第74話おっさんの趣味と実力の全て

 無表情のままその場に立つルファの姿を観察する。


 その姿は毛並みは悪くゴワゴワで、汚れた顔に泥などで汚れた体。


 そしてなにかを諦めたような影のある……そんな空気を感じる。


「まずは綺麗にしましょうか。話はそれからですね」


「はい。ご主人様。ご主人様のお好きなようになさって下さい。御奉仕させて頂きます」


 淡々と感情なく発せられる言葉。


「なっ……」


 そして急に作った笑みを見せ、言葉を綴るルファ。奴隷とは奉仕するもの。そう教育されているようですね。


 そういうのは要らないって言っても、今のルファには通じないんでしょう。心を封じられている。そんな気さえします。


 湯を貰い、買ってきたタオルを渡す。これは汚れを拭くためではない。


 汚れを取るのは……


 『クリーン』


 ルファの頭に手を置き、クリーンを唱える

 一瞬驚いた表情を見せるルファ。


 どうやら感情は残っているようです。よかった。


 いつものようにイメージした全身に広がる細かな泡が体を覆い、泡の一つ一つが汚れや匂いを吸収して割れていく。


 全ての泡が消えれば、シャワーを浴びた後のような清潔感を取り戻す。


「へぁぁ」


 無言だったルファの口から声が漏れる。

 この魔法は意外に気持ちいいのだ。そういう風にイメージしてますからね。


 崩れたルファの表情がはっとした瞬間すぐに無表情に戻る。


 急いでもしょうがないですね。でも心は残っている事が分かってよかったです。それに慌てて戻すと言った行為自体知性が残ってないと出来ない。


 外に出る間に身ぎれいにして着替えるように言いつけ外へ。


 お湯は綺麗になったと言っても元の服を脱いだ時に、サッパリするために一応用意した。


 実際清潔だと言っても、拭きたくなるのが乙女心でしょう。


 演武で時間を潰す。

 最近は1回の演武もギリギリでも30分を切る事が多くなった。少しは成長しているようです。


 最近なんとなく正体の分かってきた怪しい視線に、視線を送り部屋へと戻る。

 まあ見ているだけなら何も害はないですしね。


************************


「くはっ!」


 今私に視線を送りましたね!あぁあの汗に光った上半身に、キランと光る目。……じゅる


 しかし私の隠密を見破るとは…邪念が隠密を鈍らせているようね。いけない。いけない。


 それでも私が全力で隠れて、彼が察知する。素敵な共同作業……。ふふふ。


 それにしても、今は負荷1.9倍なんだけど……。ママ?能力引き出し過ぎじゃない?


************************


 覗き魔ネルの視線から解放され、自分にクリーン生活魔法をかけてから部屋の扉をノックし、中へと入ると着替えの終わったルファが、出て行った時とは変わらない姿勢で立っていた。


 ん〜。言い方間違ったでしょうか。


 しかしちらりとお湯を見れば、使われていて少し安心する。


 おぉ。薄汚れていた時から思っていましたが、やはりかなりの美人だ。


 買ってきたブラウスに尻尾の通るスカート姿のルファは先程までの薄汚れた少女ではなく、美しい一人の女性だった。


 頭に狐耳、お尻に尻尾がついてる以外は人と変わらない容姿ですね。

 スタイルも非常に良い。


 そして仕上げはこれ!

 最高級ブラシ!


「ルファ こっちに座ってください」


 ぽんぽんとベッドを叩くと、ゆっくりとベッドへと座る。その表情はどこか緊張…というよりもやっぱりかというどこか諦めているような表情だった。


「ご主人様。初めてですが精一杯御奉仕させて頂きます」


 ベッドに正座になり頭を下げるルファ。

 やはり勘違いしているみたいですね。


 そのままベッドに座らせると、ブラシを取り出し優しく優しくとかします。


 私の数少ない趣味の一つがドッグカフェと猫カフェですからね。そこで鍛えたブラッシングスキルを遺憾なく発揮しましょう。


 それこそ店の人から無料でいいから来てくれと言われる腕前ですからね。自信ありますよー。


 ふっふふん ふっふふん んっんっん〜


 久し振りのブラッシングに鼻歌まじりにブラシを動かす。

 大雑把に荒いブラシで毛の絡みを解き、徐々に目の細かいブラシで毛玉や細かな埃やゴミを取っていく。


 これだけでもだいぶ綺麗になったのが分かる。


 ブラッシングを進めるほど、ピクッピクッとルファが反応するのが嬉しくなってきた。


「そして仕上げはコレです!」


 ワイルドボアとクラッシュホースの毛を使った最高級ブラシ!お値段なんと3万トール。


 え?いつの間に買ったかですか?

 それは勿論フォレストキャットを狩りにいく前ですよ。結局使わずじまいでしたが、やっと出番です。


 ふふふ

 どや。ここか。ここがいええんか。ん?そうか そうか。ここか ここがええんやな。


 ルファの反応を確認しながら、ブラッシングの強さ、方向、場所を変えていく。


 それから数十分。我を完全に忘れブラッシングを敢行する。


「あっ……」


 調子に乗りすぎました……。

 お気に入りのワンコに接する時のように、それはもう愛情を込めて全力で持てる限りの技を使いブラッシングしてしまいました。


 そして目の前にはつやっつやに薄っすらと光沢すら纏うルファ。……が息が荒く恍惚の表情を浮かべてます。


「はぁっはぁっはぁっ。」


 あれ?目がおかしいですよ?ルファさん!


 抱きつかれました。あっ発情してません?


 そこには、体が熱く、細かく息をしながら頬を赤くするルファ。


 抱きつかれた状態で押し倒される…


 えっそのまま?


 あふん。

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