第14話おっさんの武器と豪腕な老人

「さて、始めるかの。取り敢えず……。これかの。ほい ほい ほいっと」


 そう言って師範は、立て掛けられていた武器から、短剣、長剣、槍をこちらに放り投げた。


 この際、物は大切に、武器を足元に投げつけたら危ない。ダメ絶対!と言うのは置いておきましょう。効率重視です。


 そして、振る仕草をしながら、無言で3つの武器を指さす。


 どうやら、使ってみろということのようですね。


 言われた通り、足元の短剣から拾って、師範の言われた通り振って見せ、その後も長剣、槍の順番に素人感丸出しの素振りを見せ終わると、師範は何度か頷くと訓練場の外へと出て行ってしまった。


 んー。もう愛想つかされてしまいましたか。


 こんな武器なんて、向こうじゃ使った事ありませんでしたからね。


 何となく時代劇で見たような感じでやってみましたが、間違っていたんでしょうねきっと。


 そしてしばらくの間、渡された長剣を頭の上から下へと素振りをしていると、何やら布に包まれた長い物を持った師範が帰ってきた。


 良かった。どうやら見放された訳ではないようです。


「ん?どうしたのじゃ。そんな変な顔をして。」


 おっと。また顔に出てたいましたか。


「いえ。急に出て行ってしまったので、もう見放されたのかと……」


「なんじゃ。信用ないのう。任せろと言うたんじゃ。2週間は責任もって面倒見るのが当然じゃろ。安心せい」


 ステータス判明後の、この国の私への態度の豹変振りを見てきたせいか。すぐに人を疑ってしまう。


 よくないですね。


 でも師匠といい、私は指導者には恵まれたみたいですね。この師範がどういう人であれ、もう疑いません。ついていきましょう。


「はい!改めてよろしくお願いします師範」


「ん。そうじゃそうじゃ。それでいい。さて、素振りを見せてもらったがの。お前さん戦闘の才能……。はっきり言ってあまりないのぉ。それにあまり運動してないじゃろ」


 輝度の事は伝えていないが、たった数回の素振りでほぼ全てを見抜かれていました。


「その通りですね。こちらに来る前はほとんど運動をしていませんでした。」


 やっぱり師範は、ただ者じゃなさそうです。何者なんでしょう?


「まぁそうじゃろ。体を使い慣れてない、見よう見まねで動いてる奴の典型的な動きじゃからな。と言うことで、お前さんに刃物武器は向かん!」


 聞けば、剣などの刃が付いている武器は、その刃の角度や方向、強さなど。しっかりと扱わなければろくに斬れずに、突く以外では、ダメージを与えるのは難しいらしい。


 下手すればすぐに武器を損壊させてしまい、逆にピンチに陥る……。


 確かにその通りですね。


 という事で、センスが物を言う武器に2週間かけても、大して上達しないと言うことです。


 そう考えればたった1日であのレベルに到達する誠道くんは、やっぱり勇者と言う事なんでしょうね。


「そこでじゃ。ほれ」


 3つの武器をしまうと、師範は持ってきていた布に包まれた何かを、私に渡そうと手を伸ばします。


「ありがとうござっ!重っ!」


 師範が、おもむろに渡してきた棒状の何かを受け取った瞬間。

 その重さに耐え切れず。地面に落としてしまう。


 ドス。


 重量のある音を立て、地面に落ちた棒をなんとか拾い、落とさないように持ち直すと、両手でしっかりと支えながら、ゆっくりとその布を外す。するとその武器の全容が明らかとなった。


 木の棒?いや棍だったか?

 正式名称はわからないが、それは中国武術などでよくみる。背丈程の長さの八角形の棒状の武器だった。


「どうじゃ。お前さんには、まだ重いじゃろ。それはの《剛棒》という名の武器じゃ。《剛棒》はの。見た目以上に重量のある棒でな。重さだけではなく、頑丈さも兼ね備えた棒武器じゃ。刃の向きなんて気にする必要無しじゃ。当たればダメージを与える。どんな形であれ当てるだけ。どうじゃ?お前さん向きだと思わんか」


 ぐぐぐぐ。

「なるほど。確かに……。しかし…重い ですね。これは……。」


 どういう作りをしているのでしょう?

 さすがはファンタジー武器です。圧倒的質量の棒ですか。

 たしかに私に合っていそうな武器ですが、それでも持てなきゃ意味ないですが。


 そう考えればこの師範。軽々持ってきませんでしたか?

 いや。たしかにあの細身の体で軽々と持ってきましたね……。


 この老人は、やはり予想以上に凄い人なんじゃないでしょうか。


「なんじゃ?こんな老人に持てて、自分が持つのがやっとなのが、そんなに不思議かの?」


 どうやらまた顔に出ていたらしいですね。まったくポーカーフェイスというスキルはないのでしょうか。


「はい……。そうですね。正直疑問です。師範もそこまで筋肉があるように見えないのですが……あの方のように。」


 そう言って指を指した先には、踏み込みの音がこちらにも伝わってくるほどの踏み込みで、誠道くんの懐に入り込み大剣を軽々と振るい。その剣速だけで土埃が舞う筋肉の鎧を纏うホーエンの姿があった。


「ほっほっほ。素直じゃな。それが一番じゃよ。こんな老いぼれに何故この重い武器がもてるんだろうか。それがお前さんの疑問じゃろ?単純な話じゃよ。こんな見た目でも。今は、この私がお前さんより、筋力が上。ただそれだけの事。そう。単純なんじゃよ」


 そう言って師範は私の肩に、ポンっと手を置いた。

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