第38話おっさんの身内とスキルの値段
「
地図の描かれた紙の隅に、サラッと書いたニイナさんのサイン。
それを見せた武器屋と道具屋からサービスを受ける事が出来た。聞けばニイナさんは只者では無いらしい……。
「なるほど。本当にご存知無いようですね。もしや【青亭】も、どなたからの紹介では?」
「はい。武術の師範に。剛棒を習いました。」
「今この国で、剛棒を……。なるほどそういうご関係で。貴方とのご縁は大切にしないとですね。」
そう言いフィスさんは、にこりと細い目を更に細く笑う。
「ちなみに【青亭】には現在貴方しか
「へ?」
「ふふふ。ビックリしました?彼の方は女将と呼ばれる小売連合会の会長です。元々冒険者ギルドの受付嬢として辣腕を奮っていたのですがね。のちにS級冒険者となられた方と結婚。ギルドを辞めてからは、その当時の人脈と資金力で、ここ王都の私共のような小売業を一手にまとめ上げたのですよ。お陰で我々は大手商会に取られていたギルドから流れてくる素材や中古品、そして顧客を安定して得る事が出来るようになったんですよ。」
凄い人だった……。
たしかに【青亭】にはあまり冒険者は見ない。
というより、私しかいないのでは無いかと、今日の朝丁度思った位だ。
朝食を食べている人達は、皆それなりに若く肉体労働というよりも、私と同じ事務方の匂いがしましたからね。
やはり商いや生産職で働かれている方達でしたか。
「凄いですね。私は何でそんな所に紹介して貰えたんでしょうかね。確かに師範は昔かなり有名な武芸者だったと聞いてますが」
「そうですね。ご本人に聞くのが良いでしょう。他人からではなくですね。これからも是非当店を御贔屓に」
そう言って頭を下げるフィスさんに見送られ、道具屋を後にした。
次に向かったのは、スキル屋。
非常に高額だが、スキルブックと同じようなスキルスクロールという魔道書を扱う店だ。
ここは買いにきたというよりも、相場を知る為に寄った。流石のニイナさんもここに関しては店の案内はなく、大体の相場が分かるとメモされていた。
魔女のかぶるような、先の曲がった三角帽子の絵の看板が掛かるその店は、周囲の店とは違い小さな窓に黒を基調としたいかにもな見た目の店だった。
中へと入ると、顔を突っ伏しカウンターで昼寝をする店員がいたが、起きる事なく寝続けていた。
やはり夜型なんでしょうか?……魔女だけに。
棚を見れば様々なスキルと値段が記載されており、どれも非常に高額となってる。
鉱山で役に立つ採掘のスキルや、私の覚えた採取や、木こりに役立ちそうな伐採などというのもありますね。ただこの手のスキルは、これで覚えると中々成長しないらしく、10万以上するこれらのスキルスクロールは、あまり人気が無いように思えます。
それよりも私の目を釘付けにしているのは、属性魔法の数々だった。
読めば属性スキルが覚えられるスキルスクロール。
お値段。
1属性50万以上で、火属性 80万 水属性 70万 風属性 60万 土属性 50万 と記載され、それぞれの説明と共に ※要適正。責任持ちません。
と書いてあった。
「買えませんね。目的だった属性魔法スキルを見つけたは良いですが、要適正とはなんでしょうね。」
ちらりと視線をカウンターに向けるも、店員さんは寝続けている。
買う時に起こせという事でしょうか。
結局スキルと値段をメモし、スキル屋を後にする。
時間的には良い時間帯となり、帰宅する事にしたが。
ニイナさんは忙しく、ゆっくり話は出来なかった。しかし、まけて貰えた事にお礼を言うと、良かったじゃないかと肩を叩かれ厨房へと足早に消えた。
また大量のおかずとともに夕飯を食べる。満腹で動けなくなることもなく、逆に調子の良い体をすぐに動かしたくなり、昨日と同じように視線を感じながらも日課をこなす。
明日は残りの用事を済ませましょう。
魔力欠乏で襲われる微睡みの中で、明日の予定を考えながら意識は遠のいていった。
次の日
冒険者になって3日目の朝です。
今日も冒険者ギルドへ行くつもりはありません。準備も整っていませんしね。
今日の目的は図書館です。
この街の図書館は王立図書程大きくはありませんが、それでも私が求める知識は十分補ってくれるレベルだと聞いています。
地図に従い大通りから1本入った通りを歩くと、こちらも大通りとは違う活気があった。
大通りと違い向かい合う店の幅が狭く、より人の行き来を感じる。
そして、中でも目をひいたものが
「奴隷……。ですよね。」
首輪をつけた薄汚い服を着た女の子。その肌の露出した部分は泥で汚れ、大きな荷物を担いでいた。
人混みを何とか前へと進んでいるが、ぶつかる度に白い目を向けられる女の子。
この国の奴隷の扱いは酷そうですね……。
まあ私には縁はないと思いますが。
通りを抜け、図書館にたどり着く。
図書館はギルドほどの大きさはないが3階建の美しい装飾が彫られた木造の建物だった。
1階部分は一般人に公開されている本。
2階部分は許可を得て入場可能。より貴重で高度な本があるらしい。
そして3階にはごく一部の者だけが閲覧できる禁書があり、厳重な警備が敷かれている。
「いらっしゃいませ」
響かないよう抑えられた声で、横を見るとメガネをかけたおさげの女性がカウンター奥に座っていた。
少し影がありますが、非常に美しい文系女子という感じですね。クラスに入れば間違いなく図書委員、生徒会なら書記をしているでしょう。
「おはようございます。初めてなんですが」
「ご来館ありがとうございます。会員証をお作りしますが、どなたからか紹介状はございますか?」
聞けば図書館の会員カードの作成に1,000トール。そして入館する際に補償金として10,000トールが必要らしい。
会員は1階のみ利用可能のブロンズ会員。
2階の許可が出るシルバー会員。
そして3階への許可を申請できるプラチナ会員があるらしく、シルバーの次がプラチナなのは、大昔ステータスカードに入力できなかった時代に、ゴールド会員が特定され誘拐される事件が増えたのがキッカケらしい。
今はステータスカードの備考欄に本のマークと共に、B、S、Pのいずれかが記載されるという事だった。勿論普段は非表示にする事が出来る。
「紹介状はないのですが、この場所は教えていただきました。こんな感じで…」
懐から地図を出し、図書委員さんに見せるとフィスさんと同じところで目が止まった。
あっまたこのパターンですか……。
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