第29話閑話Ⅱ:おっさんの師匠 後編

「ん?なんだいこれは?」


 タクトが眠りに入っても治癒魔力の循環が終わらない。


 それどころか、ダメージを負った部分の修復が一気に早くなっている。


 途切れた筋組織、血管、魔力回路。

 これらが結合し、修復され、より力強い組織になっていく。


 魔力操作も熟達すれば、寝ている間だろうが無意識に魔力を循環させるに至る。


 しかし、初心者と言っていいタクトでも拙いながらも魔力循環は途切れていない。


「これは……!スキルか!『融合』させているのじゃな。筋組織も魔力回路も!こやつ命の危機を体験しスキルに新しい使い方を見出しおったのじゃ。」


 すまぬのじゃタクト!


 筋組織はジジイだが、魔力回路のダメージはどう考えても私じゃないか。


 おそらく筋組織だけでも、魔力回路だけでもこの状態にはなっていなかっただろう。


 明日になれば、また一層強い組織になっているんじゃろうな。


 異常な訓練に、異常な回復を繰り返したタクトは、本人が思っている以上の体にし、5時間もかかっていた武術の訓練も午前中には帰れるようになり、魔法の訓練も増やせた。


 そして、2週間という短い期間で驚くほどの訓練を消化させたタクトは、訓練用の敷き布の上で寝ながらゆっくりながらスムーズに魔力を循環させる事が出来るようになっていた。


「こやつおかしいんじゃないじゃろうか……」


 タクトの少しも才能を感じていない発言に、つい突っ込みをいれてしまったが、タクトには聞こえずに済んだ。


 もっともっとと、詰め込んでいるうちに、魔力視の応用まで身につけるに至った。


 そして、『融合』を利用しての様々なポーション作り。

 薬の研究。魔物の分布。世界の知識。真面目なタクトに教えるのは楽しかった。


 つい。中央図書から閲覧が許されていない書物を拝借しタクトに読ませたのは内緒じゃ。


 どうやって持ってくるか疑問に思っていたようじゃがの。オリジナルスキルとは教えんよ。


 そんな調子で、次々と知識を吸収したタクト。

 薬学ではうちの学園の生徒の誰よりも詳しくしてしまった。


 まあ薬も魔法も専門じゃしの。どちらの弟子とは言っておらんし。


 ジジイも何やらおかしな事をやらせているようじゃしの。まぁ自重しとったら我が弟子を取られたみたいで悔しいのじゃ。


 そして、タクトがこの家にいれる最後の日。


 私が渡した大きめのバッグに、倉庫から拝借させてきた生活用品を詰め込み口を絞る。


 そして自分の作ったポーションを並べると、一つずつポーションバッグに刺していく。


 聞けば、ここを出た後はジジイから紹介された宿に行くそうだ。


 一泊3,000トール。平均的な宿を紹介されていた。私はこの国の宿には詳しくないが、平均的な宿なら心配することは無いじゃろう。それに悔しいがジジイの紹介じゃしの。


 師匠の食事が頂けなくなるのが一番嫌ですなんて、なんて作り手を喜ばせる事を言うんだろうねこの子は……。


「それでは行ってまいります。師匠。」


「まぁ上手くやるんだよ。わかったね。あんたは落ち着いた感じを出してるがどこか考えなしで突っ走るところがあるからね。一人立ちするまで戻ってくるんじゃないよ!」


 別れの挨拶中、なにやらいつもの失礼な事を考えている気配がしたが、まあいいじゃろう。それ以上に感謝が伝わる良い表情をしておるしな。


「はい!師匠。今迄お世話になりました。このご恩は立派に独り立ちしてお返しします。」


 タクトが深々と頭を下げる。目頭に何か込み上げてくるのを必死に堪えた。

 いつでも会えるように魔道具も渡した。何かあればくるじゃろう。私はこの工房でそれを待つ。


 別れの挨拶を済ませたタクトがバッグを背負う。


「無理するんじゃないよ。馬鹿弟子」


 旅立つ我が弟子に餞別を、大したもんじゃ無いが一番好きと顔にでておったからな。

 差し出したその袋をタクトが開ける。中身は大きめのおにぎりじゃ。


「ありがとうございます。師匠」


 一瞬で表情が緩む。うんうん喜んで貰えて何よりじゃ。


 出発間際。タクトが1本のマジックポーションをお礼だと渡してきた。どうやら自分の中での最高傑作らしく私に成長を見て欲しいという事だった。


 なんとも出来た弟子じゃないか。

 死ぬんじゃないよ。外に出た始めが一番危険だからね。


「ふー」


 タクトを見送り、静かになった工房で調薬を繰り返す。

 この国のポーション事情は不安定だ。国が優先的にポーションを集め市場にはなかなか出ず高騰している。

 本当にロクなことをしない国じゃな。


 ここにいる間に、少しでも一般の者達に渡るように流していこうと決めた。


「ちょっと魔力を使いすぎたかね」


 調薬をする上で、魔力を使えば大量に安定したポーションの作成が可能じゃ。

 ただちょっといつもと違い、弟子がいなくなったモヤモヤが大量の魔力を消費させた。


「む。作りかけのポーションを仕上げるには少し魔力が足りないね。だがのう……魔力ポーションの苦さは私から言わせれば誤魔化せてないのじゃよ……。飲みたくないのう。でも無駄にするわけにもいかんしのう……そうじゃ!タクトから貰った魔力ポーションがあったの。弟子作ならば苦さも耐えれると言うものよ!」


 すぐに戸棚にしまったタクト作の魔力ポーションを取り出す。

 通常の調薬で作った水色の魔力ポーションとは違い、鮮やかなエメラルドグリーン。治癒ポーションが青から緑になるように、魔力ポーションも色が変わった。どちらかというと錬金術に近いのかもしれんのう。


「それでは……」


 蓋を開け意を決して魔力ポーションに口をつけ一気に飲み干す


「うっ!」


 そして口いっぱいに魔力ポーションの味が広がった。




「うまいのじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 それはそれは甘美な味が。


 うむ。これはまずい事になるかもしれんのう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


★100

有難うございます。

喜びの2話目投稿です。


次話から異世界生活編スタートです。


是非これからもよろしくお願いします!








 












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