第13話おっさんの堅パンと師範

 目を覚ますと、外はうっすらと明るくなっていた。


 どうやら魔力を使い切ってそのまま寝てしまったようだ。


 まぁ気絶……なのかもしれませんが。


 布団を敷いておいて良かったです。硬い床で寝なくてすみました。この魔法陣の敷き布もいい感じで、敷布団がわりになってくれましたね。


 それにしても、全身が重いです。

 スライムに体を呑み込まれているような、鉛を全身に付けて動いているような、そんな倦怠感を感じる。


 魔力を使い切るというのは、こういう感じですか。


 昨日は何周も魔力を循環させ、その度に魔力の量を増やした結果。

 最後にお腹まで戻ったところまでで記憶がないですね。少しずつですが、循環のスピードも上がってきましたし。


 これから2週間でどこまで上がるか楽しみです。


 ぐぅ〜。

 小さくお腹で音がなる。


 そういえば昨日のお昼に師匠宅でパンを食べた以外、夜は何も口にしていない。


 お腹がすきましたが、何もないですね。

 保存食にもらったこの不味そうな、堅パンを食べるしかないようです。


 ゴンゴン


「あ〜れ〜?おかしいですね。パンってこんな音しましたか?」


 保存が効くようにと堅く作られたパンは釘でも打てそうなほど硬く。齧れば、口の中の水分が全て持っていかれるような感覚を味わう。


 はぁ美味しくないですね。誠道くんは昨日も豪華な食事を食べたんでしょうけど、こればかりは仕方ありませんね。

 覚悟の上です。


 師匠の家で食べたあの美味しいパンにありつくまで、なんとか頑張りましょう。


 ゆっくりと噛みながら水とともにふやかしながら堅パンをなんとか食べ終え、偽りの満腹感で腹を満たす。


「さて、行きますか」


 このまますぐに師匠の家に行きたいが、目的を達成する為、荷物を置いたまま城の方へと足を向ける。


 裏庭にあたる森とは違い、流石に城周辺には魔物はでない。安心して移動することが出来る。


「おはようございまーす。誰かいませんか〜。」


 扉を少しだけ開くと、中へと声を掛ける。

 ここは、兵舎の隣。兵士達が戦闘訓練を行う所謂 《訓練場》だ。野球場程の大きさの訓練場は固められた土で整備され藁の人形や、的のマークの書いた板などが備えられていた。


 あの誓約通り、私には戦闘の指導を受けられる権利がある。

 その指導者が、今日ここに来ていると、昨日の兵士は帰り際に不意に思い出すように、伝えてきた。


 出て行くまでの残り、13日。自己鍛錬の時間を一切無駄に出来ない私は、戦いの術を学びにこの兵舎へとやってきたのだ。


 そして少しでも、こちらの変化を知らせないために、魔力が使えることを隠す事にした。雑魚でいいのだ。

 基礎からしっかり教えて貰うために。


「おらぁ!しっかり踏ん張って下さいよっ!」


 扉を全て開けたところで、奥では既に誰かが訓練場を利用していた。朝練でしょうか。精が出ますね。


 一方的に攻められる人物を観察していると、その人物が誰かがすぐに分かる。


「あぁ。誠道くんでしたか。」

 まさか同じ訓練場でとは……。

 それとも、ここしかないのでしょうか?


 誠道くんと、指導者は激しく剣を振るう。


 チリチリと光を溜め込んだ聖剣。しかしその威力をいなすように大柄な男性が大剣を斜めにし、剣を滑らせた。


 その大柄な姿からは想像も出来ないほど、繊細に誠道くんの剣を滑らせるその男は、近衛騎士団団長ホーエンその人であった。


 あぁ誠道くんは、この国のトップの騎士団長自ら鍛える事になったんですね。納得の待遇です。


 それにしても結局見えたのは、あの滑らせたところのみですね。剣が止まったから見えましたが、あとは音だけしか認識できませんでした。彼は私が倉庫と師匠の家を往復していたたった1日で、一般人ではなくなってしまったようですね。


「ほっほっほ。まるで猪じゃ。若いのぉ若い若い。それでも流石は天賦の才かの、あやつ。最初に比べ動きが格段に良くなっておるわい。ホーエンから何かスキルを取得したかのう。奴め諸々の戦闘用スキルはかなり高Lvだったからの。スキルの大安売りじゃな。でもそれではダメじゃ。つまらんの〜。」


 誠道くんの訓練の様子を見ていた私の目の前で、急に話に入ってきたのは、腕に大きな切り傷を持った老人だった。


「あの〜。御老体?私には速くてまったく見えないのですが……」


「ん?おぉ。お前さんが、例の無能者か!ほっほっほ。こんな老いぼれに仕事があると訓練場に来てみれば、威勢の良いのがどんぱちやっとるでな。つい見入ってしまった。こんなもんは慣れじゃよ。速いのに目が慣れれば自ずと見えてくる。」


「そうなんですね。それよりも多分仕事って私の事だと……」


 まあ普通に考えて、このタイミングでこの場に行けと言われているのであれば、私の戦闘訓練でしょう。

 なぜこんな御老体が?というのはこの際どうでもいいです。どうせまともな指導者が付くとは思っていませんでしたからね。


 それでも、あの速さの剣戟を何気なくみて総評するこの御老体は何者なんでしょうか?

 只の老人ではなさそうですが、本人は飄々として掴み所がない感じですね。


「おぉ。そうか。なる程のお前さんは本当に雑に扱われおるんじゃな。こんな引退して掃除夫として住み込みで働いている隠居に戦闘訓練とはの。かっかっか。滾るのぉ滾るのぉ。」


 聞けば、この御老体。

 掃除夫としてこの城の訓練場と兵舎の掃除を任されているらしく、よくここで兵士達の模擬試合を観戦しているらしい。そして昨日の晩もここで観戦しているときに、兵士の1人が朝一でここに来て、訓練に来るようならば、私の相手をするように言ってきたらしい。

 要は誰でもよかったのだ。


「2週間。ここに顔を出せば掃除しなくてもよいそうじゃ。楽しませてもらう礼じゃ。生き残りたいのじゃろう?」


 その言葉に無言で頷く。


「それならば、この年寄に任せてみるのじゃな」


 急に表情が変わる御老体。

 なるほど。只の老人ではないようですね。


 それならばこの人に賭けてみましょうか。迷う事なく、私は頭を下げた。


「よろしくお願いします。師範」

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