第64話おっさんのスキルスクロールと新たな魔法

 対価として非常に高価なスキルスクロールを提示する師匠に驚き、テーブルを両手で叩くように立ち上がる。


「はい⁈師匠!どういう事なんです?私の作ったポーションにそんな価値があるんですか?」


 スキルスクロールといえば安くても50万以上の価値がある。ポーション100本以上だ。


「何を言っておるか。使用期限が圧倒的に長い上に、この品質のポーションじゃぞ。かなり薄めても通常利用に足るポーションじゃ。それよりもまぁ落ち着くのじゃ。ほれ。」


 興奮を諫めるようにお茶を注ぐ師匠。


「はい。すみません」


 大きく深呼吸をしながら席に着き、お茶を飲むと少し気持ちが落ち着いた。

 その姿を確認した師匠が説明を続ける。


「高級ポーションより常備薬としてのポーションじゃな。最近は国や冒険者が大量に購入して一般の市民に行き渡っておらんのじゃよ。希釈して売れた分の1割は更にヌシに入ってくるでな。」


 そして師匠が最後に小さく付け加える。


「それとな……旨いんじゃよ。ヌシがくれたあのマジックポーション…また飲みたいんじゃ」


 お願いじゃぁとうるっとした瞳を向ける師匠……。

 見た目は幼子のおねだりです。

 まあ師匠は魔子族という種族。見た目以上にお歳をめして……


 「ヌシよま〜た余計なことを考えておるの。それよりどうなんじゃ。頼むのじゃ。もう苦くてまずいマジックポーションを飲みたくないんじゃ」


 あぁ師匠。そこまで飲みたいんですね。

 たしかに後から気付きましたが、私の作ったマジックポーションって苦くないんですよね。マジックリーフの甘みがそのまま生きてる感じで。調合や錬金術と違って材料に一切火を通してないですからね。それが原因でしょう。


 治癒ポーションに関しては、おそらくセイドウくんの訓練や、それに付き添う騎士団用のポーションに加え昨日のスケルトン討伐の準備で、一気にポーションの需要が増えたのだ。今の品薄状態が続けばポーションは高騰し、転売目的の買占めが起こり、余計一般の家庭で手に入れられなくなっていくだろう。


「わかりました。まずはポーション100個納入します。」


 私の『融合』が役に立つのならそれが一番ですからね。


「それと、勿論師匠の為にマジックポーションを喜んで作ります。スクロールも欲しいですしね。」


「なっ…うむ。有難い。あのマジックポーションはまだ流通させるのはまずいからの。よからぬ事を考える馬鹿が出てくるでな。それで?スクロールの属性は何にするのじゃ?」


 あぁ今から作るんですか。さすがですね師匠。


「そうですね。火魔法……はダメでしょうか?」


 決して、買おうと思ったら80万トール必要だからという理由ではありませんよ。

 単純に魔法での攻撃力を上げたいんです。あと前みたいに死体が大量に残ってて問題になるのもまずいですからね。


 あれは本当に反省です。いつでも消化して証拠を消してくれるリィスが呼べるとは限りませんし。


 ただどうしても森では使いづらいデメリットはある。

 自由に使えるようになるまでは、森での使用は控える必要がありそうですね。


「ほー。火魔法ねぇ。ヌシの事だから融合用にとか言いいながら水魔法を選択すると思ったんだけどね。ヌシも男だったという事かね。いいだろう。ポーション納入の報酬じゃ。火のスキルスクロールを作ってくれてやろう」


 そう言うと持っていた白紙のスクロールを両手に掴む。

 そして師匠の両手が火を纏ったように赤く輝くと、スクロールの表面に端から燃えるように文字が浮かび上がり、中央で結合し黒い煙をあげ火が消えた。


 そしてそれをクルクルと巻き、蝋で封をする。


「これがスクロールの作成……。」


 簡単な作業に見えるが非常に高度な魔力操作と魔法に対する深い知識が必要となり、本来スキルスクロールの作成はスキルブックに比べれば楽だが、それでも非常に難しい。


「クックック。驚いたかい。たった1つの属性を入れるのならこんなもんじゃよ。ほれ早速使ってみるかい。ヌシの魔法操作のLvなら火属性も問題ないだろうて」


 受け取ったスクロールの封を剥がす。

 そして、スキルスクロールに描かれていた魔法陣を見た瞬間。魔法陣がひかり、煙となって消えた。前と全く同じである。


「ステータスカード」


 念の為、ステータスカードを手に取り確認する。


 名前 タクト・マミヤ

 年齢 17

 スキル 融合 採取Lv2 魔法操作Lv3 棒術Lv1 殺傷耐性Lv2 土属性魔法Lv2 生活魔法Lv1 火属性魔法Lv1 ステータスカード


 大量の魔物を倒したからであろうか、殺傷耐性のLvが上がっている。


 そして、しっかりと最後に火属性魔法と表記が加わっていた。


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