第28話閑話Ⅱ:おっさんの師匠 中編
タクトを直接見たとき私は思ったのじゃ。
この男を弟子にしたい…と。
綺麗な魔力じゃった。
これまで見たことのない、穢れの知らない純粋な魔力。それがあやつの魔力じゃった。
城での事を聞けば、2週間しか城におれず、武術訓練のみしかないという状況。
そしてまさかの家としてあてがわれたのが、城の近くにある倉庫と聞いてこの国の連中に腹が立ったが、弟子にするならば問題はなかった。
幸いにも2階には部屋が余っている。
この工房は1階がキッチンも含めた広いスペース。上には使用人用に3部屋もあるからの。ほんとこだわりの強い良い職人がいたものじゃ。
タクトを弟子にして最初に行う事は、タクトに自信を取り戻させる事じゃった。
『融合』の間違った使い方や認識を説明し、実際の素材で『融合』を成功させる。それだけでタクトの顔つきは変わった。
そして魔力。
どう言うわけか9割以上の魔力穴が閉じている。聞いてみれば元々いた世界には魔法という事象は物語の世界だけで、実際使える者はいない。もしくは知らないという事じゃった。
それだけ魔法概念が無い世界。そして召喚時にも晒されず穢れる事のなかった魔力。
ゆえに美しい。
その為その身のまま、なんの適応もなしにこの世界に来てしまった。
輝度が低すぎるのも、物理的な人としての能力だけが反映したせいなのだろう。
まっそれでも低いんじゃがな……。運動しておらんかったなタクトや……。
「だからこじ開ける。無理矢理の」
開いている魔力穴がある以上。魔力穴が無いわけでは無い。いや閉じているのにもかかわらずこの魔力を感じるに普通以上にあるのじゃろう。
しかし、それをゆっくり開けていては2週間なんぞすぐに過ぎる。そのまま冒険者なんぞになられたらすぐに死ぬのがオチじゃろう。
「えっと……。あまり痛いのは苦手ですよ。」
こやつ……。またロクでも無い事を考えておるな。まぁ口にしないだけマシじゃがの。
希望に満ちるその瞳をまっすぐ見据え、タクトに魔力を流す。
心臓部分に当てたと魔力を胸の中へ流し、ゆっくりと心臓に向かわせる。
「おぉ。温かいですね。それに柔らかくて優しい感じ。まるで師匠みたいですね。………師匠?」
「おっおっおヌシは何を馬鹿 馬鹿な事を言っておるのじゃ。ヌシとは会った。会ったすばかりじゃぞ!さっさと自分の魔力を探さんか馬鹿者め」
なっ何を言いだすんじゃこやつ!
高鳴る鼓動とともに、いれようと思っていた以上の魔力がタクトへと入っていく。
「ちょちょちょっと師匠。落ち着いて落ち着いてください」
あっ!……。
タクトの言葉で我にかえると、あまりにも予想以上の魔力が流れ込み、タクトの体内を駆け巡っていた。まずいのやりすぎたのじゃ……。
「ここっ!!」
とりあえず魔力をある程度循環させ擬似的な身体強化に使ったところで、魔力塊に魔力で衝撃を与え一気に魔力を解放させる。
「ぐふっおぅ!!」
タクトの口から一斉に空気が吐き出されると、一気に魔力が活性化した。
魔力穴解放ほぼ100%。
タクトの体から魔力が一気に吹き出された。あれ?結構多いのぉ……。まずいのぉ……。熱い?熱いのか!それはホントにまずいのじゃ!頑張るのじゃ!頼む!
「ぶはーー。終わったーーーー。」
タクトがバタリと床に倒れ、大の字になる。
2時間近くかけて、必死に魔力を循環させ安定させ終わると、その疲れから床へと倒れてしまった。
「ん。ご苦労さんだね。頑張ったじゃないか。」
大丈夫だろうか?この子に無理をさせすぎては無いだろうか。いや確実に無理をさせたのじゃが……。
そう思いながら頭の側に座り、優しく前髪辺りを撫でた。
今はゆっくりお休み。
多少無茶はあったものの、夕方まで休んだタクトが倉庫へと準備のため戻った。
今日はもう帰ってこない。
夜も魔力循環の訓練をするようにと、訓練用の敷き布を渡した。
あれは魔力の波長を少しずらすものじゃ。あの上での魔力操作の難易度は上がるが、先入観がなければ難しくなったとは感じんじゃろう。もはやそれが普通。になるのが一番じゃ。
次の日、クッキーをつまんでいるとタクトが帰ってきた。
「お邪魔します……。」
ノックがされ、ゆっくりとドアが開き、遅れてタクトが入ってくる。
まったく遠慮はいらんと言うとるのに 。
「おっ帰ってきたね。なんだい。その入り方は。「ただいま!」って元気に帰ってこれないのかい。困った弟子だね。」
なんだい?魔力の通り道がズタズタ…は私じゃな。そんな事よりも体がそれ以上に悲鳴をあげてるじゃ無いか。
誰だい!タクトをこんな姿にしたのは!って奴だね。あんのクソジジイ!
まったくこの子は私が付いていないと……。なんじゃ?チラチラと口元を見て。
なんじゃ!その子を見る親のような目は!
ん?ハンカチ?
ぬ!そういう事かい。まさか口のまわりに付いていたなんて。
自分で拭いたら拭いたで残念そうな顔するで無い!
もうこのやり取りは終わりじゃ。さて訓練の成果でも見てやろうかね。
「それまで!」
順調そうじゃの。
魔力循環の確認を終わらせると、タクトの顔が緩んだ。余程緊張してたんだねぇ。
「食事を用意する間、これでも齧って休んでおくんだね」
そういって、魔力の回復が早まるマジックリーフの生葉をタクトに齧らせる。甘味としても美味しいが。魔力も少しは回復する。まあ魔力回復ポーションもあるが、あれは苦いからね。今の状態ならばマジックリーフで十分じゃろ。
作った食事を美味しそうにほうばるタクト。思えば誰かに食事を振る舞うなんて久しぶりだね。途中故郷のことを思い出したと涙を流したタクトをみて、一層この弟子が可愛く思えてしまったのは内緒じゃ。
こんなに美味しそうに食べてくれるならば、あと2週間弱私が作ろうじゃ無いか。
鍋を〆まで残さず食べ尽くしたタクトが腹をさする。たまに顔をしかめるのは、筋組織にダメージがあるからだろう。
ついでだ、魔力循環の応用、魔力治癒を教えてやろうかね。筋組織や魔力経路の回復にもってこいだからね。
「いいかい。いつも通りこの部分に魔力を集めるんだ。その魔力はポカポカと暖かく。気持ちいい。それを心臓に向かわせ、心臓を暖める。そして今回は腕や脚の通路を移動するのではなく、腕や脚の筋肉の間を通るように移動させるんだ。いいね。」
タクトがアドバイス通り、魔力を腹部にため、魔力をダメージが強い部分に浸透させていく。驚いた。なんてスムーズなんだい。
聞けば昨日の訓練終了後にボロボロになりすぎて、暖かい魔力を全身に回していたという。
あんのクソジジイ。タクトの体が命の危機を感じるまで何をやらせたんだい!
「そうだ。どの部位が傷んでいるか、よく分かってるじゃないか。そのまま続けてごらん。」
「師匠……なんだか…。」
体が修復されていく中、おそらく強烈な眠気が襲っているだろう。
それだけのダメージじゃ。
「そうかい。ならばそのまま微睡みに身を任せるんだね。ゆっくり朝までおやすみよ」
タクトを安心させるため、優しく額を撫でるとスッと眠りに入った。
よい寝顔じゃな。
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