第66話おっさんの超達人な師範と怪しく影に潜む者
難しい顔をしていた師匠の顔が元に戻る。
何か私、変な事言ったでしょうか?
「そうだ師匠。シュリンク様って知ってますか?凄い人みたいで、私の使う剛棒の開祖みたいなひとらしいです。」
武器屋で聞いた剛棒の開祖という人物について聞いてみる。
実際に剛棒は昔から使われていたが、ただの武具ではなく、武術として昇華させたのは間違いなく、シュリンクであろうと話していた。
そこまで有名ならば、長命の師匠なら知っているのではないかと思った。
「あんた……。」
しかし、何故か師匠から向けられるのは憐れみの目。心底残念な奴だ……そう瞳が語っています。
「あの……師匠。その眼は…」
「あきれたねぇ。ほんとに何も知らないのかい?」
この反応……。
どうやら知っている人のようですね。私の知っている中で剛棒を使えるのは師範だけ。でも師範は誰も知らないくらいですから有名ではないですよね。
いや…もしかしたら他にもいた?
「はぁ。お主に剛棒の稽古をつけたのは誰だい?」
「 師範ですね。」
なんでそんな事聞くんでしょうか?勿論私の師は師範だけですよ。
「名前は?」
名前?そういえば聞こう聞こうとして……
「そう言えば結局名前を教えてもらってないです……。師範は師範と呼んでいたので……。」
「はぁ師弟揃って。とうとう最後まで教えんとは。あんのくそジジイ……」
師匠が大きな溜息をつき、額に手を当てる。
「あれがシュリンク本人じゃよ。」
「えっ?えーーーーーー!!!!」
あの細腕で軽々剛棒を扱うあたり、剛棒のかなりの使い手だとは思っていましたが、まさかの開祖様ご本人……。
えっ?
そんな人から私は教えを?ん?そんな偉い人、城の人知らないの?ただのお爺ちゃんじゃないじゃないですかっ!
あれ?
頂いた剛棒ってかなり貴重なものなんでは?もしかしてダンジョン産なんじゃ?
あれ?
師範言いましたよね。愛弟子って
あれ?
剛棒も?
あれ?
「え?城の人誰も師範の事なんて……」
「そりゃそうさ。あの偏屈ジジイがこの国にいたのなんて半世紀以上昔のことさね。あの男すこーし長命種の血が混ざってるからね。普通に人間より長生きなんじゃよ。こっちに来た時には、既にただのジジイさ弟子以外の前には極力出なかったしの。私と再会してからの口癖は、「暇じゃー」じゃからの。よほど暇を持て余してたんじゃろうて」
あの暇を持て余していたお爺さんがまさかの……。只者では無いとは思っていましたが。ホントに暇してたんですね師範。
まあ存分に暇を潰して頂けたなら良かったです。私はたった2週間のできの悪い弟子でしたけどね。
「ほんと驚きましたね。城には行けませんが、また会えると嬉しいですね。」
「あぁそうだね。あぁ。あの爺。ヌシとの出会いが刺激になったんだろうね。ヌシが出て行った後すぐに自分を鍛えなおすとか言って出てったよ。全くジジイのくせに何滾ってるんだか。という事で城にはもういないよ。」
驚いた事に、あの後師範はすぐに城を出ていた。
街で声を掛けてくれればとも思ったが、次会うときはもう少し強くなった姿を見せたい。
そうしたら、ニイナさんや、ネルさんのような優しい家族と出会わせてくれた事にもお礼を言いたいですね。
「じゃあ今度は城の外で会えるんですね。」
「あぁそうさ。いつかね」
再開できる日を楽しみにしましょう。
「それでは師匠。また来ますね」
宿屋に帰ると既に夕食どきとなっていた。
ネルから本日の夕食『ホーンラビットの蒸し焼き定食』を受け取る。
箸をいれるとホロホロと肉が骨から剥がれ落ちるほど柔らかく、余分な脂はないがしっかりとした旨味が口いっぱいに広がる。そしてニイナさんのご飯を食べると、何故だか力が湧くような感じがします。
師匠の家で食べた香草焼きとは違った美味しさでした。
「ハッ!」
大満足の夕飯を終え、日課の演武を行う。
流れるように剛棒を振り、途切れることのない剛棒の動きを最後の振り下ろしで終える。
「ふー。それにしてもここに来てから毎日演武をしてますが、時間がなかなか短くならないですね。」
時間を見ればちょうど30分を切ったところ、実際この宿に来てからあまりタイムは縮まっていなかった。
体にかかる負荷も演武の時はやけに重く感じる。
「これが演武での訓練ということなのでしょうか?もうちょっと頑張らなきゃですね。Lv5の剛棒を早く扱えるようにならないと師範に笑われてしまいます。」
剛棒を立て掛け、滴る上半身の汗をタオルで拭う。
そしてシャツを脱ぎ上半身裸になったあたりから強まった邪よこしまな気配……。
いやらしく、そして邪な視線を感じますね。今日は水浴びはやめて、部屋へ行ってお湯で汗を拭き取りましょう。
生活魔法クリーンもありますし。
でも井戸で行水って修行っぽくて気に入ってるんですよね……。
そして誰もいなくなった裏庭。
チッ……。
わたしの隠密スキルによる監視を察知するとは……なかなかやりますね。
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