第16話おっさんの筋肉痛と魔力循環

「ん…。おぉ。体動きますね。」


 目を覚ますとゆっくりと起き上がり、伸びをする。


 思ったよりも、筋肉痛がない。

 その感覚を不思議に思いながらゆっくりと体を動かす。


 もっとこうバキバキで動けなくて焦る姿を想像してた杞憂だったようだ。


 10代の若者と違い、やはり元の年齢が40前の中年だからでしょうかね。

  思えば元々筋肉痛も来るのが随分遅かった。


 まあ久野木課長は、筋肉痛にすらならないほど鍛えてましたからね。アラフォーイコールという訳ではないのですが。


 それにしても、全くだるさなどがありません。

 薬草の煮浸しが効いたんでしょうか?さすが師匠の作ってくれた料理ですね。ありがたいです。


 さあ準備をして訓練場に行きましょうか。

 今日は何とか師匠の家に帰りたいところです。荷物も纏めてしまいましたしね。


 よしっ。準備はバッチリです。


「お邪魔しまーす。って今日はまだ誰もいませんか」


「おっ来たか!」


 訓練場の客席から師範が手を挙げている。


 随分早くからいたんじゃないでしょうか。


「今日もよろしくお願いします。師範」


「カッカッカ。なんじゃ随分普通に入ってきたの。もう少し引きずりながら来るかと思って待っとったんじゃが。どうじゃ?体は動くかの?」


 なるほど。だからこんなに早くからいたんですね。

 それにしても、相変わらず軽快な笑い方です。


「大丈夫です。問題なく動くようです」


 私としてもホント不思議なんですけど。問題はなさそうです。


「ん?そうか? そうかそうか。それは良かったの。では今日も早速じゃ」


 5時間後


「はぁ。終わったー!」


 昨日よりましかと思いましたが、結局5時間は変わらずにかかってしまいましたか。

 途中誠道くんが、こちらを見てニヤついていました。まあやってる事は昨日と同じ、ゆっくり棒を動かしているだけですから。


 その誠道くんも、とっくに訓練を終えていなくなっているんですけど。


 訓練中、閃光が飛び交い、地面がえぐれ人が飛ぶ……。やっぱり彼の訓練は派手ですね。


 つい先ほどまで、えぐれた訓練場の地面を、兵士の人達数人がかりで補修し、すでにすっかり地面は整えてられていた。


 その補修中の兵士までこちらを見て笑っていましたし……。


 私なんて、この肩幅ほどの円の中で事足ります。5時間も同じ場所で足を動かしていれば多少掘られていますがささっと土をかけて踏み固めれば補修完了です。


 まぁこの演武が1時間切らない限りは、先に進まないと言われていますしね。

 ああいう模擬試合のような訓練は、当分お預けでしょう。


 いや。お預け以前に、2週間以内にクリアできるかも不安でしかありませんが。そこは自分と師範を信じるしかないでしょう。


 時間は14時過ぎ。

 この世界も24時間で1日なので、迷わなくていい。体内時計もそのままですし、今迄の生活を考えると、


 7時に朝ごはん

 12時に昼ごはん

 20時に晩ごはん

 ですからね。


 12時過ぎれば、習慣的にお腹が空く。不味くて食べたくもない堅パンしかないのに、まったく……困ったお腹です。


「さてと」


 昨日よりも多少ましな体を起こす。


 地面に吸い込まれるような重たい感覚はなく、思ったよりも楽に立ち上がれた。


「昨日よりも身体が幾分楽ですね。」


 昨日は精神的な疲れもありましたから。きっとそのせいでしょう。


 それでも疲労感は感じますが、なんとか歩けるくらいの体力は残っています。


 これならば師匠宅に戻れそうです。

 荷物を回収して、師匠の家に向かいましょう。


 堅パンと薬草の煮浸し。

 お決まりの食事を平らげ、森の奥へと進むと二日ぶりの師匠の家が見えた。



「お邪魔します……。」


 ノックをしてそのままドアを開ける。


 一応そのまま入って良いとは言われているが、そのまま「ただいまー」なんて帰れるほどコミュニケーション能力は高くないですよ私は。


「おっ帰ってきたね。なんだい。その入り方は。「ただいま!」って元気に帰ってこれないのかい。困った弟子だね。」


 ドアを開けると、前と同じ席に座っていた師匠が立ち上がり、小さな体を精一杯大きくするように胸を張り、出迎えてくれた。「ただいま」で良かったみたいです。


 師匠はお茶を飲みながら、茶菓子でクッキーのようなものを食べていたようだ。

 口の周りにクッキーがついてしまっている。


 拭いてあげたいですね。


「ん?なんじゃそのハンカチは?それで?ちゃんと魔力訓練はしたんだろうね」


 残念自分で拭いてしまいました。

 師匠は決して疑っているわけではなく、純粋に成果に興味あると言った感じです。


「はい。」


 そう言っていつものように敷布を引き、その上に立ちリラックスする。

 なんとか魔力を集めると、ゆっくりと動かし始めた。


「それまで!」


 魔力が1周すると、師匠から終了の合図が出される。

 武術訓練とは違い、肉体的な疲労感はほとんどないが、精神的というか何かが体から抜けたような喪失感が襲う。


 全力で魔力を高めた結果であり、魔力欠乏一歩手前の症状だ。


 喪失感により、崩れそうな体をなんとか耐える。


「うむ。昨日を含めてサボっておらんかったようじゃの。まだまだかなり拙いが、止まることなく循環出来ているじゃないか」


「有難うございます。師匠の教えの賜物です」


「そうかい。そうかい。ヌシも言うようになったの。食事を用意する間、これでも齧って休んでおくんだね」


 そういうと、一本の草を投げ上機嫌に台所へと向かって行く。


 マジックリーフですか。青々としたいかにも高品質なマジックリーフを、そのまま草をすり潰すように奥歯で齧ると甘味と共に喪失感が少し楽になる。

 これは魔力が回復する薬草で、齧ると少し甘いんです。希少な天然の甘味料ですね。


 でも実はこの薬草。ポーション作りに必須な調合時の煮立たせる工程で非常に苦くなるんですよね。

錬金術も煮立たせた後の素材を使います。だから服用しなければならない魔力ポーションには、他の甘味料が入っていてごまかしているんですが、それでもすごく苦いので敬遠されている。


マジックリーフを齧りながら、そんなことを考えていると台所から空腹なお腹を刺激する香りが漂ってきた。


 それと同時にくぅ〜っとお腹がないた。


 良い匂いです。夕飯が楽しみです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る