第30話おっさんの冒険者登録と避けられぬテンプレ

 城門を抜け、城を囲う掘に架けられた橋を渡ると、そこは中世ヨーロッパのような石材が敷かれた道。そして広い芝の敷地に木造の家々が建ち並ぶ貴族街であった。


 この区画自体は貴族の多く住まう貴族街となっており、整えられた芝生の広い庭に、豪邸と称される豪華な門を持つ美しい邸宅が、城を中心に半円を描くように放射状に広がっていた。


 3m程の城壁に囲まれたこの貴族街の出口に向かって歩く。


 この区画で歩いているのは、巡回の兵士と私くらいだろう。


 馬車の通れるように舗装された道には豪華な馬車が走り、すれ違って行く。


 暫く歩き、たどり着いた貴族街側の城門へと近付く。


「待て!話は聞いているがステータスカードの提示を」


 真面目そうな兵士に槍の穂先を向けられながら、貰った【仮】の身分証を取り出し兵士へと提示する。


「よし。いいか。その身分証は【仮】だ。ここを出て1週間以内に誓約通り『冒険者』の身分証を作成しなければ、捕まり死刑もしくは奴隷となって貰う。よいな。1週間以内に身分証を作りここに持ってくるのだ」


「はい。よく分かってます。あの。兵士さんのお名前は?」


「俺か?俺はクーゲルだお前はタクトだな。よいか作ったらすぐにここに来るのだぞ」


 城にいた兵士と違い、この兵士。クーゲルさんからは真剣に私を心配して強く言ってくれているように感じますね。


 師匠や師範以外から好意的に対応されるのは初めてじゃないでしょうか。


「はい。ありがとうございますクーゲルさん。本日中に登録するつもりなのでお持ちします。それでは」


 貴族側の城門を潜り、城壁を通り抜ける形で城下町側の扉を兵士の一人が開けると、騒々しさすら感じる人々の活気ある声が一斉に飛び込んできた。


 大きな通りにはびっしりと店が建ち並び、多くの住民や外から来たであろう旅装束の者たち、商人。そして様々な武器や防具を身につけた冒険者達に人族ではない亜人と呼ばれる異形の者達で溢れていた。


「おー。これが異世界ですか……。すさまじい熱気。あの王は愚王ではなく、内政面では優秀のようですね。」


 これが、暗く寂れた城下町であれば愚王確定だったが、この賑わいを作れるのは素直に能力が優れているか、この国に優秀な内政官がいる証なのでしょう。


 暫く立ち尽くした後、師範に頂いた剛棒と生活用品を詰め込んだバッグを背負いなおし、そのまま冒険者ギルドへと向かう。


 場所はクーゲルさんに手書きの地図と共に事前に教えられ、迷うような事はなかった。


 道中、店に並べられているものを確認しながら歩いていると、この国のある程度の物価は知ることが出来た。


「どうやら食料の自給率は高そうですね。200〜300トール程あれば、餓死を心配する事なく、1日はなんとか最低限食いつなげそうです。」


 情報収集を兼ねて、観察しながら街の端へと向かい、外へと繋がる大城門の手前を右に曲がる。


 そこは周囲から家が排除された大きな広場となっていた。


 その中心に円の中に魔物のような絵が描かれ斜線が引かれた冒険者ギルドのマークが描かれた旗がはためく、5階建の重厚な木造の建物があらわれた。


【冒険者ギルド】

 各街や村に支部があり、薬草の採取から魔物の討伐、護衛まで様々な依頼を仲介し、冒険者達を取り纏める組織である。

 依頼者からの絶対的な信頼で成り立つ大組織となっており、その為『冒険者』という身分が保証されている。


 重厚な門は開け放たれており、冒険者達が忙しなく行き来している。

 ここは王都。周辺の街に比べても圧倒的に冒険者数も依頼数も多い、冒険者の中心的なギルドであると聞いていた。


 ギルドへと入る前に、自分の姿を確認する。

 防具は、餞別でもらった一般的な低ランクの装備と同じ、革製の最低限心臓を守るパッドがついただけの品だ。


 勇者であるセイドウくんとは、天と地ほど価値は違うのだ。


 全くとことんハードモードのようです。


 ちらちらと視線を感じながら、受付の列に並ぶ。

 黒髪黒眼は、いないわけではないが珍しいらしい。


 ここで目立って異世界物のテンプレを発動しないようにしなくてはいけませんね。


 ぐわっ こいつ見た目以上にやりやがる!


 ……なんて事にはなりません。


 はん!見た目通りじゃねえか!


 ……はい。こっちですね。


 こんな大きなバッグを背負っている時点で地元の冒険者ではないですからね。気をつけていきましょう。


 それにしてもファンタジーだ。

 皆さん冒険者って感じですね。


「つぎー」


 やる気のない声に促され、受付嬢の前へと立つ。


「あの。冒険者として登録をお願いしたいのですが……。」


 少しキツそうな顔の整った狐目の女性が、機嫌悪そうに上から下へと全身へ視線を向け、溜息をつく。


「はぁ。また田舎者。いいからさっさとステータスカード出しなさい。」


 気怠そうに、台の上を指でコツコツと叩く受付嬢の前に、スキルのステータスカードを表示させる。


 ただし表示させるスキルはこちらで選べるようで、一悶着ありそうな『融合』のスキルは非表示にしてあります。


 これに特殊な魔道具をつけることにより、登録され正式な身分証として更新されます。


 ちなみに冒険者登録をした日中に、簡単な物でも1つは依頼をこなさないと、冒険者になる前の身分証に戻ってしまうということなので、この受付嬢の女の人に依頼の件は聞かないとですね。


「はっ?輝度43〜!?はぁ?あんたホントに大丈夫ですか〜?」


 声高に馬鹿にする受付嬢

「まっあんたがのたれ死のうがいいけど、依頼未達で迷惑はかけないでよね。」

 と心底メンドくさそうに続け、Fランクの冒険者の証のタグをさしだした。


 乱暴に渡された茶色のタグと、更新された【仮】のとれた身分証を受け取る。


 冒険者の平均輝度60、トップの冒険者は倍以上らしいが、Sを頂点としたA、B、C、D、E、Fと低ランクになる程ピラミッド型に広がるこの圧倒的に多い低ランクをいれれば、この位だと聞いている。

 輝度43が低いのは冒険者としても同じですからね。


「有難うございます。それであの…」


「それにしても43って。ないわー」


 依頼の事を聞こうとしたこちらの言葉を遮るように、相変わらず馬鹿にしたような表情で、大きな声でなじる受付嬢。


 ステータスカードを出す以上、自身のステータスの大半はギルド側に誤魔化すことが出来ない。特に輝度は非表示には出来ない。


 自分の生命線とも言われる情報をある程度提示する以上、その値や知り得た情報を第三者に言う事は、本来受付嬢含むギルド側の人間は、禁止されている。


 しかしそんな声は、しっかりと後ろに並ぶ柄の悪い冒険者達の耳に入っていた。


「おいおいおい。そんな奴が冒険者かよ!素質のねぇ奴は引っ込んでな。」


 その声と共に肩に大きな手が乗った。


 やはりテンプレは避けられないからテンプレのようですね。


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