第27話閑話Ⅱ:おっさんの師匠 前編

 薄っすらだが綺麗な魔力を纏っていた男じゃった。


 問題は9割以上の魔力穴が塞がっていたせいで、魔力の流れが殆ど停まっていた事。

 この魔法や魔力が当たり前の世界で、その男は大きなハンデを既に負った状態でこの世界に召喚されたのだ。いや無理やりされてしまったのだ。



 ディート王国 ハルフーレ魔術学園学園長 兼 魔術師協会会長 兼 調薬師協会名誉顧問

 それが私 《魔子族》のジーマ・フレシカリア・エンバード。実はもっと名前は長いのじゃが、人の世界で暮らすにはこれが限界のようなのでな。普段はジーマと名乗っておる。


 そんな私の元に、アルグレント王国の宮廷魔術師長ゼンからある依頼が舞い込んだ。

 この男の陰気臭さは大嫌いなのじゃが、魔法協会を通じての依頼ならば見ないわけにもいかんかった。なんせ協会長自らルールを破るわけにはいかんからな。


 そしてその依頼書にはこう書かれていた。


『勇者召喚』

 アルグレント王国が誇る大転移魔法。異世界召喚を行使すると。


 正直私はこの異世界召喚には反対なのじゃが、呼ばれる当の本人たちが嬉々として異世界を堪能している現状を知るに表立っての反対はしてこんかった。


 アルグレント曰くそう言う者が選ばれる。無理やり連れてきて、無理やり勇者にしているわけでは無いと……。


 興味のあった私は、ゼンに城壁内の城の裏庭の森に工房を作るのならば、そして図書と協会の出入りを自由にするならば行くと返事を返した。


 結果は即承諾。

 中央図書の出入りなど、無理難題をふっかけたと思ったが……。それだけ私の技術が必要ということじゃろうな。


『スキルブック』

 これがゼン…いやアルグレント王国の求める物じゃ。スキルスクロールと違い、才能があっても無くても等しく魔法を覚えられる。しかも1属性だけでなく、複数の属性を。


 このスキルブックが作れるのは、今のところ数人の魔子族。

 連絡の取れる者と限定するならば私だけじゃろう。だからこそ是が非でも私にこだわるのじゃがな。


 依頼に従い、召喚の行われる前日に城へと入る。ここから1ヶ月以上スキルブック使用のメンテナンスとしてこの工房に滞在することになる。


 早速荷物を運び込ませれば、立派な工房の完成じゃ。

 急ごしらえで作らせた割には、ログハウスのようで居心地はかなり良かった。随分と腕の良い職人が作ったようじゃな。


 そして次の日。

 城の魔術師達が慌ただしく走り回っている。どうやら勇者召喚は成功したもののイレギュラーな事が起こったらしい。


 ヒジリ・セイドウ

 タクト・マミヤ


 歴史上1回の召喚儀式には1人の勇者が決まりだった。

 しかし今回は2人。

 1人は『聖剣』のスキルを持つ歴代の中でも圧倒的輝度を持つ勇者。

 そして1人は『融合』のスキルを持つ一般人よりも劣る輝度の持ち主だと。


 私はすぐに魔道具にて《魔子族》の司書に連絡をとった。『融合』のスキルについて調べて欲しいと。

 結果はかなりマズイ物であった。


 魔子族の調べた限り、『融合』は決して無能なスキルではない可能性か高い。

 しかし人族における『融合』は所謂ゴミスキルの代表格。


 ゴミスキルと最底辺の輝度。

 この2つの要素だけで、彼に待ち受ける未来が明るい者では無いと容易に想像できた。


「まずいのう。アルグレント王は狡猾な男。不必要とあらばどんな事も……いや。勇者召喚の掟があったか。それならばそのタクトと言う者が上手いことやれば……。」


 しばらく考えにふけりながら、紅茶を啜っていると、外が騒がしくい。

 気配をたどって見ると、城の者ではない。感じたことのない薄い魔力の者が何かから逃げるように必死にこちらに走ってきていた。


 薄い魔力の一般人。

 それが誰と言うことはすぐに分かった。


 ドアの前で決心がつかずオロオロしている姿につい声が大きくなってしまった。


「さっさとお入り!」


 声をあげると、ゆっくりとドアを開いた。


「失礼しまーす……」


 ドアを開け、家の中を観察するようにキョロキョロとする男。

 間違いなく勇者召喚に巻き込まれた子じゃろう。たしかタクトと言ったの。


「何をキョロキョロと人の家を見てるんだい。さっさと中に入りな。」


 あまりにも中に入ってこないタクトに入るように促す。

 気持ちを落ちつかせるように紅茶を啜っているとあやつめ、とんでも無いことを言いおった。


「えっと……。すみません。突然に。すみませんがここの家の方は?」


 流石に聞き間違えかと思って聞き返すと、さらにとんでも無いことを言おうとしたのじゃ


「ん?なんて言った?」


「だからおとう……。」


「私がここの家の持ち主さね!今お父さん言おうとしたな。この馬鹿者め。私は成人じゃ!もう70年以上おヌシよりも上じゃぞ!わかったらこちらに来て座らんか。馬鹿者めが」


 飲んでいたカップをタンっ!とテーブルに勢いよく置き声を上げた。あまりにもきれいにおいたカップの音がターンと響く中、こやつめ全て顔にでるタイプか!


「おヌシ。まだ失礼な事を考えておるな。まぁよい。異世界から来た者は似たような反応をするらしいからの。許してやろう」


「えっ?私が異世界人と知っているのですか?それにほかの異世界人の事も知っているのですか?」


 これがこれから弟子となるタクトとの最初の邂逅じゃった。


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