最強召喚士と奴隷少女達の廃村経営~異世界召喚されたけどやることないので、とりあえず総人口6人の村の村長になりました~
第71話 マトラの惨劇(女神暦1567年5月7日/アリーシャ騎士団ロクレール支部・屋内練兵場)
第71話 マトラの惨劇(女神暦1567年5月7日/アリーシャ騎士団ロクレール支部・屋内練兵場)
シャーリーがドロシーへの決闘を申し込むという予想だにしなかった出来事があった数時間後、俺達は支部内の屋内練兵場へと場を移した。
雨天時においても訓練が可能なように屋内に設けられたそこは、模擬戦用の木刀や壁に吊り下げられた的に射る為の弓術の道具等、戦闘訓練に必要な物があらかた揃っており、決闘騒ぎを聞きつけた支部の騎士達が気を遣ってこうして貸し切り状態にしてくれていた。
ドロシーは浮かない表情で室内の端に置かれた木箱の一つに腰掛け、俺達は彼女の周りに半円を描くように立っていた。
唐突に突き付けられた敵意と憎悪。
自分への挑戦を突き付けてきたシャーリーの刺し貫くような視線に射貫かれていたドロシーは、当然逡巡する様子を見せたが、何かを噛み締めるように俯いてゴクッと唾を飲み込むと、「受けます」と一言だけ答えた。
しかしながら、アイリスが今日魔力回路の修復を終えたばかりで魔力操作にもまだ不慣れな状態のドロシーとの一対一の決闘はあまりにドロシーがアンフェアであると判断し、彼女の提案した決闘方式に俺が提案した一つのルールを入れ込んでもらい、決闘方法を調整することになった。
1.対戦方法は各ギルドから5名を選出して戦う集団戦。
2.今回は『クリスタル・クラッシュ』と呼ばれる決闘方法を採用。内容は敵陣地にあるクリスタルをいち早く破壊したギルドが勝利となる。敵陣地に積極的に攻め込むも、自陣地にこもって籠城戦をするも自由。
3.敵チームと遭遇した場合には戦闘を行って撃破するも、逃亡しても隠れてやり過ごしてもOK。
4.戦闘不能に陥ったり降参をすればリタイヤとなり、フィールドから退去してゲーム終了までゲームへの参加は不可。対戦者への過度な暴力や殺害等は即失格。
5.対戦者を直接死亡させるようなものを除き、どんな魔法の使用も可。
『ゴブリン・キングダム』との戦いを経験したエルザと異なり、ドロシーにはまともな戦闘経験は皆無だ。
彼女が戦えば、シャーリーになすすべもなく敗北するのは火を見るよりも明らかだ。
それを鑑みて、アイリスはギルド同士による対抗戦、通称『ギルドマッチ』を提案した。
正規ギルド同士で利害の対立が生じた際や、純粋に互いのギルドのどちらが強いのかというマウントの取り合い等、ギルド同士で揉め事が起こった際の解決方法として開催されることが多いらしく、勝った方が事前に取り決めておいた要求を行うことが出来たり、交渉を有利にすることが出来るらしい。
今回は別にどちらが勝ったとしてもペナルティがある訳ではなく、二人の決闘を可能な限り公平なものにする為、各々の陣営から助っ人として3人が参加することになった。
決闘場は「面白そうだね~」と騒ぎを聞きつけたミトスが、ロクレール支部が所有している演習場を貸し出してくれることとなり、立ち合い人としてアリーシャやラキアが勝負を見届けてくれることとなった。
アリーシャ達に軽い挨拶をして、終始申し訳なさそうにペコペコ頭を下げて恐縮し切りのアイリスと、最後まで敵意を隠すこともなくピリピリとした雰囲気を振り撒いていたシャーリー達が支部を辞してから、俺達は作戦会議を開くことにし、こうして集まる運びとなったのだ。
「皆さん、ごめんなさい。私のせいで面倒事に巻き込んでしまって」
悄然と項垂れるドロシーは、俺達に迷惑を掛けていることをかなり気にしている様子で、言葉にも覇気がなく、先程の決闘騒動を引きずっていることは一目瞭然だった。
俺はふっと笑い、彼女の目を見ながら軽く調子で彼女の肩に手を置く。
「気にしなくていいさ。ドロシーが決めたことなら俺は全力で支えるだけさ」
「アレンの言う通りだ。私もドロシーの、その、なんだ……家族なんだ。困った時に支え合うのは家族として当然のことだろう」
「はいはい! 私もドロシーの家族だからどんなことでも協力するからね!」
「私もドロシーの為なら、どんなことでも協力するよ!」
「ドロシーは大切なお姉ちゃんだから、助けるのは当然」
「ウチも新参者ではあるけども、アルトの村に暮らす仲間の為なら一肌脱ぐのは句にもならんで、いつでも頼りいな!」
「
異世界からやってきた男。
奴隷解放の英雄たる女騎士。
流浪の旅の末にとある廃墟の村に辿り着いた女魔導士。
最愛の母を亡くし、父に身売りされた獣人の少女。
謎多き、
西大陸から遠く離れた東大陸から流れ落ちた土着宗教組織の若き女首領。
翼竜を自在に操る、大人びた女竜騎士。
考えてみれば、こんなにもバラバラな出自を持った人間が遠く離れた場所から一つの場所で家族や仲間として暮らしているのは奇跡に近いことなのかもしれない。
だけど、俺達はあの村で、あの場所で、大切な時間を過ごした家族だ。
共に過ごした時間は一ヶ月にも満たないが、彼女達を守る為なら俺はどんなことだってする。
「ドロシー、俺達はいつだって君の味方だ。だから、安心してくれていいんだ」
俺の言葉と、皆が賛同するように頷きを返してくれた様子を見て少し気持ちが楽になったのか、ドロシーは胸に手を当て、肩の力の抜けた息を吐く。
「……アレンさん、ありがとうございます。皆さんのおかげで胸が暖かくなって、気持ちが落ち着いてきました」
「皆が思ってることを口にしただけだよ」
「そうそう、あのシャーリーっていう娘とドロシーとの間にどんな因縁があるのかは私は知らないけれど、話して楽になるならいつでも聞くからね」
「そやそや、辛いことはずっと心の中に溜め込んどるとな、それが当たり前になってまうねん。そんな厄介な癖が付く前に、言いたいことは言える人間に吐き出しといた方が自分だけじゃなくて、ドロシーが落ち込んで悩んどる様子を見とる人らも安心すると思いで。……偉そうに言ってもうたな、堪忍してや」
明るい笑顔でドロシーをギュッと抱き締めて頬ずりするカレンと、気恥ずかしそうに自分の髪をクシャクシャと掻く綴に挟まれて、クスリッと相好を崩して胸をなで下ろしたドロシーは、
「皆さんに、聞いて欲しい話があるんです。私の……私の一族、レザーランス家が犯した罪を」
ルスキア法国北部の沿岸部から十キロ以上離れた海上にマトラ島と呼ばれる孤島が存在した。
ただでさえ極寒の雪の大地に閉ざされた法国の更に北の位置するその島には、『マトラの民』と呼ばれる少数民族が暮らし、法国が建国される以前から生活を送っていた。
豊富な魔鉱石を擁する鉱脈を持っていた為、法国や他国から直接買い付けにくる商人達との交易により島は栄え続けていた。
しかし閉鎖的な土地柄で、交易以外では外部との交流はほとんど持たず、同じ民族以外の者との結婚も認めらず、島で生まれた者は島で死ぬのが定めとされていた。
島の中に縛られ続ける因習はあったものの、島内で争いごとが起きることもなく平穏な日々が続いていた。
しかし、とある時期からマトラ島からの魔鉱石の輸出がピタリと何の通告もなく途絶えるという出来事が起こる。
不審に思った法国の魔導士達や他国の商人達は、島長から直接話を聞こうと船を出して島に向かったが、その後一人として帰って来ることはなかった。
しかし、何故か瀕死の状態で海を漂流していたルスキア法国の宮廷魔導士が発見され、懸命の治療により一命をとりとめた。
ルスキア法国は、その魔導士の証言を元にマトラ島の現状を把握した。
『
闇ギルドの頂に君臨する12のギルドの一角。
彼らがマトラ島を占領し、島民達に魔鉱石の採掘を強制し、それを全て独占していたのだ。
多くの島民が彼らを追い出そうと武器を手に蜂起したが、赤椿色の刀を手にした濡羽色の髪の少女に刃向った者達は皆殺しにされ、島を訪れた者達も口封じの為殺害されていた(漂流していた宮廷魔導士は重傷を負いながらも一か八か海に身を投げ、奇跡的に航海中の商船に発見されたらしい)。
また、濡羽色の髪の少女と同じく『狂焔の夜会』の幹部である【
その少女が島の占領作戦の陣頭指揮を執っており、彼女が精神操作系の魔法か
闇ギルドの中でも傘下ギルドの人員も含めれば最大の規模を誇る大ギルドに支配された島。
膨大な魔力を秘めた魔鉱石は、闇の世界で蠢く彼らの胃袋に現在進行形で収まっていく。
奪還戦を行えば、数え切れぬ程の人間が死ぬことは確実で、必ず『狂焔の夜会』を島から退却させることが出来るとも限らない。
ルスキア法国は一つの決定を下した。
確実に『狂焔の夜会』を撃滅することが出来る選択を。
軍略級魔法の扱いに長けたレザーランス家の魔導士による、遠距離からのマトラ島
を消し飛ばす程の超破壊魔法による攻撃である。
法国からの要請を受けたレザーランス家はこれを即座に承諾し、国内でも最強クラスの魔導士であったレザーランス家当主である父を凌ぐ程の魔法の才を有し、大規模破壊が可能な軍略級魔法も難なく行使することが出来るレザーランス家次女のディアナ=レザーランスが出兵することとなった。
マトラ島の影が霧の中に僅かに霞む程度の距離に停泊した軍艦の甲板に降り立ったディアナは無詠唱で魔法を発動し、マトラを一瞬にして消滅させる威力を誇る軍略魔法を放った。
マトラの民ごと島を消滅させた軍略級魔法により、有数の魔鉱石の採掘場と生まれながらに高い魔力を持つマトラの民を失った大きな代償を払いながらも、国内に巣食っていた『狂焔の夜会』は排除された。
魔法が発動する数分前に、島内の一部で自然の霧とは異なった乳白色の霧が発生したと思えば一瞬の内に霧が消滅した謎の現象が甲板のマストから島内の様子を観測していた魔導士から報告されたらしいが、子細は不明なままだ。
こうして、マトラの民は全滅しマトラ島は世界地図から姿を消した。
この事件は公表されることなく、ルスキア法国の王族や宮廷魔導士団やレザーランス家の一族を除いて、知る者はいない筈だった。
マトラの民の生き残りを名乗ったシャーリー=マトラという少女に出会うまでは。
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