達人達はおっさんを見過ごせない。 〜追放されたおっさんは『融合』でオリジナルを創りだす〜
荘助
第1話おっさんの定義と魔法陣
「マミヤ タクトーーーーー!!! 」
男の怒号と共に、天にも届きそうな柱となった眩い光が、一本の剣の形に集束する。
チリチリと光を迸らせ、創造されたその剣には溢れそうな程、圧倒的な破壊力が秘められていることが、容易に想像出来た。
岩を溶かすように切り刻む力を秘めたその剣を、彼は憎むような眼差しで睨みながら、もう一人の青年へと向ける。
「悪いですが、この方の命を奪わせる訳にはいかないのです。」
禍々しい翼を広げた異形の青年。
浅黒い肌に、片目だけ紅い目。そして翼と共に特徴的な頭の角。
しかしその青年は、どこか悲しげに剣を向ける青年を見ています。
「マスター! 」
そして異形の青年の後ろには、彼を心配そうに見守る先頭のスライム以外、姿のボヤけた魔物達。
異形の青年
これがどうやら私のようです。
その表情から。私もよく見知った顔の男。その男を必死に説得しているようだ。
「シネ」
しかし、その甲斐もなく、その男の躊躇なく振るった剣と、青年の咄嗟に出した黒い球体状の魔法のようなものがぶつかり、辺りを凄まじい光と共に、爆炎が包み込んだ。
そこで私は目を覚ました。
********************
おっさんの定義とはなんでしょう。
私は今年で38歳。そして独身。
世間的には十分若者からおっさんと呼ばれる年齢でしょう。子供がいないので何とかパパと言う呼び名も期待できませんし。
ただ同じ年齢でも若々しく、おっさんというには謀られる人もいるわけです。
「あっ。マミさんお疲れ様です。これ処理お願いします!」
元気な声で私に書類を渡すのは、誠道くん。
確か彼の名は、
28歳。入社6年目で主任となった期待の若手の一人です。
高学歴、高身長、整った顔、営業センス。高スペックなイケメンで社内でも女性社員に大人気の営業マン。
あぁ。マミさんというのは私です。
間宮拓人=37歳。もうすぐ38歳ですけど……
そういえば今日の夢の青年は、少し若いですが、やはり彼に似てました。
ただなんとなく、彼が出てきたのはわかりますが、内容はもう思い出せません。何か物凄いファンタジーな夢だったような気がします。
彼がなんで私の夢に出てきたのか……?
「お疲れ様です。誠道主任。今月も調子良さそうですね。」
彼が持ってきたのは、契約書。これで今月3軒目です。
「はい。絶好調です。今月もこれで3軒目。2ヶ月後が楽しみですよ。あっ久野木課長がマミさんに宜しくって言ってましたよ。火曜あたりどうかって」
クイっと酒を飲む仕草をする誠道くん。
相変わらずですね。彼も。
あぁ彼の言う、久野木課長と言うのは私の同期です。
彼はおっさんの定義に、まるで当てはまらない30台前半と言って良い見た目と言動で、次期部長筆頭と言われています。
私の会社は、土地や戸建ての仲介を生業としています。
私達事務方とは違い、営業は完全歩合制。
彼が2ヶ月後と言うのは月の額面が60万を超えるとその分がプールされ、3ヶ月に1回まとめて貰えるからなんです。
といっても扱っている物件は高額物件なので、1〜2軒で手取り60万超えることなんてざらなんですよ。
その分仕事は大変ですけどね。
私には絶対に無理です。
それに、このプール制度。私から言わせれば、優秀な社員さんを急に辞めさせないための保険のような気がしますが、気のせいでしょうか?
「そうですか。久野木課長は今ダントツですからね。ご相伴にあずかりますと言っておいて下さい。」
「了解です!俺も参加させて下さいね!」
慌ただしく出て行く誠道くん。彼はいつも元気です。
そうそう。私は思うんですよ。おっさんに早くしてなるか、カッコいい中年男性になるか。
カッコいい中年男性になるか、否かですが、収入以外だと、少なくとも外に出ているか。というのが重要だと思うんです。
同期の久野木くんと私は、スタートの年齢こそ同じですが、私はこの16年同じ社員とパソコンしか相手にしない。行って帰るだけの事務職。
彼は、毎日のように外へ出て客相手に仕事しているわけです。そう、見られるのが仕事なんですよね。
見られることのない私は、どんどん人目を気にしなくなり、動くことのない体は少しずつ大きくなって行くわけで、人に会わないし、いいか……。と甘えた結果。立派なおっさんの出来上がり。と言うわけです。
完全な私見ですがね。一理は有ると思うんですよ。
これでも若い時は、マミさん、クノちゃんと呼び合ってたんですけどね。
彼が課長になってからは、久野木課長か久野木さんとまぁ引け目を感じてるんですよ。
っと17時。
営業の皆さんは、これからが勝負の時間ですが、私はこれで終了です。
そういえば、新しい漫画が出てましたね。帰りに買って行きますか。電車には1時間近く乗りますから帰りのお供です。
あっプリペイドも買っておかないとです。
ゲームに漫画、通勤時には携帯ラノベと、オタク……。
その手のグッズなどは買わないし、イベントのような物にも行かないので、ライトオタクと言うんでしょうか。
それが私です。
自分に無い物を求めた結果、ファンタジーな漫画やゲーム、小説に惹かれたんでしょう。
「あっマミさん。今帰りですか? お疲れ様です!」
「誠道主任。こんな所でどうしたんですか?」
「あぁこの先の本屋で手帳新調したんですよ。もうボロボロで、マミさんもここにいるってことは本屋ですか?」
駅から少し外れたこの道は、本屋くらいしか寄るところはないので予想は簡単です。
えぇ今日発売の漫画を……。と言えれば楽なんですけどそれは出来ません。
「そうですね。本屋に寄って帰ろうかと。営業はこれからですか。あまり遅くならないといいですね。」
そこは言わないのが、大人の事情というやつです。
このちっぽけなプライドを守ることが社会人の嗜みってやつですよ。
嘘です。見栄です。はい。
「今日は契約決めたんで早く帰りますよ。ん?マミさんなんか聞こえました?」
「いいえ。特になに…「ほらっ! 今。今も。」」
声を探し、キョロキョロと顔を向ける誠道くん。
私の耳には何も聞こえないですが、誠道くんには本当に聴こえていそうです。早く帰ってゆっくり休んで欲しいですね。
「取り敢えず、私達以外にはいないようです。大丈夫ですか? 誠道主任」
未だキョロキョロとする誠道くんが、こんどは何やら喋っています。
「えっ?私達の……。世界? ちっ聞こえない。ん?特別な……。力を…だめだ。」
「大丈夫で……」
なんですかこれは、足元に大きな魔法陣のような幾何学模様。
これは誠道くんを中心に描かれてる?
「なんだよこれ! うわ! 」
一気に光が強くなり、目の前が真っ白になる。
その瞬間、私の意識はなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます