第52話おっさんのゴブリンアタックと秘密基地

「ギャーーー」


 鬱蒼とした森にゴブリンの声がこだまする。

 他の冒険者が墓地エリアと下水の調査に行く間に、ここ数日は森へとある目的の為やってきていた。


 それがこのゴブリン討伐だ。決してリベンジではない。リィスと同じように他の魔物でも『融合』可能なのか。

 それともゴブリンは“あの”使い道しかないのか。それを調べに来たのです。


 下水にいるリィスには、他の冒険者から隠れつつ、アシッドスライムを吸収するように告げている。

 おそらく大丈夫でしょう。


 粗末な武器を振り回すゴブリンの頭部を狙い、剛棒を横薙ぎにする。


 ゴォン!


 ゴブリンの魔石は喉仏にあるため、剛棒の重量の加わったその一撃で頭部を飛ばしたゴブリンからは、すぐに魔石の回収が可能で、効率がいい。


 仲間の声に引き寄せられるように、今日も多くのゴブリン達がソロの冒険者である私を見つけ、やってきます。


 ゴブリン達は、自分の身を守る事に長けている為、迂闊に冒険者パーティには近づきませんが、私みたいに見かけも弱そうなソロ冒険者は鴨です。しかも剛棒ぶきというネギまで背負っているのですから、ゴブリン達にとってはそれこそジャックポットでしょう。


 お陰でゴブリン狩りが進みます。

 しかし、ホントこんなゴブリンから逃げていたとは信じ難いですね。ゴブリンは緑小鬼と書きますが、前の私からは緑の悪鬼にしか見えませんでしたからね。


「はっ!」


 ゴブリンの剣を受け止め、弾くと同時に頭部を横薙ぎにする。

 後ろに仰け反りながら倒れたゴブリンに短剣を取り出し、喉仏を裂こうとした時、木々の向こうから人の声が聞こえた。


「だから見たんだって!」


「そんなのお前の見間違えだろ」


「そうよ。首なしのゴブリンなんて……。」


「嘘じゃねぇよ。一昨日くらいにこの辺り通ったろ。そん時見たんだって頭がないゴブリンがフラフラ歩いてんの。怖すぎて見なかった事にしたけど、ここ最近墓地とか下水とかでおかしなこと起こってるだろ?絶対なんかあるんだって。」


 3人組の冒険者が辺りを警戒しながらこちらへと向かって来ていていた。

 どうやら男の一人が、首無しゴブリンを見たと言い、冷ややかな目で残りの2人に見られているようです。


 調子乗りすぎましたかね。

 この会話。思い当たることがあり過ぎます。


 はい。私ですね。実は一瞬で頭部を飛ばすと、それに気付かないゴブリンはしばらく歩いたりするんですよね……。リアルホラー映像です。


 おそらくそれを見られたんでしょう。これ以上は断念せざるを得ないようですね。


 身を隠しながら、その場を離れる。とうとうアンナさんを懇意にしている冒険者からあまり良い目で見られなくなりましたからね。森の中ではなるべくなら冒険者に会いたくはないのですよ。


 最近は森の中を積極的に探索しているだけに、道を通らなくても街までは問題なく帰れる。


 が、まっすぐは帰らず今日も前に見つけた洞窟を目指します。

 近くに川もあり、崖の窪みになっているその洞窟は、ちょっと休憩するのに丁度良い広さで、気に入っている。


「おっ100個超えてる」


 今日討伐したゴブリンの魔石を合わせると、103個。

 スライムと同じであれば融合出来る量が集まった。もし融合できなければ明日も森に入れば良いだけだ。


 そうして昨日までの81個の魔石と、今日の分を次々に融合していく。


「きた!」


 リィスを生み出した時と同じように、右手の99個魔石と左手の1個が反応する。


「ゴブリンも100個で良いみたいですね。それではいきますか……」


『融合』


 その瞬間。

 両手の魔石がひかり、前と同じように大きくなった1個の魔石が完成する。

 そして更にその魔石が強く光ると、全身から魔力が魔石へと吸い込まれ、魔石に吸い込まれる。


「重っ」


 リィスの時とは違い、片手では持てないほどに重くなった魔石を地面へと落とす。

 そして、落としたその場から魔法陣が浮き出た。


 リィスよりも二回り以上大きな魔法陣だ。


 パキパキ


 前と同じように魔石が卵のように割れ始め、強く発光する。


 発光が収まりその場にいたのは、腰布ではなく片方の肩だけ隠れたワンピースを腰で縛ったゴブリンの姿。

 しかしその姿は、どう見ても


「ゴブリナ……。女性型のゴブリンでしたか。」


 生まれて来たゴブリナが、こちらの顔を見たと同時に膝を付きこうべを垂れる。


 それはまさに、ゴブリンジェネラルやそれよりも上位のキングに見せるゴブリンの所作であった。


「えーと……あっ名前か。じゃあフリナでどうかな?ゴブリナだしね」


 その瞬間、何かがゴブリナと繋がる。


 どうやら受け入れてくれたようですね。


 ゴブリナを見ながら強くステータスを意識すると、リィスと同じステータス画面が頭に表示された。


 種族:ゴブリナLv1

 名前:フリナ

【スキル】

 成長

 繁殖


 これがフリナのステータスである。


 成長はゴブリンの持つ種族スキルのようなもので、経験値を得て様々な進化先が用意されている彼らは、他の魔物に比べLVUPやスキルの習得、熟練など成長に関わるものに補正がかかっている。


 また繁殖は、ゴブリンならばいかなる雌を妊娠させ子孫を産ませることが出来、ゴブリナならば理論上全ての雄によってゴブリンの子種を授かる事が出来るという物だ。


 ある意味、繁栄という意味では凄まじい能力を持っている。

 私の眷属となってはそのスキルが活かされることはないが、成長のスキルには是非期待したい。


「フリナ、顔を上げて。」


 言葉の意味は理解しているようで、フリナがこちらへと、頭を上げる。


「フリナは生まれたばかりだけど、戦うことはできるよね。」


「はい。ご主人様。」


 少し低いが、よく通る声で返事を返すフリナ。驚いた。喋れるんですね。


「うん。じゃあこれが武器ね。」


 喋れる事に驚きながらも。事前に拾ってあった冒険者のであろう短槍を渡す。


 突く事に特化した直槍と呼ばれる槍で、長さは短いが背の低いゴブリンには丁度いい長さだった。


 リィス同様、森の中での経験値稼ぎを指示する。

 勿論いきなりの放置では、厳しいだろうとLv5になるまでは一緒に狩をし、洞窟を拠点とした森での生活について教えてきた。


 少し不安は残るが、リィスとフリナどちらがより成長するか楽しみだ。

 フリナがレベル10を超えてきたら2人を会わせるのもいいだろう。


「じゃあね」


 槍を持ち、やる気を見せるフリナの頭を撫で、街へと戻った。

 夜目がきく、ゴブリンはここからが本番ですからね。

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