第8話 おっさんの性癖と残念な召喚者達

「さっさとお入り!」


 家の中から聞こえた声に従い、ゆっくりとドアを開ける。


「失礼しまーす……」


 ギギッと木の擦れる音とともに扉が開き家の中にはいると、そこは薬草の匂いが染み付いた木目の美しい木に囲まれた空間だった。


 そこには調合の器具、様々な薬草、大きな鍋が置かれた暖炉があり、1階が広いスペースになっていた。


 その室内は、まさに整理された魔女の家といったところだろうか。


「何をキョロキョロと人の家を見てるんだい。さっさと中に入りな。」


 奥のキッチンスペースに目を向けると、そこにはローブを着た“少女”が座り湯気の立つ何かを飲みながら、こちらに鋭い視線を向けていた。


「えっと……。すみません。突然に。すみませんがここの家の方は?」


「ん?なんて言った?」


 途端に視線が鋭くなる。何か気に触る事を言ってしまったのだろうか?


「だからおとう……。」


「私がここの家の持ち主さね!今お父さん言おうとしたな。この馬鹿者め。私は成人じゃ!もう70年以上おヌシよりも上じゃぞ!わかったらこちらに来て座らんか。馬鹿者めが」


 飲んでいたカップをタンっ!とテーブルに勢いよく置き声を上げる少女。


 いやまさかのロリババアとは……。


 種族が人間じゃないパターンか。

 まったく私は、そっちの趣味はないんですけどね。


「おヌシ。まだ失礼な事を考えておるな。まぁよい。異世界から来た者は似たような反応をするらしいからの。許してやろう」


「えっ?私が異世界人と知っているのですか?それにほかの異世界人の事も知っているのですか?」


 どうやら、思ってた以上に情報通のようですね。これはここの事を色々聞くチャンスです。


「それは当然じゃろ。魔導師達が騒いでおったからな。その身なり、おヌシが“追放される者”であろう?あぁほかの異世界人は知らんぞ。伝承にあるのだ。私ら《魔子まこ族》をみた昔の異世界人が何やら変な呪文を唱え、喜んだとな。確かイエスなんとかノーなんとか言ったらいしいがの、そこは詳しく伝わっておらん。それに合法なんたらと言って涙を流して喜んだ者もいたと言われておる。おヌシもそうなのじゃろ?」


 はいアウトーーー!アウトーーー!もう一つおまけにアウトーーー3アウトチェンジトリプルプレーだよ!

 まったく何を考えているんだ!


 異世界を受け入れることが出来る人って考えると。たしかにそう言う人種が呼ばれやすいんだな。


 それより、その言葉が伝承と言う形で残っていると言うことは、時間軸もメチャクチャなんでしょうか?


 下手すれば私よりも未来の人が、過去に召喚されていた可能性もあるわけですか。


「あぁ。それは気にしないで下さい。一部にはご褒美でも私には違いますから」


 はい。人の趣味はそれぞれですからね。そこは否定しません。私にも性癖くらいありますしね。


「なるほどの。」


「ところで《魔子族》とはどのような方達なんですか?」


 様々なファンタジーゲームや小説をやりましたが、私は聞いたことがありませんね。


「ふむ。《魔子族》はの。魔法の適正が異常に高い種族での。妖精や精霊に近い種族で、身体的成長のほぼ全てを魔法適正に回した長寿の種族の一つと言われておる。なので女はこのくらいの見た目で止まり、男も同じような見た目じゃ。こちらは女の転移者が何やら発狂したという伝承が残っておるの。ちなみに同じような見た目で《小人族》がおるがこちらは魔法適正を犠牲にして、圧倒的身体能力を得た種族じゃ。間違えんようにの。まぁ見た目魔導師っぽい服を好んで着ているからの。間違えにくいじゃろ。」


 あーロリとショタですか。分かります。本当にご迷惑をお掛けしたようですね。

 すみません。


「さて、話を本題にもどすかの。ってその前におヌシ先程から腹をさすっておるの。痛いのか?」


 先程兎に蹴られた腹部がジンジンと痛む。折れてはないと思うが、なかなか強烈な一撃だった。


「なんじゃ。ホーンラビットにやられたのかい?知らずに巣穴でも壊したんだろ。滅多に人は襲わないからね。ほらこれを飲みな」


 あの一角兎はホーンラビットと言うのですか。巣穴を壊した記憶はないですが、きっと何かしらやってしまったんでしょうね。


 瓶に入っている液体を受け取る。薄っすらと青いのその液体を言われるまま飲み干すと、腹部のあたりがジンワリと暖かくなり、痛みがスッと消えていった。


「ありがとうございます。痛みが引きました。」


「ん。すっかり腫れが引いたね。それでは本題に戻そうかの。おヌシは”無能者““追放される者”つまりは勇者じゃない方で良いかの?」


 真剣な眼差しについ、腰が引ける。

 そして、先程までの城での出来事が嫌でもフラッシュバックする。


 しかし、その目はこの世界に来て向けられ続けていた侮蔑の目ではなく、しっかりと私自身に向けられた目だった。


「はい。そうです。輝度というものが低く、スキルも使えない為、契約を交わし2週間後にこの城を出ることになっています。」


 その目に応えるため、私はしっかりと目を合わせ、自分の状況を説明した。


「なるほどの。タクトというのか。あぁ申し遅れたの。私の名はジーマ。用あってこの国に呼ばれている他国の魔導師じゃ。この家は城住まいが嫌で造らせた仮の家じゃ。それにしても酷い目にあったの。辛かったの」


 そうジーマが私がテーブルの上で組んだ手を、包むように小さな手で握った瞬間。


 自然と私の瞳から温かい何が溢れた。


 わかっています。

 私は泣いているのでしょう。この世界に急に連れてこられ、訳も分からぬまま最底辺に落とされ、死なないために常に考え続けていた。精神を張り詰めていた。


 そして今、ピンと張った精神が緩んだのでしょう。


 辛かった。

 苦しかった。

 どうしようもなかった。


 その気持ちをわかってもらえただけで、少し救われた気がした。


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