第18話おっさんの仕事と勇者の魔法

 5日目


「はっ‼︎」

 演武の最後の打ち下ろしを地面すれすれで止める。


 時間を見れば9時から始めたこの演武も今は、11時少し前だ。


「ふ〜。」天井に向かって大きく息を吐き出す。


 なんとか2時間を切りましたね。あれから3日。

 演武の順番と言いますか、流れが分かってきたというのもあるのでしょう。

 順調に1時間ずつ時間を縮め、やっと2時間を切ることが出来ました。


 それでも、あと1時間も短縮が必要なんですよね……。


 演武の次の工程に進めるために、1時間を切る。

 それが師範から与えられた試練。


 このまま順調に行けば2週間以内には……と頭によぎりますが、油断してはダメですね。


 私の才能。

 輝度は43しかないのですから。そう。油断禁物です。


 どうやら今日は、誠道くんの訓練時間が終わる前に終えられたみたいです。


 派手な魔法が後ろで飛び交っているのは分かっていましたが……。


 おー。あの技はスラッシュですね。どうやらこの数日で、剣術のスキルを得たみたいです。


 素人くさい動きが全くありません。さすがは勇者様です。


 騎士団長のホーエンさんも、遊びはやめたようで、前は1撃が大振りで力任せに振るっていましたが、今は普通に剣術で誠道くんの相手をしている感じです。


 おー! あれは火魔法のファイアボール

 それに風魔法のウインドカッターでしょうか。見えない何かが地面を切り裂きましたね。

  水魔法のウォーターボールに土魔法のアースウォールですか。


 凄いですね。基本4属性すべて使えるなんて、これはますます勇者様ですね。


 しかし誠道くんは、いつのまに魔法の取得をしたんでしょう?ここで使うのは初めてのような気がしますが。


 あっ私ですか?5時間かかっていたものが2時間になったので、訓練場をマラソン中です。

 もちろん剛棒を持ったままですよ。

 1周ずつ右手持ち左手持ちと交互に持ってバランスよく筋肉を鍛えろとの指示ですので。


 たまに誠道くんの近くを通ると、風の塊が飛んできて地面をえぐります。


 まぁわざとでしょうね。


「あっ……」


 私の足元に飛んだ魔法をみて、笑いかけた誠道くんが、吹き飛びましたね。


 ホーエンさんの柄での一撃がお腹にめり込んだようです。


 訓練中に余所見は厳禁ですよ。それに理不尽に私を睨むのはやめていただきたいですね。まったく。


 それでも、ああいう訓練は憧れますね。もちろん未だに武術は一切教えてもらってません。


 1時間切ってないですから。


 あっただ今日はこれから一仕事です。


「おーい。タクト。 仕事貰ってきたぞい」


 そう言って演武が始まる前に、師範が立てた人差し指でチャリチャリと何処かの鍵を回しながらやって来た。


「どういう事です?」


「お前さんもただ棒を振るだけじゃ面白くなかろう。ちょっとした仕事を引き受けてきた。走り終わったら行くぞい」


 そう言われ、2時間程走った所で、今日の訓練が終わった。


「ここじゃ」


 ついたのは兵舎の近くにある井戸だった。


「井戸……ですね。 」


 思えば最初に教わった井戸ってこれの事だったんじゃないでしょうか……。倉庫から師匠の家より、圧倒的に近いですし。


「こっちじゃこっち」


 既に井戸の中にあるハシゴを下っていた師範が手招きする。

 どうやら井戸の中に行くみたいです。


 師範に続き井戸へと入ると、師範は既に途中にある通路へと入り、鍵のかかった鉄製の牢のような扉を開けていた。


「さてと。今日からここで仕事をしてもらうぞ。」


「これって……」


 出てきたのはつるりとしたお馴染みの魔物だった。


「そうじゃ。スライムじゃ弱いと言っても奴らも魔物、倒せば魔素を吸収出来る。今のところ訓練は順調だからの。今日から1日10体。突いて倒すだけの簡単なお仕事じゃ。カッカッカ」


 見れば奥の方には結構な量のスライムがいる。

 城の中の井戸にこんなに発生していていいんですかね?


「不思議じゃろ?ここは昔、城に預けられた貴族の子供を安全に強くする為に作られた施設じゃったんじゃよ。今ではスライムが定期的に湧く面倒な場所じゃがな。」


「あぁなるほど……。」


 確かに私も最初の街でスライムを倒してLv上げしましたね。

 丁度装備も同じような感じでしたが……。あちらはヒノキで出来ていましたが、これは何が材料何ですかね?


「うむ。本来下っ端の雑用兵士がやっとる仕事じゃがな面倒を押し付けられて喜んどったぞ。という事でな10体さっさと倒すんじゃな。」


 ふむ。

 無茶言う師範ですね。


 ただ魔物を倒す訓練としては最適なんでしょうね。貴族の子供が許されていたくらいですから。


「ぴぎゅ」


 甲高い声で鳴くスライムが奥の部屋からこちらへと、ノソリノソリと近付く。


「今じゃ突け!」


「ハッ!!」


 師範の声と同時に、持っていた剛棒を真っ直ぐにスライムに向かい突き出す。


 突き方なんて分からない。


 演武の一部を切り取っただけの格好を真似、重心を低くただしっかりとスライムへと真っ直ぐに突く。


「ピギュ」


 プチっと言う感じだろうか?

 皮を突き破ったと言うよりも、押しのけられ行き場をなくした中身が破裂した感じ……。


「………」


「師範?」


 無言の師範に声をかける。


「おぉ。それでいいんじゃないかの?まあ鍵を渡すから今日から訓練終わりにはここによって10体じゃ。ここより先に行くでないぞ、ここに出てくるのを1体ずつじゃ、そうすれば死ぬ事はあるまいて」


 そう言って師範はポンっと私の肩を叩き、軽快にハシゴを登っていった。


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