第3話 おっさんの召喚と王族
その国の顔とも言える賓客を迎える為の謁見の間。
他国の者が、その国の王と拝謁を許されるその空間は、その国の技術の粋を結集させて作られていた。
それは柱の彫刻であり、ステンドガラスの美しさであり。巨大で装飾が細かく芸術的なシャンデリアである。
そして壁一面の装飾と玉座の後ろの壁には、権勢を誇るように、国のエンブレムが掲げられている。
赤い絨毯は真っ直ぐに王座への前の階段へと続き、その脇を兵士達が控え、その後方に重鎮であろう立派な服に身を包んだ者たちが並ぶ。
謁見の間に入り、フードを外したゼンに導かれるまま、謁見の間中央のシャンデリアの下まで歩みを進める。
そして、シャンデリアの下まで辿り着くと、ゼンが歩みを止め、膝をついた。
「我が王よ。無事勇者召喚の儀は成功致しました。」
おおぉ
周囲にざわめきが起こる。
ゼンの報告に、拝むものさえ出てきていた。
「ふむ。」
そして、数段上に位置する王座に座る。王と呼ばれた男が、一度髭を一撫でし左手を立てると、一斉にざわめきが止み、静寂が戻った。
過剰とも言える宝石が散りばめられた王冠を被ったその男は、想像するような威厳に満ちた王ではなく、細い体付きに真っ白な髭を生やし、年相応に皺が寄った苦労人といった顔をしていた。
影武者……ではなさそうですね。影武者にしては王らしくなさすぎです。私達を油断させるためのものでしょうか。
ゾクっ
鋭い視線を感じ、一瞬にして背筋にかいた冷たい汗が、背骨を伝い流れ落ちる。
何なんでしょうこの感覚は……。
ははは。違いますね。あの怪しく光る瞳。
あれは本物の王の目。
これはちょっと信用しないほうがいいみたいです。
それに王の横に寄り添うように立つ若い女性。
ブロンドの髪がふんわりとパーマのかかったようなウェーブがかり、ドレス姿のその姿は、見るものを惹きつける美しさを持つ少女。
ご令嬢でしょうか。さすが王族ですね。
それにしても、あの貼り付けたような笑顔。そして我々を見るあの目。どうやら品定め中みたいですね。
まったく気持ち悪い笑顔です。
「異世界からよくぞ参った。勇者殿。我は此の国アルグレント王国の国王。ギリディクト・アルグレントである。お主達の名を教えてはもらえないだろうか」
「私の名は 誠道 聖……。いやヒジリ・セイドウです。」
「私は、タクト・マミヤです。」
「ほうほう。ヒジリ殿にタクト殿。そこにいるゼンに聞いたであろうが、今、この国。いやこの世界は危機に瀕しておる。どうかそなたらの力で、魔王を倒し、平和な世を取り戻してはくれないだろうか」
細く、やつれた体。皺の多いその顔がこの国の今の状況を生々しく伝える。
まったく……。あの妖しげな表情を見ていなければ心打たれるものがありますね。
しかしこうなると……。よりしんちょ……
「任せて下さい。王よ。もし俺にその力があるのなら、存分に奮って見せましょう。この世界を救うために。なあマミさん。俺らに力があるっていうならやるよな!」
…うに…は無理のようです。
まぁこうなりますよね。
いつも思うのですが、ファンタジーの集団や複数人の転移の場合。
どうしてチート勇者なイケメンくんは、人に相談せずに決めて、「な」のたった一言だけで、決定事項として同意を求めてくるんでしょう。
ホントに迷惑です。迷惑千万です。
「有難うございます!勇者様。私はこの国の第一王女 サラ・アルグレントです。勇者様。必ずやあなた様には力がこざいます。それを証明致しましょう」
そしてこちらが返事をする前に、盛り上がる王族。
王女が大袈裟に手を広げると、王の最も近くに控えていた大柄な兵士が、小玉スイカ程の大きさの隕石のようなゴツゴツとした石の塊を持ち、近付いてきた。
「勇者様。その石こそが、その者の強さを測ることのできる鑑定石でございます。その石に触れることで、この世界の住人はステータスカードというスキルを得ることができます。さぁその石にお触れ下さい」
大柄な男が、敷布に置かれた鑑定石と呼ばれた石を用意された台の上に置く。
そして、ゼンを含め鑑定石の周囲から皆、距離をとった。
「では。まずはヒジリ殿!」
大柄な兵士はホーエンと言うらしい。近衛騎士団の団長さんなんですね。
良く通る声でホーエンに名を呼ばれ、まっすぐ台座に向かう誠道くん。
いい顔してます。もうまったく勇者としての自分を疑っていない顔ですね。
鑑定石の前で立ち止まった誠道くんが、ゴクリと唾を飲み込み込む。
これは不安ではなく期待。
彼のワクワクとした感情が、ここまで伝わってきます。
そして…
誠道くんが手を置いた瞬間。
ビカッ!っと
一瞬の輝きが辺りを照らす。
ざわつく周囲が、この鑑定石の結果が通常のものでなかった事を意味している。
あるものは手を合わせ、あるものは拳を握る。この光がど言う意味か何となくわかりますが、勇者として相応しい物のようですね。
「何だよこれ!超眩しいんだけど!」
悪態をつく誠道くんをよそに、周囲は期待を込めた視線を誠道くんに向けている。
「続きまして、タクト殿!」
その声は、次に続けと言わんばかりの期待のこもった声。
そして、一斉に向けられる視線。
はぁ〜憂鬱です。お願いしますよ。まぁ何が正解か、わかりませんけどね。
ゆっくりと近付き、一度深く深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。この後起こる展開に確かな確信を持ちながら。
私は、鑑定石に手を置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます