最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~ 

九条 結弦

第1章 アルトの村再興篇(メイン舞台国家:アリーシャ騎士団領)

第1話 召喚士、異世界へご招待

 『ブレイブ・クロニクル』


 サービス開始以降、全世界で利用ユーザーが爆発的に増加し続けているVRMMOであり、ゲーム雑誌や一部のネットニュースで特集が組まれる程の人気を博している大人気ゲームである。

 プレイヤーは中世ヨーロッパの時代をイメージしたファンタジー色満載の仮想世界を自由に旅をする事が可能で、戦士となって魔境に潜む凶悪な魔物を討伐したり、魔術師となって燃え盛る火炎の渦で敵を一網打尽にしたり、商人となって様々な珍しい品々を仕入れ、日々危険なダンジョンに潜り続けるプレイヤー達に販売して彼らの冒険の一助となる等、プレイヤーが選択可能な「クラス(職業)」も豊富に揃っている。

 多種多様な装備を纏ったプレイヤーが日夜貴重なドロップ品を求めてダンジョンに挑み続け、魔物の侵入不可領域となっている城壁に囲まれた城塞都市ではプレイヤー達が結成した数多くのギルドのギルドハウスが乱立し、他のギルドやソロプレイヤーから仕入れたダンジョンの情報や新装備の開発に必要な素材の種類や個数等をボードにびっしりと隙間なく貼って効率良くダンジョン攻略に取り掛かるための方策を談義している。

 石畳の敷かれた通りには見栄えよく丁寧に剪定された街路樹が、新緑の葉を茂らせて深碧の天蓋を作り出していて、その下を重厚な金属製の鎧を纏った戦士やトンガリ帽子を目深に被った魔女風の出で立ちをした女性等、この『ブレイブ・クロニクル』の世界を各々満喫中のプレイヤー達が闊歩していく中、



「それでね、俺が先週新たに実装された墓場ダンジョンで出会った精霊が本当に俺好みで、是非契約してほしいと思って何度もアタックしたんだ。最初の頃は何度も交渉しても最終的にはHP全損させられて始まりの町送りにされてたけれど、昨日ようやく俺と契約を結んでくれたんだよ! その時の感激といったらもう……あの、リース。俺の話聞いてる?」


「あ~、はいはいちゃんと聞いてるよ、アレンくん。裏通りに新しく出来たケーキ屋さんの新作デザートが絶品だって話だったよね?」


「それは一時間前の話題だよ! 今は俺が新たに出会った麗しい精霊のお話をしているところ!」


 城塞都市の中央部に位置する大広場。

 広場の中心に置かれたクエストボード(プレイヤーを対象にした報酬付きの依頼書が貼り出されたお仕事紹介所の出張版のような物だ)に高報酬の美味しい依頼が舞い込んでいないか、目をぎらつかせてボードの端から端まで舐めるように視線を蛇のように這わせるプレイヤー達の集団を尻目に、簡素な作りの革鎧を纏い、柔和な笑顔を浮かべる黒髪の少年・アレンと、腰元に巻いた革ベルトに飾り気のない実用性重視といった雰囲気を醸し出す無骨な片手剣をいた黒髪ロングの少女が、広場の端に置かれた木製のベンチに隣り合って座り込んでいた。


「だってアレンくん、いっつも契約した精霊やら魔物のお話が九割、残りの一割は食い倒れ中に見つけた隠れ家的な料理店とかの話ばかりじゃない」


「うっ!? そ、それはそうなんだけど、リースは他の人と違っていつも俺の話を邪険にせずに聞いてくれるから、ついつい饒舌になってしまうというか……ごめん」


「別に謝らなくてもいいよ。アレンくんの話って、色々語りたい事が多すぎて要点がまとまってない事も多いけれど、アレンくんが本当に召喚士っていうクラスを気に入ってるんだなあっていうのは嫌になるくらい伝わってくるし、そういう何かに夢中になって愚直に突っ走っていく人って好きだよ」


「リ、リース、貴女という人はやはり俺の最高の相ぼ……」


「まあ、そのご執心中なのが不人気ランキングぶっちぎりの召喚士っていうのが面白いよね」


「前言撤回。リースはやっぱり意地悪な人だ」


 ケラケラと笑う馴染みの女プレイヤーの横顔をジト目で軽く一瞥し、アレンは虚空に縦一文字に指を走らせてウィンドウを展開し、『ステータス』や『設定』と書かれたウィンドウを更に下にスクロールして、『インべントリ』と表示されたウィンドウをタッチし、ニ時間程前に裏通りの露店で購入した串焼きを選択する。

 すると、手元に茶色の紙袋が実体化し、アレンは袋の封を切って中に収まっていた串焼きを取り出して唾を飲む。

 分厚くカットされた肉は醤油ベースのタレに長時間漬け込まれて食欲をそそる香りを放っている。タレを吸ってもあまり黒々とした色には染まらずに陽の光を反射しているような照りを放っているところを見ると、タレの中にみりんのような調味料が混ぜてあったのかもしれない。

 インベントリに収納した料理や食材は温度や鮮度を保ったまま長期保存する事が可能なため、購入してからそれなりに時間が経過した今でも串に刺さった肉達は焼きたて特有のホカホカとした湯気を出しており、湯気に混じる醤油風味のほんのりとした酸味と甘みが鼻腔をくすぐり、その旨味たっぷりの芳香に思わず顔がにやけてしまう。

 木串に刺し貫かれているそれに食欲を刺激されてがぶりと歯を立てると、その身に閉じ込められていた肉の旨味がたっぷりと含まれた肉汁が滴り、慌てて手皿で受け止めようとするが、熱々の肉汁を受け止めた掌が悲鳴を上げて「あちちっ!?」と情けない声を上げてしまう。


「あははっ、いくらダンジョンから帰ってきてから何もお腹に入れてなかったからって、そんな熱い物をがっついて食べようとしたらそうなるに決まってるじゃない。ほれほれ、お姉さんにも一本めぐんでくれんかねえ~」


「ううっ、熱かった。別にそんなおばあちゃん口調でお願いされなくてもしっかりリースの分も買ってあるから、遠慮なくどうぞ」


「あれ? ちゃんと私の分まで買ってくれてたんだ。アレンくんのそういう気が利くところ私的にポイント高いよ」


「リースはこのゲームでは全然選択している人のいない不遇職の召喚士である僕の事を色眼鏡で見たりしないし、普段からぼっち状態の僕にも気さくに接してくれているのでそのお礼って事で」


「う~ん、その気持ちは嬉しいけれど、私は別に見返りが欲しくてアレンくんと一緒にいる訳じゃないから、『仲良くしてくれるお礼』っていうのだとあまり食指が動かないなあ~」


「それじゃあ、この前手持ちのお金がない時に奢って貰った食事のお礼という事ならどう?」


「うん、それならいいね。じゃあ、ご相伴にあずかろうとしましょう」


 紙袋の底に入っていた最後の一本を渡すと、リースは「アレンくんの選ぶお店のご飯には外れがないからね。楽しみ、楽しみ~」と軽く唇を舌で濡らす彼女はとても可愛らしくて、思わず頭を撫でたくなってくるが、実行した場合彼女は即座に腰元の愛剣を抜き放ち、刀身の腹でこちらの頬をペチペチとはたきながら、「いきなり女の子に何をするのかなあ~、アレンく~ん」と鬼気迫る笑顔(目が全く笑っていない)で脅される事は確定ルートだろう。だって、前にそれやったら本当にされて卒倒しそうになった。マジで。


「いただきま~す。……うわぁ、結構肉厚だったから噛み切るのに力がいると思ってたけど、サクッと簡単に噛み切れた。それに肉汁は割とあるけれど、味付けが醤油風味であっさりとしてるからあまり脂っぽい感じがなくていいね」


「これ、この前B地区の裏通りをぶらついていた時に発見したお店で試しに買ってみたんだ」


「へえ~、私あの辺りは特に用事ないからほとんど行った事ないけど、今後これ目当てに足を運んでみようかな」


 年頃の少女ならこういったガッツリ系の食事よりも、瑞々しい季節のフルーツや甘みとコクのある生クリームをこれでもかと載せたパンケーキといった瀟洒しょうしゃな感じのデザート系を勧めるべきなのろうが、サービス開始間もない頃から何度も顔を合わせていればおのずと連れの少女の味の好みぐらいは大体は把握できる。

 別段甘味が苦手だという訳ではないのだろうが、この少女は他の女性プレイヤーが毎日長蛇の列を成しているケーキ屋やデザートバイキングを取り入れているような、男性プレイヤーにとってはお一人様で並ぶには少々肝の太さを要求されるような女性を顧客層に据えた店等は基本的にスルーする事が多く、串焼きや蒸し饅頭といった歩きながらでも食べられるような手軽な食事(あと腹に溜まるような物)を好んでいるのは共に昼食や夕食を摂っている間に気が付いた。

 食事といっても、この仮想世界で食事をしたところで現実世界の自分の腹が満たされる事はないのだが、味覚や満腹感までも再現している『ブレイブ・クロニクル』においては、食事は冒険や賭博に並ぶ娯楽の一つとなっている。

 ……まあ、いくら食べても現実世界の自分の脂肪に変換されないというのは、日々食事制限やら運動やらでダイエットに勤しむ女性達にとっては垂涎ものの贅沢なんだろう。


「はむはむ、それにしてもアレンくんもよく召喚士なんてクラスを選択したものだよね。私、このゲームにはわりと昔からいる古参の一人だけど、君以外の召喚士の子に会ったことなんてほとんどないよ」


「大体の人は戦士とか魔術師とかメジャーなクラスを選択するし、装備できる武器や防具の類も圧倒的に多いしね。攻撃手段が契約した精霊や魔物に依存しまくりの召喚士という茨の道にわざわざ足を踏み入れようとするチャレンジャーなんて普通はいないよ」


「確か契約するには、魔物を倒して力を示したり、特定の条件を満たして直接交渉をしないといけないんでしょ?」


「うん。その上、召喚士専用の装備品自体上級者向けのハイレベルダンジョンでしかドロップしないから、装備する物が入手出来なくてダンジョン周回もおちおち出来ない上に、撃破や交渉で契約してくれる成功率もすごく低い激渋設定だから、誰も好き好んで召喚士を選ぶ事はないのは分かるんだよなあ」


「今アレン君が着てる革鎧だって、私がダンジョンに潜って狩った幻獣がドロップしたレア装備だもんね」


 召喚士というクラスはそういった諸々の事情からプレイヤーからは敬遠されがちで、精霊や魔物を思う存分愛でまくりたいという特殊な願望持ちの自分ぐらいしかいないというのはやはり物寂しい気持ちにはなるものだ。

 いや、自分の場合はサービス開始間もないビギナーだった頃、召喚士という不遇職であるこちらを遠巻きから嘲笑や陰口を叩く大半の連中とは異なり、たった一度だけダンジョンでポーションを切らして困っていたところを助けて以降、こうして時々一緒にダンジョンに潜ったり、町で他愛のない無駄話に花を咲かせてくれる友人が出来ただけでも幸運な方だろう。


「召喚士専用の装備品がドロップした時は売却せずに、僕に譲ってくれるのは本当にありがたいよ」


「別にいいよ、召喚士の装備品って需要ないし、ショップで売っても二束三文にしかならないだもん」


「……このゲーム、本当に召喚士に優しくない」


「まあまあ、そのうちアップデートされて改善されるって。……多分」


 どこか遠い目で渇いた笑みを浮かべるリースの表情からは一縷の希望の光も感じ取れなかったが、彼女なりにこちらを励まそうとしてくれているのは伝わってきた。

 運営側がそうした粋な計らいを実施してくれる事にそれほど期待はしていないし、ひたすらダンジョンに潜って何度HPを全損されそうになったりしながらも、契約に成功した時の達成感や幸福感は苦労した分何倍も大きい召喚士のクラスを僕は結構気に入っている。

 今後何かしらのクラス補正や救済措置等が取られればそれに越したことはないが、別段今のままでも僕は他の職業にクラスチェンジする事はないだろう。


「まあでも、契約した相手の固有スキルを最大で5つまで召喚士が使える『スキルホルダー』ってスキルは便利じゃない? この前ドロップアイテムを『鑑定』スキルで見てもらった時に想ったけど、組み合わせ次第でいろんなことができて面白そう」


「まあ、それに関しては召喚士の固有能力の中でも重宝してるけど……」


 色々と酷評されたり制限の多い召喚士というジョブだが、契約した魔物や精霊のスキルを自由に5つまで組み合わせて自分のスキルとして発動できる『スキルホルダー』スキルに関しては、使い方次第でダンジョンの最前線や様々な分野の市場で活躍する上級職や生産職に匹敵する可能性も大であるため、非常にありがたい。

 召喚士のジョブレベルをカンストしなければ習得できず、そこまで召喚魔導士としてアホみたいな量の経験値を積むまでモンスター狩りに勤しむ者もいないため、攻略サイトにもこのスキルの情報は掲載されていない。

 アレンも自分からスキルの内容を喧伝する真似もしていないため(そもそも友人がリースしかいないし、変に他のプレイヤーから注目を浴びるような言動は面倒なのでしたくない)、『スキルホルダー』の存在はいまだ秘匿されたままだ。

 様々なアイテムやフィールド上に自生する果物、山岳地帯で眠る鉱石等の情報も全て丸裸にしてしまう『鑑定』スキルのように、鑑定士職しか使えないスキルまで発動できるのだからチートにも程がある。


(まあ、別に富や名声が欲しい訳でもないし、目下のところはリースと一緒に便利で快適なゲームライフが送れれば十分満足だしなあ)


 アレンがそんな欲のない思考に沈んでいるうちに、串焼きを堪能して満足そうな笑顔を浮かべていたリースがおもむろに立ち上がった。


「おっと、もうこんな時間。私そろそろ帰るね」


「あれ、もう落ちるの? 普段ならあと一回くらいはダンジョンに潜ってるのに?」


「今日はこれからちょっと用事があってね。今日の攻略でドロップしたアイテムをショップで売却してからそのまま落ちるよ」


 リースは食べ終わった串焼きの串をベンチの傍らに置かれたゴミ箱に捨てると、「ごちそうさま、美味しかったよ。今度はこっちが何か奢るから」と言い残して、軽い足取りで去って行った。

 ロクに別れの言葉の一つも言えなかったが、ダンジョンから帰還した時や今日のように街のどこかで他愛のない話をしながら料理やお菓子を摘まんだ後には一言二言言葉を交わしてサクッと互いに帰路に着くというのが通常のパターンとして定着しているので別に気にはならない。

 他のプレイヤー達はダンジョンを出た後は街の酒場に繰り出して麦酒等をグイっと呷りながら、パーティー仲間達と今日の戦利品の分け前の分配をどうするかを相談したり、リアルでのちょっとした悩みを気の許せる友人に吐露したりするのだろう。

 だが生憎と、こちらは好き好んでなった訳ではないが孤独なソロプレイヤーだ。

 ちょっと一杯ひっかけていくかと息巻いたところで、共に雑談に興じてくれるような友人や知人も先程の少女を除けば皆無であり、フレンドリストは常に閑古鳥が鳴いている。

 

「ちょっと早いけど、落ちるか」


 今からログアウトすれば現実世界では午後5時頃。

 ベランダに干しっぱなしの洗濯物を回収したり夕飯の準備といった雑務や、昨日買ってきた参考書の問題に挑戦する等、やる事はそれなりにある。

 当初の予定では先程の連れともう一度ダンジョン探索に乗り出す算段だったが、肝心のその人が離脱してしまった以上、このままログインしていても仕方がない。

 彼女と共に数多くのダンジョンに挑んだおかげで、今や契約した精霊や魔物といった『隷属者チェイン』が収められたストレージには数多くの愛しい仲間達の名前が羅列されている。

 今度はいつものダンジョン探索ではなく、郊外にある草原に彼女を誘って『隷属者チェイン』達とピクニックというのもいいかもしれないなと考えながら宙に指を走らせ、ログアウトボタンを表示させると、いつものように「OK」を押す。

 すると、己の意識がスッとゲームの世界から潮が引いていくかのようにゆっくりと遠ざかっていく感覚が到来し、すぐさまあらゆる感覚がシャットアウトされた。







 

 まず最初に感じたのは、ゴツゴツとした硬い質感の床の感触と、何週間も掃除をしていないような埃っぽい澱んだ空気だった。


(……あれ、俺のベッドってこんなゴツゴツした寝心地だったっけ? それに掃除はついこの間したばかりなのに、どうしてこんなに埃っぽいんだ?)


 『ブレイブ・クロニクル』のプレイ時には専用のVRゴーグルを頭部に着用し、ベッドや布団等に横たわって起動パスワードを打ち込んで仮想世界にダイブする仕組みのため、普段通り自室のベッドで横になった筈だ。

 ログアウトボタンも確実に押したのも確認したので、以前潜ったダンジョンの内部に転送された可能性はないとは思うのだが。


(とりあえず、一旦起き上がって周りを確認してみるか。少なくとも俺の部屋ではないと思うけれど)


 まぶたをゆっくりと開け、体を起こそうとすると、


「ど、どうしよう、ゼルダ! 部屋の真ん中に埃を被ってポツンと置かれてた本の一節を読み上げたら、黒髪の男の子が突然床の魔法陣から飛び出してきちゃったんだけど!」


「だから不用意に周囲の物に触れないように事前に警告した筈だぞ、カレン。その本とこの床の魔法陣、恐らく今では古代魔法に分類される召喚魔法を行使するための魔道具の類だろう」


「ええっ!? でも私、召喚魔法なんて使えないし、本にも魔法陣にも魔力を流し込んだ覚えもないけれど……」


「私は魔導士ではないから魔道具に関しては素人同然なんだ。その本と召喚魔法用の魔法陣がどうしてこんな寒村の地下に存在していたのか、なぜ魔法が発動したのかは分からないよ。それよりも今は、不運にも何処いずこから召喚されてきたこの少年の保護が先決……おっ、起きたのか君。どこか体の不調や怪我はないかい?」


 声の聞こえた方へ頭の向きを変えてみると、こちらを心配そうに見下ろす二人の少女が立っていた。

 一人は林檎のような赤くつやのある髪を肩口まで伸ばし、白と真紅を基調としたチェック柄のブラウスに膝丈のフレアスカートを身に付けた目鼻立ちの整った美しい少女で、腰元のベルトには魔法使いが使う小ぶりの杖を収めるための革製の細長のロッドホルダーが左右に六つずつ吊り下げされていた。そして、頻繁に屋外で過ごしているのか、程よく日焼けした手には古ぼけた装幀の本が一冊握られている。

 もう一人は、サラサラとした金髪を腰元まで伸ばしたキリッとした顔立ちの少女で、白磁のように白く美しい肌が彼女の整った容姿に拍車を掛けていた。また、肩口から腹部までの上半身を覆う白銀の鎧と、太腿ふとももの半ばまでの長さのスカートの腰元に佩いた、柄頭にブルーの宝石を嵌め込んだ両刃の形状をした剣が特徴的な女騎士風の風体が、彼女の大人っぽく落ち着いた姿と相まってとても似合っていた。

 二人ともタイプこそ違うが、今までの人生で出会った女性の中でも群を抜いた美しさを兼ね備えた少女達を前に脳内がフリーズしかけるが、後者の少女が気を遣って差し伸ばしてくれた手を割れ物を触るかのようにそっと掴ませてもらう。


「あ、ありがとう」


「いやいや、気にしなくていい。私はゼルダ、隣にいるのがカレンだ」


「ゼルダさんとカレンさんですね」


「ふふっ、『さん』なんてかしこまった呼び方はしなくて構わないよ。見たところ歳もそう違わなそうだしね。君も突然見ず知らずの場所に飛ばされてきて混乱しているだろう。私達も正確に状況が掴めている訳ではないのだが、とりあえず落ち着いて話が出来る場所に行こうか」


 現在の状況が全く把握出来ずほとんど流されるがままに、優しくこちらの手を引っ張る彼女に先導されて部屋の出口へ向かう中、アレンは自分をここへ呼び出した魔法陣をチラリと横目で一度流し見るが、床の中央に大きく彫り込まれた複雑な模様を描くそれは静かに退出者を見送るだけだった。

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