第40話おっさんの正当な報酬と不穏な影

 いつものように演武と融合、魔力訓練の修行三点セットを終わらせ、ベッドに倒れ込むとあっと言う間に朝を迎えた。


 昨日の晩に肉体的にも魔力的にも負担を強いたこの体も、前の世界とは違い、一晩寝れば痛みも倦怠感もなくスッキリ起きられます。更にニイナさんの食事のお陰で毎朝快調です。やはり食は大事ですね。


 多少の傷ならば寝ている間に塞がっています。やはり寝てても無意識に魔力を循環しているようです。師匠にもそう言われましたし。


 まだまだゆっくりなようですけどね。



「今日こそはギルド行かなくてはですね……。はぁ」


「なんだい。なんだい!溜息なんてついて。」


 食堂へと降り、待っている間に今日の予定を考えていると溜息が止まらない。


 ニイナさんが朝食を持ってきてくれると、あいた左手で肩をポンっと叩いた。


「いえ。ちょっと。ギルドに行くのが憂鬱でして……」


 ニイナさんにワケを話すと、一瞬こめかみに青筋が入ったが、そんなのは気にすることはない、とまた肩を軽く叩いた。


 ニイナさん曰く、ギルドはそんなに甘いところではないらしく。おそらくはそんな不当な評価は認められていないだろう。との事だった。


 さすがは元受付嬢。内部事情に詳しいですね。


 剛棒はなんとなくこのギルドに持ち込みづらいんですよね。かなり特殊な武器だと言われましたし……。


 こんなの持ってれば絡まれる事間違いないでしょう。


 今日は置いていきましょう。

 とりあえずギルドの訓練場を確認してみたいだけですし。それに受けるなら武器のいらない依頼にしましょう。


 2回目の冒険者ギルドへと足を運ぶ。


 既に多くの冒険者が出入りしているが、絡んできた4人組は……いないですね。


 良かった。


 ホッと一安心したところで中へ入る。

 しかし、あの意地の悪い受付嬢が私の顔を見た途端、一度ギルドの奥へと入り、何かを持ってこちらへと近付いてきた。

 その顔は不機嫌を絵に描いたような、眉間に深く皺を寄せた顔。


 どうやら何かありそうですね。


「やっと来た!」


 不当な評価をされ、文句の一つも言いたいのはこちらだと思うのですが。なぜか逆ギレ。

 この方は一体何をしたいのでしょうか。


 ニイナさんの思いとは裏腹に、態度の悪い受付嬢に元事務職のプロとしては、嫌悪感すらおぼえる。


 近くにあったテーブルの隅に、たたきつけるように拳大の布袋が置かれる。

 確認しろと言っているその表情に、警戒しながらもその袋を開けると中には紫色の魔石が一つ縫いつけられていた。。


「これは?」


「はっ?あんた魔石布ませきふも知らないの?」


 魔石布ませきふ

 魔道具の一つであり、『収納』のスキルを付加した魔石を袋や鞄につける事によりその何倍もの容量が入るようになる。

 特に小さいタイプの物は、魔石入れとして冒険者に重宝されている。と教わった。なにも知らないわけではないですが、このタイプは初めてですね。師匠のはもっと大きな鞄についていましたし。


「いえ魔石布くらいは……それよりもこれはどう言う事でしょう?」


「ふん。な・ぜ・か。品質が良かった物が入っていたのよ。これは詫びの品とちょっと…カード出しなさいよ」


「はぁ」


 押され気味にカードを出すと、カードに石を触れさせる。


「はい。これで終わりよ。これ持って出てってくんない。どうせ依頼は薬草でしょ」


 返されたカードを見ると残高が2400トール増えていた。これは正規の報酬なのでしょう。前回と合わせて3000。高品質は5束で500トールになるみたいですね。評価5倍ですか……。全くふざけた人です。


 しかし、また薬草採取ですか。この依頼を受けるつもりはなかったんですけど。


 前回の事もありまだなるべくならばゴブリン含め、魔物には会いたくない。

 しかしここならば注意すれば魔物に会わずに辿り着く事も可能なのだ。


 ふと周囲を見れば、冒険者達がヒソヒソとこちらを見ては怪訝な表情を浮かべている。


 私以外にどう言う態度を取っているかは知らないが、受付嬢自体は人気の職業。人気受付嬢と低ランク新人冒険者。立場が悪いのは私でしょうね。


 また悪目立ちしてますし、ここは素直に採取に行きましょう。


 一度剛棒を取りに宿へと戻ろうとギルドを出ると、何人かの柄の悪そうな冒険者達が後をついてくる。


「このままだと宿まで付いてきそうですね」


 流石にニイナさん達に迷惑をかけるわけにも行かないですからね。


 あの場所なら前回同様剛棒使わないでも……。なんかあったら逃げましょう。


 門兵に見送られ外へと出ると、流石に外までは先程までの冒険者達は付いてきていない。


 何なんでしょうか……少し気持ちが悪いですね。


 不可解な追跡者達の行動に少し嫌な予感を感じつつ、腰につけた短剣に一度手を置き確認し、森へと向かった。


 森へと入ると、前回採取をしたゴブリン達の採取場へと向かう。

 鬱蒼とした木々の間を抜け川のある方角へと足早に移動すると、周囲の空気が湿ってくると同時に、木々がなくなり広くなった空間が現れる。


【ゴブリンの薬草採取場】


 と勝手に命名した場所だ。


 取り敢えず目につく薬草を採取し始める。


「これは回復用の一般的な薬草。 これは毒消しに麻痺直し、おっ そしてあれは目薬の薬草ですね。」


 いいですね。近くを見渡しただけでも、調薬の材料になる質の良い薬草類が目についきます。やはりゴブリン達が採取場にしているだけのことはありますね。


 魔法の使えない彼らにとって薬草による治療は必要不可欠でしょうからね。


 実際人族も、ゴブリン達がどの薬草をどんな用途で使っているのか観察し、各ポーションのヒントにしたらしいです。野生の知恵は実に実践的ですね。


 黙々と周囲の薬草を集め、大きめのバッグがパンパンになったところでバッグを背負い元来た道に戻る。


 しかしそこには予想外の者達が待ち伏せしていた。


 出てきた人物は4人。

 ギルドにはなかったその姿。


 最も会いたくないと願った。4人組の冒険者達が姿を現した。


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