第29話 アリーシャからの依頼(女神暦1567年4月28日/カルトス城玉座の間)

 桜色の瞳でこちらににこやかな笑みを向けるアリーシャを前に、俺とエルザは慌てて居住まいを正す。

 彼女と旧知の仲であるゼルダは当然のことながら自然体で、セレスも動じることもなく涼やかな表情を浮かべていた。

 『ブレイブ・クロニクル』で大規模なクエスト受注の際に何度も王城に出入りしていた俺は多少の抗体はあるが、一国の王と同じ空間に立った機会など皆無なエルザは緊張でカチコチに固まっていて、ロボットのようなカクカクとした動きでぎこちなく頭を下げた。

 するとその拍子に手に抱えていた花束を落としてしまい、「あっ!」という悲壮な声を上げてエルザはそれを大慌てで拾い上げる。


「ああっ、お姫様にあげるつもりだったのに……」


「大丈夫だぞ、エルザ。別にどこも汚れていないし、茎も折れてないだろ」


「ううっ、でも……」


「あら、その綺麗な花束はもしかして私宛ての贈り物だったのでしょうか?」


 悠然と玉座に腰を下ろしていたアリーシャは、どこかワクワクとした面持ちでこちらへ弾んだ足取りで歩み出し、悄然と肩を落とすエルザの前に立つ。

 そして少しだけ背を曲げ、自分の目線をエルザの目線と合わせると、フルートの音色のような澄んだ声で話しかける。


「こんにちは、可愛らしいお耳のお嬢さん。私はアリーシャ、貴女は……エルザさんですね?」


「う、うん。お姫様はどうして私の名前を知っているの?」


「マルガからの報告書で貴女達のことはよく知っています。……とても辛い経験をされましたね」


「……うん。だけどアレン様やゼルダ様、村の皆やカザンの人達がとても優しくしてくれているんだ」


「そうですか。アルトの村での生活は楽しいですか?」


「うん、とっても楽しいよ! フルーツを育てたり、皆と一緒にご飯を食べたり、国にいた頃にはできなかったことが沢山できるの! このお花もお姫様にプレゼントしたくて、ドロシーやシャーロットと一緒に頑張って育てたんだ!」


「まあ、それは素敵ですね。その薔薇も鮮やかな色をしていて、貴女や貴女のお友達が精魂込めて丁寧に育ててきたことがよく分かります」


「お姫様、これさっき落としちゃったから少し汚れちゃったかもしれないけれど、受け取ってくれる?」


「ええ、勿論」


 最初は慣れない状況に頬を強張らせていたエルザも、春の日差しのような暖かい笑みをたたえるアリーシャへの温和な態度で緊張が解れたのか、本来の人懐っこさが戻り始めたようで、愛嬌のある笑顔で花束をアリーシャに差し出した。

 エルザのフワフワとした獅子耳も嬉しげに揺れていて、彼女の喜びの大きさが容易に見てわかる。

 その嬉々とした姿に自然と頬が緩む。

 ゼルダやセレスも俺と同様に愛おしげな目線をエルザに送り、冷静沈着で理知的な風格を纏ったラキアも柔和な笑みで二人の姿を後ろから眺めていた。

 そんな彼女達に見守られながら、アリーシャはエルザから手渡された花束を愛おしそうに抱き、大輪の花の甘く濃厚な香りにうっとりと目を細める。


「とても心が落ち着く香りですね。これは花瓶に生けて、私の寝室に飾らせて頂きますね」


「はい! よろしくお願いします!」


 朗らかに笑うエルザに微笑み返したアリーシャは、受け取った花束を大切に胸に抱きながら、今度は俺の方に向き直った。


「貴方がアレンさんですね?」


「はい。アルトの村でゼルダ達と一緒に暮らしています」


「ゼルダがとてもお世話になったそうで、彼女の友人として改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました。私の大切な親友に寄り添い、共に戦場に立ってくれて」


 そう言って深々と頭を下げたアリーシャの真摯さに溢れた姿に、思わず息を飲む。

 今眼前で深々と頭を下げているのは、この騎士領を治める領主だ。

 だが、今の彼女は自分の友を支えてくれている人間への謝意を飾ることなく誠心誠意表す一人の少女だ。

 なので、俺も彼女にならって同様に頭を下げる。


「俺こそ、彼女に出会えたことにとても感謝しています。貴女が彼女を生まれ故郷に帰郷することを許してくれなかったら、俺はゼルダという女性に出会うことはありませんでした。優しく凛々しい彼女に出会う機会を与えてくれて、本当にありがとうございました」


 そう言い切った俺は、何故か頬を紅潮させて俯いているゼルダを視線の端に捉えつつ、アリーシャが頭を上げたタイミングに合わせて顔を上げる。

 その視線の先には興味深そうな好奇心をにじませ、何か納得したようなしたり顔で口元を微かに開き、小さな声で何か呟いた


『……成程、ゼルダが心惹かれているのも頷ける心優しい殿方ですね。この方なら安心して彼女をお任せできそうです』


「ん? 何かおっしゃいましたか?」


「いえいえ、ただの独り言です。お気になさらないでください」


「? 分かりました」


「アレンさんやエルザさんもアルトからの長時間の移動でお疲れでしょう。我が城のコック達が腕によりをかけて調理してくれた晩餐がご用意してあります。そこでお話したいこともありますので、まずはお食事を用意させて頂いた部屋に移って頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい、僭越ながらご相伴にあずからせてもらいます」


「ご飯! お城のご馳走なんて初めてだから楽しみだなあ~!」


「宮廷料理ですか……。古今東西の料理は一通りは作れますか、学ばせて頂くことも多いかもしれませんね」


「城の料理か……。そういえば、最後に口にしたのは半年も前になるのか」


「皆様、晩餐会の会場へは私がご案内致します」


 俺達は、折り目正しいキビキビとした歩調で先導してくれるラキアに連れられて玉座の間を後にした。

 目的の部屋に到着するまでの数分間、俺とエルザの背後を歩いていたゼルダとアリーシャは久々の再会に破顔しながら、旧交を温め合っていた。

 アリーシャが時折こちらに視線を向けて何かをゼルダの耳元で呟くと、「なっ! 違う! 私と彼はそういった関係では……」とクールな彼女らしくない狼狽し切った声で何かを弁明していたのが少し気に掛かったが、親友同士の秘密の会話に割って入るのも無粋かと思い、口を挟むことはしなかった。







「ふぅ、食った食った」

「とっても美味しかったよ、お姫様!」

「料理長は相変わらずの腕前だな。以前に食した時よりも更に味に深みが出ていた」

「中々の仕上がりでしたね。予想以上のレベルでございました。……あとでレシピを教えて頂くことは可能でしょうか?」


 バジルソースの掛かったロブスターのソテー、ミディアムレアに焼かれた高級牛のステーキ、口当たりの爽やかなラズベリーのムース、パチパチと気泡が弾ける炭酸入りの果実酒等、どれも趣向を凝らした一品ばかりで、純白のテーブルクロスの上に置かれた皿の上は全てペロリと平らげられていた。

 横長のテーブルの対面に座るアリーシャは口元を軽く備え付けの布で軽く拭い、隣席で共に食事を摂っていたラキアが細長のワイングラスに注いだ白ワインの風味を楽しむようにゆったりとした所作でそれを口に運ぶ。


「お口にあったようで、何よりです」


「凄く美味しかったです」


「料理長に伝えておきます。きっと大喜びされると思います」


 上品にグラスを傾けながら屈託のない笑みを浮かべるアリーシャは、こうしてみるとしつけの行き届いた良家のお嬢様といった印象だが、俺と同い年で国の舵取りを行う立場にいるのだと思うと掛け値なしに驚嘆する。

 物腰も柔らかで人当たりの良い振る舞いはきっと素のものだろうし、食事中の会話も適度に相槌を打ちながら親身に耳を傾けてくれていた(年齢も同じなのだから、畏まった口調は不要だとも言ってくれた)。

 ……まあ、俺が異世界から召喚されたというくだりには、ラキアと一緒に大きく目を見開いていたが、それは致し方ないことだろう。

 むしろ、俺の発言を一切疑うこともなく、気遣わしげに何度も励ましの声を掛けてくれたのに非常に胸を打たれた。

 ゼルダが自然と背中を預け、彼女を懸命に支え続けてきた理由のほんの一端が少し理解できたような気持ちになった。

 人を替えの利く道具程度にしか認識していなかったという前王よりも、この少女が国の道標となった方が良いと考えた人々が多かったのも当然だと思った。

 食後のワインを飲み終えて人心地ついた様子のアリーシャは、ご馳走を堪能して上機嫌なエルザに軽く笑みを零した後、食事中も崩さなかった背筋の伸びた姿勢をより丁寧に整えて居住まいを正すと、泰然とした面持ちで口火を切った。


「さて、それではここからは話題を替えさせて頂きます。まず、『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』壊滅への多大なる貢献を果たして頂いた、アルト村村長アレン様と『四葉の御旗フォルトゥーナ』ギルドマスター・ゼルダ様に騎士領からの恩賞として、八千万ユリスの褒賞金を下賜致します」


 そのとんでもない額に俺は目を剥く。


「は、八千万ユリスだと!? アリーシャ、私達は褒賞金目的で連中を倒した訳ではないのだぞ!」


「俺もそんな大金を受け取るのは心苦しんだけど、本当にいいのか?」


「本来であれば、奴隷売買の駆逐を目指し国を作り変えた我々が対応せねばならない案件を、貴方達に代行して頂いたことに対する謝礼としてそれ相応の額を提示するのは当然です。戦乱の傷痕が残り荒廃している国内の復興に忙殺され、国庫の余裕がない現状では、この額で妥協して頂くことになりますが、遠慮なくお収めください」


 褒賞金は後日賞状と共に使者がアルトの村に届けてくれることになり、俺とゼルダは恐縮しきりで何度も「ありがとうございます」と頭を下げ続けることになった。

 このお金は村の復興費として大切に使わせて頂こう。

 俺はそう胸に固く誓った。


「褒賞金等の件は以上になります。貴方達を首都にご招待した段階では、この後は城で一泊して頂き、翌日にアルトへとお送りさせて頂く予定になっていたのですが……その時とは状況が激変してしまい、火急の重要案件が生じてしまいました」


「何か大きな問題でも発生したのですか?」


「ええ、セレスさん。皆さんは、『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』のガイオンという男を覚えていらっしゃいますか?」


 俺とゼルダはその名を聞いて口元を歪め、先程まで極上の料理の味の余韻に浸っていたエルザがビクッと体を震わせる。

 俺が何か気遣う言葉を投げかけようと口を開きかけるが、エルザの隣に座っていたセレスが彼女の手を優しく包み込み、憂いを帯びていたエルザの表情が幾分か晴れやかになったのを見て、アリーシャに視線を戻す。


「はい、勿論覚えています」


「私も同様だ」


「そのガイオンの聴取を担当しているカザン支部からの臨時報告で看過できない情報があり、これから皆さんに、冒険者ギルド『四葉の御旗フォルトゥーナ』に依頼する内容にも関わって来る情報です」


 俺達のギルドへ一国の王が依頼!?

 想像だにしていなかった衝撃的な発言に俺とゼルダは面食らってしまう。

 しかし、その反応も想定済みだったのか、アリーシャの傍らに控えていたラキアが挙手した。


「私が順を追って説明させて頂きます。皆様は、『十二冥神ラグナレク』という単語はご存知でしょうか?」


 順繰りに俺達に視線を向けるラキアに、俺やエルザ、セレスは静かに首を左右に振るが、ゼルダは顎元にそっと指を添え、


「世界中に数多く存在している闇ギルド。その中でも、それぞれが一国家と対等以上に渡り合うだけの強大な戦力を保有している十二の大ギルドの総称……だったか?」


「その通りです、ゼルダ。貴方達が壊滅させた『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』はその十二冥神ラグナスティアの一角を担うギルド、『狂焔の夜会ラグナスティア』の傘下ギルドでした」


「それでは、その『狂焔の夜会ラグナスティア』が報復してくる危険性があるのではないでしょうか?」


 エルザに寄り添い続けるセレスが発言した。


「その心配は皆無と考えて頂いて結構です。『狂焔の夜会ラグナスティア』は十二冥神ラグナスティアの中でも最大規模の勢力を誇る巨大ギルドではありますが、傘下ギルドに対する愛着はそれほど持ち合わせていないギルドですので、仇討ちなどは一切考えていないでしょう。我々が危惧している問題は別にあります」


「その別の問題っていうのは一体何なんだ?」


「ガイオンの供述した情報によると、半月程前に彼はギルドマスターのジルベスターに同行して、『狂焔の夜会ラグナスティア』の軍門に下っている傘下ギルドの定例会に出席したそうなのですが、その中でとある闇ギルドから大勢の女性の子供を格安の値段で譲れと迫られたそうなのです」


 ラキアは自身の隣の椅子の上に置いていた数枚の書類をめくり、


「そのギルドの名は『ゴブリン・キングダム』。二千人以上のゴブリンで構成された大規模ギルドで、ジルベスターに要求していた少女達の利用目的は……彼らの子孫を宿すための母体集めです」


 それを聞いただけで、俺は苦虫を嚙み潰したような顔で眉を寄せる。

 要するにその連中は、子孫繁栄の為の生殖行為の相手探しをしていたのだ。

 『ブレイブ・クロニクル』にもゴブリンは登場していた。

 筋肉の鎧を纏った巨躯を持つオークと彼らが共通していたのが、異種族との交配が可能だという点だった。

 ゲーム上ではただの種族として設定の一部で、その性質がゲーム内容に絡んでくることは一切なかったが、この世界のゴブリンというのはその性質を色濃く宿した種族なのかもしれない。

 相手を強姦し、己の欲望を吐き出すための器を安値で買い叩く。

 口内に残った僅かな料理の余韻も霧散し、後味の悪い苦みが広がる。

 ゼルダも不機嫌そうに顔をしかめていて、エルザはもし自分がそんな奴らの所に売り飛ばされていたらと想像したのか顔を青ざめていて、気を利かせたアリーシャが水差しに手を伸ばし、それを受け取ったセレスがグラスに冷水を注ぎ、そっとエルザに手渡す。


「大丈夫ですか?」


「う、うん。お水ありがとう」


 差し出された水をコクコクと喉奥に流し込み、ホッと吐息を漏らすエルザの様子に重苦しく暗鬱となった空気がほんの少しだけ弛緩し、ラキアは話を再開する。


「ジルベスターは提示された額を一笑に付し、その場で断ったらしいのですが、彼らが憤慨しながら立ち去る際に気になることを仲間内で話しているのを、ガイオンは偶然小耳に挟んだそうです」


 ラキアはそこで食事室の北側の壁のガラス窓に双眸そうぼうを向け、


「『翼竜ワイバーン狂いのイカれた伯爵の土地に粋の良い女共がいるらしいぞ』『あの奴隷商人が首を縦に振らなかった以上、近々そこで狩りをするか』、と」


翼竜ワイバーン狂いの伯爵……マルトリア神王国のグレゴール伯爵かっ!? ゴブリン達は伯爵領で女性達を大勢捕える腹積もりなのか!?」


 棘のある語調で気色ばむゼルダの激昂ぶりを前に、俺はかつて彼女がマーカスの馬車の荷台で話してくれた内容を胸中で反芻する。




『幸いなことに、国境を接しているマルトリア神王国の伯爵領を治めるグレゴール伯爵は土地や労働力の奪い合いには全く関心を持っていないからありがたい』




 そうだ、マルトリア神王国はこの騎士団領の北部と国境を接している北の隣国だ。

 そして騎士領の北部と接する神王国南部の領土を治めているのが、ゴブリン達が襲撃するらしい伯爵領の主、グレゴール伯爵という人物だった筈だ。

 ガイオンが虚言をろうして偽の情報を流した可能性もあるが、そんなことをしても彼の罪状は微々とも軽くなることはない。

 彼には何のメリットもない話だ。

 ならば、すぐにでもグレゴール伯爵に事の子細を伝達しなければ、『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』の時のように無辜むこの民が傷つく結果になるだろう。

 俺はその旨をアリーシャに告げるが、彼女は苦悶の表情を浮かべ、「それはできません」と力なく断言した。


「伯爵領に行けない理由があるのか?」


「その通りです。我々騎士団領は『世界樹連合』を除名処分されており、現在は他国との国交は一切開かれていないのです。マルトリア神王国にこの情報を告げようにも、騎士団領政府の人間が不用意に彼の国の土を踏めば、新たな戦乱の火種を生み出すことになりかねません。私はこの国を預かる者として、そのような真似はできないのです」


「……その『世界樹連合』というのはどういった組織なんだ?」


「中央大陸の中心に存在する『聖域』と呼ばれる絶対不可侵領域に存在する世界樹の名を冠した国際組織です。世界各地の諸国同士が国交を結び、世界全体で協力し合いながらより良い世界を実現するために設立され、連合に加盟していない国家は連合所属国家との国交を結ぶのは非常に困難なのです」


「ペルテ国王は、目に余る程の暴政を正そうとした連合のとある重鎮が派遣した使節団を皆殺しにしました。それを機にペルテ国は連合を除名され、世界から孤立する運びとなったのです」


「アリーシャは騎士団領建国後に連合復帰の嘆願書を送ったそうだが、前王の直系であるという理由だけで一蹴されたそうだ。騎士領の政治に関わる人間が他国と交流を持とうとするのは、今の段階では夢物語だな」


 口惜しそうに唇を噛むアリーシャの説明に続いたラキアとゼルダの解説で、騎士領がマルトリア神王国との対談の席を設ける段階にも立てない事情は理解できた。

 ようやく国の再興の立て直しに集中できる時期に、他国と戦争状態に突入すれば、今の疲弊した国力の騎士領は壊滅的な被害を被るだろう。

 一国の主として、他国の民とはいえ罪のない人々に近く待ち受ける厄災を見過ごすしか手立てがない現状もよく分かった。

 そして、彼女が何故マルガや他の支部長といった幹部騎士達を招聘しょうへいせず、冒険者ギルドの人間である俺達に話を持ってきたのかも何となく察しが付いてきた。


「騎士領の人間が容易に伯爵領に干渉できないのはよく分かった。だけど、連合の除名云々に直接雁字搦めにされて身動きが取れなくなるのは騎士団領政府に連なる人間に限った話だろう。つまり、民間組織である冒険者ギルドの人間が仕事で他国に足を運ぶのは、別段規制されていない」


「察しが良くて助かります。民間人が世界樹連合未加盟国から加盟国へ渡ることは問題はありません。逆も然りです。幸いと言ってしまうのは不謹慎なことだと重々承知していますが、『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』の誘拐した奴隷達の中にはグレゴール伯爵領で暮らしていた子供もいました。そこで、貴方達『四葉の御旗フォルトゥーナ』に頼みがあります」


 アリーシャとラキアは「無理は承知です」と申し訳なさそうに頭を下げてから、依頼内容を告げた。




「アリーシャ騎士団領領主・アリーシャ=レイクフォードからの依頼です。奴隷の子供達の護送という名目でマルトリア神王国・グレゴール伯爵領に赴き、子供の引き渡しと『ゴブリン・キングダム』襲撃の報を伯爵に伝えてください。無益な血を流させないという人道的な理由が主ではありますが、これは世界に取り残された騎士団領が他国との関わりを持つための僅かな希望の光なのです。他国に恩を売りたいだけだろうと罵しられても仕方がないかもしれませんが、私はもう罪のない人達が死ぬことには耐えられません。どうか、引き受けて頂けないでしょうか?」

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