第7話 おっさんのサバイバル技術と怪しい家

 倉庫に案内され、今後のプランを考える。


 時間はない。調べ物なんてしてたら2週間何てあっという間だろう。


 見知らぬ異世界に、体一つで放り出されたのですからね。


 それでもまずはこの世界の事、そして自分の能力について知る必要がある。


 このオンボロな倉庫でも、雨風と魔物から襲われるのをしのげるだけマシです。


 倉庫の雑多な物を端に寄せ、取り敢えずの寝る場所を確保し、棚や柵の残骸を組み合わせて簡易の椅子とテーブルを作れば、2週間過ごす部屋の完成です。


 ゴホッ

 ゴホッ


 ただ随分とホコリっぽい。

 この布の切れ端ではたいておかないと眠れそうにないですね。


 棒に布の切れ端を取り付ければハタキの完成だ。出掛ける前に、窓を開けてささっと叩けば、このカビ臭さも含めてある程度はマシになるでしょう。


「さてと。まずは裏庭に何があるか。」


 この裏庭は小さな森を含めて、そのまま城壁で囲っているらしいですから。自然はそのまま残っているでしょう。だからこその自給自足が成り立つんでしょうしね。


 まずは食べ物、薬草、水の確保です。


 交渉でもぎ取った植物図鑑を片手に、森へと歩みを進めます。

 流石にその植物が毒かどうかぐらいは知っておきたいですから。倉庫に来るまでに通った兵舎に置いてあったこの図鑑を思い出し、交渉させてもらいました。


 毒で死ぬかも……生命の危機ですと言ったらくれましたね。すっごい嫌な顔してましたけど。そんな事は気にしてられませんよ。こちらは命が掛かってますから。


「おっこれは先程『融合』に使った薬草ですね。やっぱりさっきのは品質が悪過ぎでしょう。いつ採取したんだか。」


 しっかりと根付く薬草は、青々とした葉を太陽に向け広げ、薄っすらと湿り気のある葉は先ほどの萎びた薬草とは大違いだった。


 森の手前にいくつか生えているのを確認し、少し奥へと進めば林檎のような実を付けた木があった。


「おお。これはリンガの実ですね。毒もなくさっぱりとした味わいの果物とあります。しかし……。問題はあの高さまでどうやって登るか……ですね」


 目の前の木は5m程の高さに真っ直ぐ伸び、2.5m程の高さから枝が生え始めていた。つまり枝や木の曲がりを利用して登る事が出来ない。


 困りましたね。木登りなんて小学生以来していないです。この高さを登る……。

 ダメですね。しがみついて見ましたが全く登れる気配がないです。

 そうだ!ロープが有ったじゃないですか!


 確かこうして、こう!

 おっいいんじゃないですか。行けそうな気がしてきましたよ。


 あとはロープの端に重りをつけて……っと。上の枝に向かって投げるだけっ!


 とさっ…


 投げるだけっ!


 とさっ…


 投げるだけ!


 とふ。


「なーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 はぁはぁはぁ。


 あれ?全然真上に投げれませんよ。試しにテレビでもやっていたロープアクションのように重りをつけたロープをクルクル回転させて、遠心力も利用しました。


 難しくないですか?

 だって3m近くあるんですよ枝まで。全然思った方向と違う方に飛んでいく重りが、なんとも憎らしい。


 それともたった3mで苦戦する。自分のセンスを呪うべきでしょうか。

 いずれにしても、この実を採るには他の方法を考えた方が良さそうですね。


 普通。

 転移物は、この手の事はカッコよく一発で上手くいくのが、定石でしょうに。


 体のキレは前と変わらずなんて……。輝度43も頷けますね。


 よし。今は諦めましょう。待っていてください!いつか腹一杯食ってやりますからね。

 そう心に決め、ロープを回収し、倉庫に戻る。


 ロープを倉庫に戻し、改めてここからどこに向かうかを考える。


「そういえば、あちらの方向に井戸があると言っていましたね。まずは水の確保を優先しましょうか。」


 倉庫にあった口の欠けた水差しを片手に、教えて貰った井戸の方角へと歩き始めます。

 鍋に皿、そして藁に布。結構品揃えは豊富なんですよ。この倉庫。


 うーん本当にこっちですかね。城の裏庭。広過ぎませんか?


 10分弱歩いたでしょうか。2〜3分との予想は甘かったみたいですね。

 低級の魔物も出るかもなんて言われてますからね。明るいうちに行って戻りたいものです。


 武器は途中で拾った、硬くて長い棒です。


 ………いや。中年親父の下ネタじゃないですよ。


 ガサッ


「ひっ」


 こんな時にアホな事を考えている場合ではなかったですね。

 茂みに何かいます。


 ガサッ


「キューーー」


 茂みが揺れ、現れたのは額に1本の角を持つホーンラビットと呼ばれる魔物だ。


 真っ白な毛並みに赤い目。うん。ツノが無ければ仲良く出来そうですね。


「危なっ。ってなんですかこの凶暴な兎は!って兎?いやいやいや。なんで兎に角が付いてるんです」


 勿論私は魔物の名前なんか知りません。

 一角兎と仮称しましょう。


「キュー!」


「って早っ!グエっ」


 通り過ぎざまに、後ろ脚で腹部を蹴られ、転がる。


 痛いですね。なんで空中で体勢変えられるんですか。こんなところに出るのなら序盤最弱の部類でしょうに!

 ちょっと本気でまずいですね。


 はぁはぁ。また来ますか。しつこいな。まったく。


「キューー!」


 でも!


「でいっ!」

 バキっ!


 おおう……

 一直線に向かってくる一角兎の頭上に振り下ろされた棒が折れる。さすがはRPGの初期装備ですね。納得です。


 それにしても飛ぶ前に、必ず鳴くのはよくないですよ。

 あぁでも。あまり…というかほとんどダメージないですね。それでは!


「おっ!井戸!そして……家!?」


 兎の隙をつきなんとか全力で逃げた先の鬱蒼としげる木々の中に、ぽっかりと拓けた空間が見える。

 そしてそこには井戸があり、その先にはログハウスのような丸太で作られた1軒の家が見えた。


 人…は、いるんでしょうか。そろそろ一人ツッコミにも飽きましたし、なによりも蹴られた腹がかなり痛いですね。

 いるとしても、城の裏手のこんな場所に住むなんてどういう人物なんでしょう。


「怪し過ぎます」


 ゆっくり慎重に近付き、グルリと一周し入り口と思われるドアの前。


「倉庫と違ってしっかり手入れの行き届いた感じ、どうやら誰かが住んでいるのは間違いなさそうですね」


 3回程大きく深呼吸し、ドアをノックするためドアにつけられた金属の輪を咥える熊の金具に手を伸ばす。


「何してんだい。さっさと中にお入り!」


 そして、ノックをする前に聞こえてきたのは、家の主人であろう女性の甲高い声だった。


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