第9話おっさんの師匠とスキル習得
そのまま無言で手を握り、私が落ち着いたのを見るとゆっくりと話し始めた。
「落ち着いたかい。それならばこれからの事を説明するさね。タクトよ。おヌシをこの家に招き入れたのは他でもない。私の弟子にならんか?という事じゃ。私は魔導師。魔法の扱いと薬の扱いに長けておる。おヌシが独り立ちするのに困ることはあるまいて」 「お願いします。ジーマ師匠」
悩む事など刹那ほどもなかった。
魔法の手解きも、『融合』を活用するための薬の知識もないのだから。
独力でやっていれば、どの位の年月を無駄にした事だろうか。
この巡り合わせに感謝の言葉しか浮かばなかった。
「ふむ。師匠か。なるほど心地よいものじゃな。今迄は先生だったからの。では何故ヌシと師弟関係を結ぶか説明しようかの」
おヌシから“お”が取れた。師弟関係を結んだからなのだろうか?
ジーマ師匠によると、この世界のスキルは17で成人を迎えた際の儀式によって授かる先天性のスキル、私で言うところの『融合』と、研鑽によって取得する後天的スキルがあるとの事だった。
そして、その後天的スキルはスキル持ちに師事し実践を重ねる事で取得出来るらしく。師事した者のスキルが高レベルである程、早く取得出来るらしい。
「これでしょうか?」
なるほど。
実際感じた方が早いと、外へと出て、薬草の種類、質の見方。そして採取方法を教わると、その知識は抵抗感なく私の中へと染み込むように吸収されていった。
まぁ師匠の教えが的確、というのが大きいですけどね。
2時間ほど講義を受けると、その薬草の状態、そしてどういう風に採取すれば品質を下げずに採れるか、どのように保存すれば良いか何となくわかるようになる。
不思議な感覚です。
そして今指差した薬草は、この辺りの群生地の中で最も品質の高い薬草を探すように言われ、指差した物だった。
「そうさ。よく分かったね。不思議な感覚があったろ。もうスキルを取得したんじゃないかい?」
そう言われ、ステータスカードを確認する。
そう言えばあれからステータスカードを見ていませんでしたね。何となく見るのに躊躇してしまっていた。
名前 タクト・マミヤ
年齢 17
スキル 融合 採取Lv1 ステータスカード
輝度 43
「ほう。随分早かったね。まぁこのように師事した者のスキルが高ければ高いほど、早くスキルが取得出来るのさ。高レベルな者程、最適の答えを知っているわけさ。教わる側も常に最適解で覚えているようなものだからね。」
「師匠。有難うございます」
よかった。新しいスキルですね。これで質を下げずに薬草が採取出来ます。
それにしても『融合』にも『聖剣』にもLvはありませんでしたね。どう言う事でしょうか?
「ふん。師匠なら当然さ。それにヌシはこれからはここで住込みだよ。分かったね。」
照れているのを隠すように、足早に家の中へと戻っていく。
質問を聞くタイミングがありませんでしたね。
住込みと言いながら、私に住環境を提供してくれているのでしょう。ホント感謝しかありません。
そう思い自然とその小さな背中に、頭を深々と下げていた。
そして慌てて中へと入ると、そこには薬草と水を持った師匠が私を待ち受けていた。
「あっ……」
私の脳裏には、あの時の記憶が鮮明に蘇る。
急にギュッと心臓を鷲掴みにされたように、胸が苦しくなり血の気が引いていく。
おそらく師匠もあれを使って融合してみろと言うのでしょう。
「さて、その表情からして分かっていると思うが、この2つを『融合』してもらう。まぁ見てわかるだろうが、高品質の薬草に調薬用に煮沸した水さ。これでやってみな」
心が苦しくなるような感覚を覚えながら薬草を受け取ると、その薬草が謁見の間で渡された物より品質が格段に良い事に気付いた。
そして、何となく前より上手く出来そうな気がする。
『融合』
目の前に渦巻きが出現し、右手に持っていた薬草と水が吸い込まれていく。
そして、その瞬間。
薄緑に輝いたポーションが生成された。
「おぉー!良い出来ではないか。」
見るからに輝きが違う。
謁見の間で見たあのどんよりとした緑色の融合ポーションとは、比較にならぬ程このポーションは生命力のようなもに溢れていた。
若干の重い感じはするものの、最初にスキルを使った時ほどの倦怠感はなく。
ただ少し、強引になにかを体から吸われたような感覚だけが、残っている。
「出来ましたね。前に作ったのより段違いに質の良いポーションですよね。それに、前より楽です。」
きらりと光を反射する鮮やかな緑の液体。やはり以前のものとは全く比べ物にならない。
「あぁそうじゃ。それが本来のポーションじゃよ。おそらく最初にヌシの作ったポーションは劣化ポーションじゃろうな。当たり前じゃ。調薬のスキルを持っていたって粗悪な薬草と粗悪な水ではポーションなんぞ出来んわ。私ですらの。ヌシはそれをスキルと魔力の力で強引にポーションの形に持って行ったのよ。それは魔力を多大に消費するさね」
あぁ。なるほど。それは理屈が通っている。
いや当然なのだろう。渡された薬草は見るからに粗悪な薬草だった。いやただの草の方が生命力が宿っていただろう。
それを、あの場でポーションにしろだなんて。
おそらく歴代の『融合』持ちも同じように、その辺の薬草を知識のないまま採取し、質の悪い状態でスキルを使ったのだろう。本来なるはずのない結果をスキルの力で強引にポーションにしていたのだ。それは辛かっただろう。
「えぇ。全然違いますね。これならまだまだ作れそうです」
「そうじゃろ。自信はついたかの。それでもヌシはまだまだじゃ。なんだいあの『融合』発動時の魔力の流れは!酷いったらありゃしない。いいかい。これからは、私の弟子なんだ。魔力の操作は完璧にしてもらうよ!」
そう言って師匠は椅子にのり、笑顔で私の頭を二度ポンポンと叩いてくれた。
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