第22話おっさんの日課と魔法の才能

 ★10日目


 武術訓練を終え、日課となったスライム狩りを終えると、師匠の家へと帰宅する。

 その道のりは、数日前の引き摺るような足取りとは違い、いささか余裕が出来ていた。


 そうそう。

 偶に出くわすホーンラビットも今は何とか倒せるようになりましたよ。スライム狩りでLvが上がっているんでしょうかね。


 この兎は肉質が良くて、お持ち帰りすると師匠が美味しく料理してくれます。


 帰宅し昼食を食べ終えると、ジーマ師匠による魔法訓練の時間となる。


 武術訓練の演武の時間が、1時間を切った8日目以降。この2日間の訓練のスケジュールは大きく変わっていた。


 今までの殆どが、1時間を切るための武術の基礎訓練。そして帰宅後の寝る前の魔法訓練という流れから


 日の出と共に起床

 瞑想で魔力の質を高め

 パワーモーニングと呼ばれる蛋白質多めの朝食

 その後訓練場にて武術訓練

 井戸へと行きスライム狩り

 遅めの昼食まで睡眠

 薬草や魔力に良い昼食

 その後は魔力訓練

 薬草実習 常識講義 などの他 融合にて様々な薬を調薬

 夕食をとり

 魔力欠乏にて気を失うまで魔力を操作し、就寝

 というスケジュールに従って、1日が過ぎて行くようになりました。


 ありがたい事に、食事の全ては師匠が作ってくれていますし、私が入れない城の図書室へと行き、魔物やスキルについての蔵書を拝借してきてくれます。他国の魔導師でもある師匠がどうやって国図書室から本を借りれるかわかりませんが、本人曰く余裕じゃ余裕。だそうで……。さすが師匠です。


 さらに訓練に最適な、栄養を考えた食事を用意してくれている。

 頭が上がりませんね。独り立ちしたら必ず恩をお返しする所存です。


 そう言う環境下と言うこともあり、今もっとも時間を費やしているのが、魔法の訓練という事になります。


 魔法といい武術といい、出来なかった事が出来るようになるのは嬉しいですね。

 しかし、同時に。今のペースで本当に大丈夫なのだろうかと、不安が少しよぎります。


 あれだけ誠道くんが、バカスカ魔法を近くで放っているのを見れば、それは焦ると言うものです。

 無論彼との才能の違いは、しっかりと理解してますけどね。


 だからこそ、師匠に成果を見せる時が最も不安に。最も緊張する時なんです。


「さあ。これまでの成果見せてごらんな」


 師匠に言われた通り、魔力を操作するため姿勢を整える。


「いきます。」


 肩幅に脚を広げて立つと、そのまま一度大きく深呼吸をする。


 へその上の魔力溜まりから、出来る限り早く魔力を取り出す。

 そしてそのまま上へと移動させ、心臓を通過させ体をぐるりと一周させる。そして右手、左手の通過時には通常時に体全体を纏わせている魔力を薄くし、その通過時には右手と左手に集め、循環させている魔力と合わせていく。


 二度のタイミングで、圧倒的に大きく、力強くなる魔力の塊。

 その制御の為に意識を向ければ、『循環』や『操作』の制御が崩れてしまう。

 揺らぐ魔力を必死に抑え、また魔力溜まりまで魔力を戻せば終了となる。


 これが

『魔力操作』から『魔力循環』。そして『魔力集中』の訓練の一連の流れとなる。


 魔力が無事循環したところで、出していた魔力を一部を除き霧散させる。


 ふー。

 何とか一周回せましたね。やはり『魔力集中』が加わるだけで格段に難しくなりますね。


「ほー。少しは見れるようになったじゃないか。魔力循環より魔力集中の方が才能がありそうだねぇあんたは。」


 頷きながら師匠が評価を口にする。才能……いい言葉です。


 よかったです。何とか合格点は貰えたみたいですね。


「それならば少し応用じゃな。」


 安堵の表情を浮かべる私をチラリと確認すると、指先に出した高出力の魔力を兎や馬の形へと変化させていき、動物たちが駆ける姿を見せると、フッと消してみせた。


 おー。あれは『魔力変化』でしょうか。

『魔力変化』は、『魔力操作』の応用で、魔力の形や性質を変化させる技術……でしたかね。


 今習っている基礎的な魔力の扱い方よりも、圧倒的に難易度が高い技術です。

 なので、あれをいきなりやれと言われても……。


「ふん。安心せい。ヌシに同じ事を、いきなりやれとは言わんよ。」


 これからの事を想像し不安な顔をする表情をまた読まれ、思考の先をこされる。


「そうですか。でも師匠。頑張れば魔力はあそこまで自由になるんですね。」


「そうだよ。魔力は自由。これをしっかりと覚えておきな。イメージを固めるんじゃないよ。こうゆうものだ。何て教科書的な覚え方をしたらその先はないよ。わかったね」


「はい師匠。それでその技術でなにを……」


「まあさっき見せた『魔力変化』は訓練次第でできるという事だけじゃな。やるのはその手前の事じゃよ。」


 そう言うと力強い魔力が右拳に集中し始めた。


「どうじゃ。これだけ高出力の魔力を集めれば、さっき魔力を変化を見せた時のように、未熟な『魔力視』でも見えるんじゃないかい?」


 コクリと頷くと、私が追いやすいようにゆっくりとその魔力は腕を伝い、師匠の両目へと集まった。


「どうじゃ?同じように両目に魔力を集めるのじゃ。それでこれを見てごらん」


 両目を魔力で覆った師匠が鉢に入った薬草を差し出す。


 そして、その薬草を観察しながら、両目に魔力を集めた。

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