第2話おっさんの若返りと同い年の後輩
「なぁ。おいっ。起きろって」
若い男性の声でボンヤリとしていた意識が覚醒していく。
どんよりとした重い空気が、地面に張り付かせるように、体全体を包み込んでいる。
私は何をしているのでしょう。
確か会社の帰りに、本屋に寄ろうと……。
そうだ誠道主任に会ったんでした。
それから?
魔法陣? のような物から光が空に向かって……
「魔法陣!」
「おわっ!」
急に飛び起きると、何となく見たことのある青年が、仰け反りながら尻をついた。
「あっすみません。えっと……誠道さん?」
そうです。見た事のある青年は紛れもなく、彼をそのまま高校生くらいまで、若くした姿の誠道くんです。
「はっ? 俺お前なんか知らないけど。誰だお前? 」
はて? どういう事でしょう。
周りを見渡せば、気付いた場所は、大理石のような石の床が敷かれた。まるで神殿の一室のような、大きな部屋。
薄っすらと姿を反射させる床に自分の顔を写すと、これはこれでよく知った顔が写っていました。
「なるほど。どうやら、お互い、かなり若返っているみたいですね。私です間宮です。」
「はっ? マミさん? まじかよ。超若いし、細くね?」
まぁその反応は分かりますね。私も同意見です。私だって高校時代はスラリとしてましたからね。試合には出ませんでしたが空手部でしたし。
これでも武闘派だったんですよ。部活だけは。
「誰か来ましたね」
石の上を歩くような、カツカツという甲高い足音に反応し、この部屋唯一の扉に目を向けると、ゾロゾロと怪しげな黒いフードコートを着た魔術師スタイルの者達が入ってきた。
皆、体の線は細いが、男性のようです。深々とフードを被っているので、顔は見れないですが。
警戒した誠道くんが、立ち上がります。
私も遅れて立ち上がりますが、10人以上の怪しげな魔術師のような者たちに、完全に包囲されたようです。
「何なんだよお前ら。これは何の冗談だ。ドッキリだったとしても笑えねぇぞ!」
誠道くんが声を荒げますが、彼らが動じる事はない。
「おぉ! ここに勇者召喚の儀の成功を宣言する!」
「「「オーーッ」」」
最も豪華なローブを纏った男が、高らかと宣言する。すると周囲の者達が一斉に雄叫びを上げた。
その雄叫びは一介の戦士があげるような、太く心の底から出された歓喜の雄叫びだった。
状況が掴めないまま、呆気に取られるなか、宣言を下した男がそのまま続ける。
「私の名前はゼン。この宮廷魔術師団を取り纏める者です。勇者様。私達の世界をお救いください」
深々と頭を下げながらゼンという男が発した言葉。
それはファンタジーの物語の最初の1ページ。
王道。テンプレ。と呼ばれるセリフ。
そして、ある立場の者への決して回避することの出来ない。フラグとも取れるセリフだった。
まずいですね。この展開は……。
どう見ても私は、ある立場……。King of mob.
そう巻き込まれです。そして、ここまでキャラの立つ男が呼び出されるとなると、必要無くなる私の命は、保証されていないという事でしょう。
「勇者? 勇者って俺らの事か? 意味わかんねえよ! 俺らにわかるように説明しろよ」
「はい。勇者様。ここは、あなた方のいた世界とは全く異なる世界。所謂異世界でございます。そしてこの世界は今魔族を率いる魔王によって、終焉の危機を迎えております。どうか勇者様のお力をお貸しください。」
改めて深々と頭を下げるゼンと名乗る男と、魔道士達。
やっぱりこのパターンですか。
実際経験すると凄いですね。召喚への詫びもなく。当然のように魔王から自分達を救えと言っているのですから。
異世界の自分たちがピンチだから、異世界人さん当然助けてくれるよね? と言ったイメージでしょうか。
「ちょっと待てよ。異世界って俺ら別の世界にいんのか? すげぇ納得行かねえけど結局俺ら帰れんのか? それに勇者って言われても俺らは一般人だぞ」
誠道くんが、混乱しながら矢継ぎ早に質問を飛ばす。
しかし、ゼンはあくまでもゆっくりと冷静にこちらに対応する。
「すみません。この儀式は勇者の適合者を異世界から呼ぶ儀式。勝手ながらすぐに帰る事は出来ません。しかし! 魔王を! 魔王を倒していただければ、魔王の核を利用して元の世界にお戻り頂けます。勇者様はこちらの世界に来る際にこの世界の勇者として相応しい力を得ています。是非我らをお救いください」
「まじかよ……。」
そうですよね。戻れないと聞けばそういう反応に……
「俺勇者だってよ! まじかよ。俺にピッタリじゃねえか。やっぱり俺は特別だったんだよ。なあなあマミさん。凄くね俺ら勇者だってよ。」
……ならないですよね。
分かってましたよ。あなたこう言うシチュエーション好きそうですもんね。
おそらく儀式の検索条件が、勇者である事。そして勇者を断らない者。でしょうし。
まぁ上昇志向の強い彼なら、こういう反応になるでしょう。
「そうですね。本当に、そんな力があるのか疑問ですが」
誠道くんは間違いなくあるんでしょう。そうじゃなきゃ勇者は務まりません。
これは単純に、私にあるかという疑問です。
「勇者様。その辺りも含めて是非説明させて頂きたく、我らが王がお待ちです。」
私の言葉に被せるように、行動を決めるとは……
どうやらあちらも、勇者がどちらか分かっているみたいですね。
「おっマミさん。王様だってよ。俺らをここに呼んだ張本人を確認しに行こうぜ」
すっかりやる気になった誠道くんが、ゼンを先頭にしたローブの魔術師達についていきます。
しばらく赤い絨毯の上を歩くと、ひときわ装飾の施された巨大な扉の前に着きました。
どうやらここが、謁見の間と言うやつのようです。
マナーとか全く分かりませんが、不敬罪とかならないですよね。
ゆっくりと扉が開く。
そして開け放った扉の正面には、王冠を被り王座に深々と座る王と、その家臣達が一同に介していた。
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