第50話おっさんのリィスと現れた不穏を告げる者

「いいよーリィス」


 結局1匹1匹やっていては効率が悪すぎた。


 半量の誘引ポーションを使いアシッドスライムを誘い出したところで……


「ハハハハハ!キモいっキモいけど!大量大量!からの『ストーンレイン』(超極小)」


 半量使用のはずが、あまりの大量のアシッドスライムと大ネズミにテンションのおかしくなっていたが、そこはリィスの為。絶妙に限界まで弱くしたストーンレインで弱らせ、一気にリィスに吸収させた。


(マスター。マスター。)


 リィスが、全てのアシッドスライムを取り込んだのを確認すると、頭の中で声が響く。


 驚きのあまり、おかしくなっていたテンションがスッと落ち着きを取り戻した。


 少し高めの可愛らしい少女のような声だ。


「……リィス?」


(マスター。リィスだよー。ボクやっとはなせるよー)


 おぉやっぱりリィスの声か。もしかして!


 種族:オリジナルスライム Lv10

 名前:リィス

 スキル

 同族吸収

 物理衝撃耐性

 再生(極小)

 ★念話

 ★溶解液


 おっやっぱり。


「リィス。念話が使えるようになったんだね。」


(そだよー)


 リィスのステータスを開くと、念話と溶解液という2つのスキルが増えていた。

 どうやら念話はLvUPで覚え、溶解液は同族吸収の効果により、アシッドスライムから吸収したらしい。


 おぉ。吸収したスライムの能力も吸収できるんですね。これは凄い可能性を感じます…


 Lv10になっても大きさなどは変わらず、単純に魔素が増えLvUP分強化されたらしい。

 それでもスライムですから微々たるものなんですけどね。


(リィス。聞こえる?)


 念話のスキルは双方向なのでしょうか?今後の為にちょっとした実験です。

 今までは口に出して会話してましたけど、今後人前だと話せなくなりますからね。


(聞こえるよー)


 こちらの問いかけにタイミングよく答えるリィス。

 どうやらこちらの念話も聞こえているようですね。これで話しやすくなりました。


 リィスと、いつでも話せるというのは嬉しいですね。


「リィス。溶解液のスキルってどのくらい……」


 ジュッ


 リィスのもう一つの新スキルである溶解液について聞こうとしたところ、リィスが床を溶かしてみせた。


 この世界の下水がどんな材料で作られているかはわからないが、コンコンと叩いてみればコンクリートに近い硬度はある。

 リィスが溶解液を垂らしたその場所は、白い煙を上げ10円玉程の大きさの窪みを作り出していた。


 アシッドスライムの溶解液も、かなりの速さで大ネズミを溶かしていましたが、スキル化しているだけにそれと同じ強さだと思っていいみたいですね。


 そう思って見ていたが、突然リィスが現れたアシッドスライムに覆い被さり、白煙をあげるとこちらが弱らせる事なく吸収してしまった。


「アシッドスライムの溶解液より強いって事だね。そうじゃなきゃ溶解液を蓄えているアシッドスライムが溶けるなんて事ないからね。」


(そうだよーマスターからもらった魔力もあるからー)


 溶解液を覚えた事で、今までなかった戦う術を手に入れたリィス。これで少し安心ですね。


 手のひらに戻ってきたリィスを撫でる。相変わらずヒンヤリとして気持ちの良い手触りです。勿論触っても安全ですよ。


「ん?そういえば『融合』出来ない?」


 リィスに触れていても、直感が働かない。


『融合』


「あれ?やっぱりか。」


(マスター。融合はまだむりだよー)


「なるほど。どのくらいで再融合可能か確認する必要がありますね。」


 実は召喚と送還も1回ずつだった。融合と召喚。どちらも制限を理解する必要がありますね。


(?)


「こちらの事ですよ。」


「ん?誰か来ますね」


 カツッ カツッという足音を感じ、慌ててリィスを腰にくくり付けていた袋の中に入れ、剛棒を構える。


 今日依頼を受けて下水に来ているのは私だけのはずですが……


 近付く足音に警戒を強めると、角を曲がりこちらへと姿を現した。


「カカカカッカ」


「何⁈スッスケルトン⁈」


 それは理科室にあるような白骨標本が、腰布を巻いただけで動き出したホラーな光景。


 粗末な剣を持ち、怪しく光る眼球のない瞳がこちらを見つけると、まるで獲物を見つけた喜びを表現するように歯を何度も噛み合わせるよう音を出した。


 この下水は墓地とは違い、基本アンデットモンスターが出現されると言う報告はない。


 だからこそ、万が一誘引ポーションが原因だとしてもその存在する事自体が異常と言うことになる。


「まあただのスケルトンなら、そこまで脅威ではないんですがね」


 逆に剣や槍、弓などは相性が悪く、剣しか使えない新人冒険者が不意を突かれ命を落とすことは稀にあるが、実際のところ、スケルトンと剛棒などの打撃系武器は実に相性が良い。


 斬るのではなく、砕く。


 これがスケルトンの倒し方なのです。


「ハッ!!」


 剛棒を振り下ろし、剣を持つ右の鎖骨部分から肩にかけてを折ると、スケルトンは剣を落とす。

 それを残った左手で持つ事もせず、左手を振り上げ、数歩後退したこちらに向かってくる。


「武器を失った時点で、諦めなさい!」


 腰を落とし、剛棒を横から振り下げるように足を払う。

 ローキックの軌道で下された剛棒によって、スネ部分の骨の折れる音が下水内に反響し、スケルトンが地面へと崩れ落ちた。


 グシャ グシャ


 そのまま頭を潰すように剛棒を二度落とすと、スケルトンは、魔石を残し崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。


「さて、厄介な事になりましたね。一応この魔石を持ってギルドに報告しましょう。」


 でも困りましたね。特殊なスライムであるリィスを連れて行っていいものか?

 一度袋へと入ってもらったリィスが袋の上から顔をだすと、優しく撫でる。


 プルプルした感触が実に気持ちいい……。


 しかし、リィスから出たのは思わぬ提案だった。


(マスター。ここにいてもいいー?ここはいっぱいきゅーしゅーできるから)


 ここには魔法を使う魔物はいませんし……大丈夫か?


 どうやらうちの子は、思ったよりも逞しいようだ。


 さすがは魔物。生まれて数時間で、自分で強くなる道を選んだようです。

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