずに受理するなんて……。


 私は受付リーダーとしての権利を行使する。

 私の仕事は高ランクの冒険者の優先対応。そして受付嬢達の管理だ。だからこそ今回のようにギルドの質を落とすような一件は見過ごせない。


「キャシー。この件についてその冒険者の評価の見直しを。そしてあなたは減俸とします。今度タクトと言う冒険者が来たら私を呼びなさい。いいですね」


 この冒険者には私が直接会って謝る必要があるでしょうね。悪いことをしたわ。


「なっ……⁈ はい……」


 小さく呟くように返事を返すキャシー。

 あの子は、目をつけた冒険者とそうじゃない冒険者での対応に差がありすぎましたからね。


 これを機に反省してもらいたいものです。


 しかし

 いつものように単純な好き嫌いだと決めていた私は、彼女の伏した顔が歪んでいるのを見逃してしまっていた……。


(くっ!!!あのガキ!田舎者のくせに私の評価を下げやがって!許さない!許さない!許さない!きっと高品質な薬草の群生地を見つけたに違いないわ。見てらっしゃい!)


 その闇に染まった心の内側も。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

15000pv ★150

ありがとうございます。


感謝の2話投稿です。



是非★での応援よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る