第32話おっさんの初依頼と魔物との遭遇
◇冒険者ギルド◇
最優先課題である身分証の提示を終わらせ、ギルドへと戻ると既に先程の騒々しさはなく、冒険者の数も掲示板に張り出された依頼書の数もかなり減っていた。
朝方の冒険者達は、朝一で貼り出される依頼を探しに、同じような時間に集まるようだ。
人の減った受付に歩を進めると、朝とは違い男の受付担当者が対応してくれた。
どうやらこのギルドでは、2日以内であれば荷物を預けられると言うことで、今日中に1回は依頼を受ける必要がある身としては、宿に一度向かう手間が省けて随分助かるシステムだった。
最初の依頼として、受付で聞いた常設依頼である薬草採取のため森へと向かう。
この街の近くには、ワイリナ大森林と呼ばれる広大な森が広がっており、そこから様々な恩恵をこの国は受けている。
しかし同時に、城下町の近くと言っても森は魔物達の領域となっている。
薄暗く、魔物の元となっている魔素が溜まりやすい森の奥に行けば行くほど、強力な魔物が住み着いており、危険な領域となっていた。
今回は、森の浅層にも多く生えている治癒ポーション用の薬草の採取が、依頼内容となる。
この薬草は水の豊富な土地に多く、師匠からの講義でも川の近くを目指すのが効率が良いと教わりましたから大丈夫でしょう。
そして、慎重に魔物気配を探りながら、ギルドで確認した森の地図にあった川に向かい進んでいく。
この浅層でも、ホーンラビットやボア、そしてゴブリンが出てくる。
「私は弱いですからね。まだ兎以外の魔物は遠慮したいところです。」
1時間程歩いていると、あたりがひんやりと冷たい空気を纏い始めた。
同時に地面も少し湿り気を帯び、川が近い事を知らせた。
「おっ」
薬草がいっぱいありますね。
川に辿り着く手前の広くなった場所に着くと、そこは薬草の群生地となっていた。
「おおぉ。これは良い薬草です。それにこの量なら何回分か依頼が達成出来そうですね。自分の分も採っていきましょう」
しかし、夢中になって薬草を採っていたせいで、その声が近付いているのに気付くのが遅れてしまった。
「しまった。この声は!」
「ギィ ギャ ギャア」
「ギャ ギャア ギ?」
「ギャ!」
魔物の声を聞き、すぐに薬草をバッグへと詰め込み、茂みへと飛び込み息を殺す。
そして現れたのは、ファンタジーでも1、2を争う程メジャーな魔物。ゴブリンだった。
現れたのは3体のゴブリン。
全身緑色の体に130〜140cm程の身長、尖った耳と鼻。ギロリと見開く目。その醜悪な顔といい。ぽっこりと少し出た腹といい。それはまさにゴブリンという風体だった。
腰布一つ身につけたゴブリン達は、薬草を採りに来たのだろう。
明らかに何者かによって荒らされたその場に、3体のゴブリンは地団駄を踏み怒りを露わにしていた。
「「ギャー!」」
「ギャギャ!」
ここはゴブリン達の薬草の採取場でしたか。
まずいですね。1体ならなんとかなりそうですけど、流石に3体は……。私の実力じゃだめでしょうね。
なんと言っても兎とスライムしか討伐した事がありませんからね。
まあセイドウくんなら一瞬なんでしょうけど……。
手に持った剛棒をギュッと握りしめる。
握りしめた手のひらに、ジワリと汗が滲み地面に落ちると、鼻をヒクつかせたゴブリンがこちらの茂みを指差した。
見つかりましたね。
師匠の言っていた通り、動物型以下とはいえ、尋常じゃない嗅覚ですね。
こちらへと向かってくるゴブリン達に隠れるのを諦め、茂みの後ろへと飛び退く。
「ギャーーー!」
急に飛び出した人間に、3体の足は一瞬止まったがすぐに武器をちらりと見ると、ニヤリと笑い向かってきた。
ゴブリン!……っぐ!その表情を見た瞬間心臓が大きく高鳴る。
本当に凶悪な顔してますね。ゴブリン。それでもいくら凶悪な魔物と言っても。雑魚と呼ばれる魔物で……
殺すのは躊躇します。と言うか勝てる気がしませんね。
背筋にかいた汗が下へと流れる。
そして次にゴブリンと目が合った瞬間だった。
ビクッと身体が大きく震える。
怖い 怖い 怖い 怖い…………!!!そう全身で告げていた。
逃げる!
そう決心した瞬間、ゴブリンに背を向け脱兎の如く逃げ出した。
とにかく
逃げる
逃げる
逃げる。
背を向けたところで少し余裕が生まれる。
逃げるのには自信があった。
戦闘訓練の殆どが体力作りだったんですからね。スタミナには自信があります。
「あっ痛っ」
調子に乗って走っていると、木の根っこに躓き地面を転がる。
あっという間に差が縮まった。
慌てて腰につけていた小さなバッグから、逃走用に作っておいた物の一つを取り出し、ゴブリン達の足元に投げつけた。
「ギャ?」
「「「ギャァァァ」」」
地面へと叩きつけられた瓶が割れ、中から真っ赤な粉が舞う。
そして、3体のゴブリンが一斉に目を抑え暴れだした。
刺激草+カプサイ
乾燥させたこれらは、調合によって目潰しを目的とした投擲武器となる。
師匠から聞いたそのレシピの通り、カプサイという唐辛子のような実と刺激草と呼ばれる刺激成分を強烈に高める薬草を手に持つとポーションの時と同じように『融合』できると直感が告げた。
乾燥すらさせていない、生の素材を両手に持つ。
『融合』
その瞬間。
ポーション以上に魔力が吸われるが、それらが中心へと向かうと渦が現れ、真っ赤な薬の入った球体の瓶が完成した。これが融合の力。
これは強力な目潰しです。
目が真っ赤に腫れ上がる粉ですから強烈でしょう。
私自身、近くに投げ過ぎて大変な目にあいましたからね。効果は自分自身で実証済みです!
「それでは!」
目を抑えながらも、奇声をあげ腕を振り牽制するゴブリン。
未だ粉の舞うゴブリン達に近付けば、自分自身がダメージを追ってしまう。完全に逃走用の薬。
そして改めてゴブリンに背を向け、なんとか逃げ出す事に成功した。
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