第70話おっさんの実力と共闘

 ヴィッッという独特な音がなった瞬間。

 スパンっと草が真一文字に切断される。


「えっ?」


「キキー」


 上下に飛び回りリィスと同じように喜びの舞を披露するペル。


「あっ!超音波カッター的なやつですか!凄いですよペル。見事です!」


 おそらくリィスのアクアカッターを見て考えついたんでしょうね。まさか自分で新しい技を作ってしまうなんて……。

 アクアカッターと違って遠距離ではない感じですが、毒牙と合わせて使っても十分強力そうです。


 そんなリィスとペルの楽しそうな姿を見ながら焚き火にあたる。

 実は、既にジョイニ草は採取している。というよりも湖のほとりにいくらでも生えてました。


 治癒ポーションとジョイニ草。

 この2つを『融合』すればジョイントポーションの完成です。持った瞬間直感を感じましたからね。


『融合』


 右手に持った治癒ポーションとジョイニ草がいつものように渦に消える。

 そしてすぐに細長い瓶に入った無色透明の液体が完成した。


 無色透明で少し粘性っと……。これヒアルロン酸ってやつでしょうか。私の母も膝に定期的に注射してました。あれですね。まぁこちらの世界はポーションの類はかけるか飲むかで 効きますがね。まったく変なところがファンタジーです。


(わー。これ粘液ー?でもちょっと違う?)


 リィスが寄ってきてジョイントポーションをマジマジと観察しながら自分の粘液を出す。


(ほら〜)


 そのまま私の手に粘液をリィスが落とした瞬間。


 直感


 ピリっとしたいつもの感覚が脳に届く。


 右手にリィスの粘液。左手にジョイン草


『融合』


 両手の材料に魔力が纏う。

 そしていつもの渦に材料が引き込まれていく。


 そして出来上がった。

 何故かハートの容器に入ったトロっとしたピンクの液体……。どこから出てきたんでしょうこんな容器……。


「うん。これはあかんヤツだ」


 何故だがそれを絶対にネルさんに見つかってはいけない気がし、私はそれをそっとポーションバッグの奥へとしまい込んだ。


 そして、ゆったりとホットのミルクティーを片手に、焚き火の揺らめきを楽しみながら過ごしていたその時だった。


「キャーーーーーーーーー。」


 森の中から甲高い悲鳴が響いた。


 近くの街道で馬車が襲われているようです。

 悲鳴と共にその方角を見ると、木々の隙間から馬車が視えた。


「行きましょうリィス ペル!」


 馬車に向かって駆け出すと、水生成で焚き火を消したリィスが肩に飛び乗る。


 街道に出ると、1台の馬車が2m以上もある体躯の魔物に襲われている。

 これはまた大きな棍棒を振り回してますね。


 その丸太ほどもある棍棒を振り回す魔物こそ、トロールと呼ばれる人型の魔物。

 動きは比較的鈍いが、その怪力とダメージをものともしない耐久力と鈍感さが特徴の魔物が2体。


 冒険者5人を相手取り、戦っていた。


 馬車を守りながらなんとか踏ん張ってますね。


 馬車を背にトロールに向かい合う冒険者達。そしてその馬車の裏には商人と思われる男性と、御者であろう女性が震えながら身を潜めていた。


 おそらく、この女性の叫び声だったんでしょう。


 トロールの後ろへと回り込みリィスに指示を出す。


(リィス!アクアカッター)


 今は遠距離攻撃はリィスしか出来ない。

 ペルに待機を命じ、リィスに先程覚えたばかりのアクアカッターを指示する。


(いくよ〜。アクアカッター!)


 リィスのアクアカッターをトロールの膝裏に向けて放つ。こういう時に声を出す必要がない念話は便利ですね。


 その刃がトロールの右膝の裏を斬り刻むと同時に

 魔力操作を行い、身体強化により脚力を強化し地面を踏み込みジャンプすると、膝を斬られ片膝を付き、しゃがみこんだトロールの後頭部の近くに飛んだ。


「助太刀します!」


 茂みを超えたところで、冒険者達に声を掛ける。


「誰だか知らんが助かる!」


 冒険者の一人がこちらに答える。


 がその瞬間


「ごぁっ!」


 大きな盾を持った男が、横薙ぎに振られた棍棒からパーティを守り、そのまま吹き飛ぶ。

 しかし、その隙をつき一気に攻撃を仕掛け、かわりにその1体を仕留めていた。いい連携ですね。


 そしてこちらの目の前には痛みでうずくまり、混乱するトロール。


「この!」


 そのまま剛棒をジャンプの勢いのまま螺旋の動きを加え突くと、耐久力の高いトロールの頭が砕け、ゆっくりとトロールが地面に倒れた。


「……」


 おや?

 おやおや?

 おやおやおや?


 簡単に頭部が砕けましたね。さすがは剛棒です。混乱していて頭部に力が入っていなかったんでしょう。膝を切りましたしね膝に意識がいっていたんでしょう。プロレスラーですら気を抜いた瞬間殴られれば……と言いますしね。


 周りを見れば、吹っ飛んだ大楯の男を介抱している冒険者達。


 取り敢えず大丈夫そうなので、後ろの茂みに隠れているリィスとペルに礼を言い送還する。

 魔物と間違えられるのは勘弁ですからね。


「大丈夫ですか?」


 5人の冒険者に近付くと、すでに大楯の男の治療は終わっていた。


「あんたいったい……トロールの頭。砕けた音がしたわよね……」


 冒険者の女性が立ち上がり、今倒したトロールを指差す。


「いや〜意外に柔いものですね」


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