第53話おっさんのやらかしと胸に響く痛みの理由

 SIDE 冒険者ギルド(13日目)


「なんだって!大量の首なしゴブリンの死体?それにゴブリンの変異種だ⁈」


 フリナが誕生してから2日が経ったその日、ギルド長であるクレンの元にゴブリンに関わる二つの奇妙な報告が挙げられていた。


 一つは数日前、あるE級冒険者によって噂となった【歩く首無しゴブリン】そして、その後に見つかった大量の頭部の飛ばされたゴブリンの死体。


 その死体からは魔石のみが抜き取られていたが、ギルドにそんなに大量のゴブリンの討伐は報告されてはいなかった。


 そして二つ目、それはC級パーティによって報告された。


 通常、集落内で子育て……いやほぼ繁殖のみを繰り返すゴブリンの雌。ゴブリナ。

 しかし、森に現れたゴブリナは槍を持ち、同族であるはずのゴブリンを襲っていた。


 いや。ゴブリンだけではない。

 冒険者からは気配と共に逃げるが、他の魔物には正確な槍を突き刺し命を奪う。

 そんな奇妙なはぐれ雌ゴブリンの報告


 無論犯人はタクトのフリナなのだが……。


「で?その頭を飛ばしたのも、はぐれなのか?」


 クレンが、報告にきたギルド員に確認する。


「いえ。それはまた別のようです。歩く首無しゴブリンは、どうやら瞬間的に頭部を飛ばされた事に気付かなかったゴブリンが、歩いていたのを目撃したものと……。」


「そうか。それもまた……。ちなみに冒険者でそれが出来るのはどのくらいだ?」


「はい。少なくともB級以上。もしくは登録時期を考えればC級に1人と言ったところでしょうか。いずれにせよ頭部は弾け飛んでいるので、剣であれば大剣の腹の部分、あとはハンマーや格闘系などの打撃系、高位の土属性魔法などの物理魔法の使い手が考えられ、現在探しております。」


「そうか。引き続き頼む。土魔法か。そういえばこの前の……。いや。覚えたての魔法じゃそこまでの威力はないか。そもそも覚えられたかも聞いていないしな」


 一瞬クレンの脳裏に正解の回答が浮かんだが、F級冒険者のタクトは、前はギリギリ4体を討伐したが、普段はゴブリンからも逃げていたと報告を受けており、すぐに候補から外れた。


 剛棒も殺傷耐性の事も言っていないタクトが候補から外れるのは当然の事だった。


 Side タクト


 っ痛!!

 胸の辺りに一度激痛が走る。


 その2時間後の事だった。ギルドにてある報告が貼り出された。


 注意

 槍持ちのはぐれ雌ゴブリン

 Cランクパーティ 《炎牛の盾》により発見後討伐。

 錬金魔石合成10個分の魔石と同等のゴブリンと判明。

 他にもイレギュラーなゴブリンの存在する可能性あり、森での活動に十分に注意して下さい。


「あぁこれでしたか……くっ…」


 2時間前。

 激痛と共に生じた喪失感。

 何かの繋がりが途切れた。そんな感じがした。


 この張り紙のゴブリンは、間違いなくフリナだろう。

 話を聞けばフリナは同族のゴブリンや角ウサギなどの小型の魔物を狩り、冒険者が来れば身を隠していたらしい。


 しかし、その不審な行動が逆に冒険者達を恐れさせ、発見したCランクパーティによって討伐されたという事だった。


 下水と違って、冒険者の数が多いですからね。

 見つかってしまいましたか。


 まぁ冒険者から見れば立派な魔物ですからね。可愛そうですが仕方がないのでしょう。

 少なくともこの街には、テイマーやサモナーは相当少ないらしいですからね。


 そんな中、テイマーでもサモナーでもない私が、城下街で魔物を引き連れて歩けば異常な光景となります。すぐに王城に報告されてしまうでしょう。


 ある程度強くしてからでないと難しいですね。


 生まれたばかりの融合魔物フュージョンモンスターは、弱い。


 それこそただのアシッドスライムに負けてしまいそうになるほどに。


 武器を与え、扱い方を教え、狩の方法を伝授する。

 しかし、それでも弱い。


 フリナの事を教訓にしよう。

 慎重に、そして二度とこの痛みを味あわないために、そして創り出した魔物達にも味あわせない為に。


「なあ。あんたが“薬者”のタクトって冒険者か?」


 掲示板に貼り出された報告を読み、失った悲しみと、悔しさ、そして怒りを整理していると後ろから声を掛けられる。


 気付けば、血が滲むほど握り込んだ拳からフッと力が抜けた。


 振り返れば、青いタグをかけた冒険者だった。


「D級の冒険者の皆さんが、私に何か?」


 冷静になって、返事を返すと、声を掛けてきた男の後ろには、タイプの違う3人の女性がこちらを睨むように立っていた。


「あぁ俺はニックスって言うんだが、ちょっと相談があるんだ。そこで落ち着いて話さないか?」


 テーブル席を指差したニックスについていくと、8人がけのテーブルに座る。


「すまん。依頼前というのはわかっている。断っても今日の分くらいはこちらが出そう。だから話を聞いてくれないか?その上で判断してくれていい。」


「わかりました。」


 興味のない3人の女性をさし置き、ニックスが説明を始める。


 どうやら墓地、下水エリアだけでなく、今回騒動のあった森エリアもこれ以上の異変がないか調査をすることになったらしく、ここ最近森に入り多くの薬草を採取し、冒険者の間で“薬者”とあだ名をつけられている私を、森に詳しいだろうと案内役に声をかけようと思ったようだ。


 まぁFランク冒険者の1日の稼ぎなんて、彼らからしてみれば安いものですからね。


 今日の目的は、もともとフリナの状況を確認しに行こうと思っていただけだ。まぁ問題ないでしょう。


「では今日1日よろしくお願いします」


 結局臨時のパーティを組む事にしました。


 他のパーティの活動を見る良い機会ですからね。ただニックス以外の3人は大丈夫でしょうか。


 少し心配です……。

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