第51話おっさんの専属受付嬢とスケルトンの魔石
リィスとの別れを名残り惜しみながら、下水から出るとすっかりと日は落ちていた。
暗くなった道を家から漏れた灯が照らす。
「そうだ」
『生活魔法〈クリーン〉』
下水から出てくると、自分がいかに臭い場所にいたかがわかる。
それは臭覚疲労で鈍感になったはずの鼻が、臭いと感じるほどに体に服に髪にと下水の臭いや生臭さが染み付いていた。
そんな時には、この魔法程便利なものはないですね。
元の世界のボディウォッシュをイメージして唱えれば、全身に細かな泡が覆い泡の一つ一つが汚れや匂いを吸収して割れていく。
全ての泡が消えれば、シャワーを浴びた後のような清潔感を取り戻します。勿論臭いもありません。
魔法はイメージ。こういう時は現代知識が物を言いますね。
ギルドの扉を開くと、1階の酒屋は既に依頼を終わらせた冒険者達で盛り上がっていた。
今日の依頼が上手くいった者、失敗した者。全てが酒の力で明日の活力とする。それが冒険者の流儀だそうだ。
まぁ私は元の世界でも、今も下戸なんですけどね。
この世界のエールといううっすいビールのようなお酒で、ギリギリ酔わずにいられるくらいですからね。
居酒屋と化した1階ギルドホールを受付カウンターへと進むと、書類を整理しているアンナさんと目が合う。
すると、持っていた書類を置き、微笑みながら小さく手を振ってくれた。
「おかえりなさい。」
「ただ今戻りました。依頼報告大丈夫ですか?」
本来なら専属のアンナさんがいる為、並ばなくても依頼の報告は出来るが、非常に人気のある受付嬢であるアンナさんを独り占めして、その視線に耐えられる程強くない。
そのため、アンナさんが専属になった事を伏せ、順番と同時に普通に交代してもらった。
いつまでもごまかせるものでもないが、ここは心の平穏の為にもアンナさんには協力して貰った。
「下水内の大ネズミ討伐のご報告ですね。あら?水浴びしてこられたんですね。」
クンクンと小さく鼻を動かすアンナさん。その姿がとても可愛らしい。人気があるのも頷ける。
通常。
下水内での依頼を受けた冒険者は、そのまま報告に来ることが多く、かなり臭いがひどいらしい。
「そうですね。そんなところです。臭くないですか?」
「ええ大丈夫ですよ。実は少し覚悟してましたから。それになんだか逆にほのかに良い香りが……んっんん。すみませんタクトさん。それでは今日の成果をお出しください」
香りを嗅ぐため、近寄り過ぎたことが分かったのか少し顔が赤い。
後ろの冒険者の視線が痛いです…。
「ではこれで。それと別件で報告です」
そう言ってトレイに大ネズミの10個融合魔石2つと2個融合魔石。そして最後にスケルトンの魔石を置く。
「あら。また合成して頂いたんですね。ありがとうございます。たしかに大ネズミの魔石10個合成ですね。大ネズミは肉なども買い取れますが、今回は魔石だけのようですね。それと……えっ?タクトさん?これは下水内で入手した。それで間違いありませんね」
最後の魔石を確認した瞬間。アンナさんの表情が急に険しくなる。
どうやら私の懸念は正しかったみたいですね。下水内にスケルトンがいる。その事実がすでに異常なんでしょう。
「はい。間違いありません」
「わかりました。こちらはお預かりさせて頂きます。然るべき調査の後、情報料を決めさせていただきます。」
アンナさん曰く、下水内の異常もしくは墓地での異常が考えられるらしく、早急にこの2つの調査をする事になった。
「よろしくお願いします」
なるべくならばその懸念が早く解決する事を願い、依頼料の5万トール(2,000トール×25(魔石10合成))を受け取る。
命掛けで討伐し、通常なら10体分20,000トール。
はっきり言って少ない。
だからこそ冒険者達は魔物の討伐と素材買取の2本立てで依頼をこなすのが良いとされ、通常ならば肉と皮を同時に卸す。大ネズミのサイズによっては前歯も卸せる。それだけ合成出来なければ、魔石のみというのは効率が悪いのだ。
その点を分かっているから合成の伝手のある私には、アンナさんも何も言わないのだ。
宿へと戻ったが手元にリィスはいない。もっと強くなりたいというリィスの意思を汲み下水においてきた。既に下水ならリィスより強い相手はいないだろう。
人が来たら隠れるように言ってありますしね。
調査が入るのはスケルトンが活発になる夜間。その間はなるべく身を隠すように伝えてある。
そして、改めてステータスを確認する。
名前 タクト・マミヤ
年齢 17
スキル 融合 採取Lv2 魔法操作Lv3 棒術Lv1 殺傷耐性Lv1 土属性魔法Lv2 生活魔法Lv1 ステータスカード
輝度 43
その他
冒険者:F
∈ : S
眷属 :リィス
土属性魔法と生活魔法はスクロールでの追加。それと、眷属と言う欄が増えていますね。勿論非表示にしますが。
棒術Lv1でなんとかなっているのは、やはり剛棒の力が突出しているんでしょう。これに頼り切った戦闘にならないようにしないとですね。
しかし、使いまくって強さの調整など工夫を凝らしていた土属性魔法のLvが上がりましたね。
やはり意識して使うのが、一番の近道のようです。
宿へと戻り、日課の演武を行う。
演武をこなす度に、一つ一つの動きが洗練されていくのがわかる。
滑らかに、動きを止めず振るった力を次の動きに転化する。振るう度に足元の土埃が舞い、汗が滴り落ち、足元の地面を濡らす。
きっちり30分。
棒術を意識しての演武を終えた。
師範曰く、この演武は棒術の動きも取り込まれている。いずれ、棒術のLvも上がるでしょう。
師範から離れ、この庭で演武をするようになって数日経ちますが、一向に演武中の体の負荷は変わらないですね。師範の指導ボーナスがないからですかね?もっと精進が必要という事でしょうね。頑張りましょう。
さて、明日は森ですね。
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