第66話 水着のお披露目(女神暦1567年5月7日/アリーシャ騎士団ロクレール支部・屋内温水プール)

 アリーシャ騎士団ロクレール支部長であるミトスとの気の抜けそうな邂逅を終え、簡単な挨拶としばらくこの支部で厄介になることへの感謝を述べると、ミトスからこの支部に併設されている屋内温水プールはオススメだよ、とのほほんとした様子で勧められた俺達は軽い食事と休憩を挟み、案内役の兵士に連れられて、支部の奥に位置する正方形型の建物へと案内された。

 男子・女子に別れて(まあ、男子は俺一人なんだが)それぞれの更衣室に入り、俺は女性陣よりも一足先に屋内プールへと足を踏み入れていた。

 そこには女性陣の姿はなく、天井全体に嵌められたガラス窓から眩い陽光が降り注ぐプールと、プールの水の温度を適温に保っているプールの四隅に設置された赤色の鉱物(恐らくあれが火の魔鉱石とやらだろう)が煌々と紅色の明かりを灯していた。

 室内の四方には観賞用の植物や花々が見事に咲き誇った花壇が設えられており、初めて室内に足を踏み入れた時には森の中に湧いている湖があると一瞬目を見張ってしまった。

 男の着替えなんて女子に比べれば、そう時間がかかるものでもない。

 女性陣がこのプールに到着するまでもう少し時間が掛かるだろう。

 そんな風に考えながら、室内の端に設けられた石作りのベンチに腰掛けて女性陣の到着を待っていると、若草色のビキニと腰に巻いたパレオが見目麗しい綴がプールに姿を現す。


「おっ、アレン。もう着いとったんや」


「ああ、男の着替えなんてそんなに時間もかからないしな」


「ウチは速攻でバッと脱いでサッと着てここに来たけど、先を越されたなあ。他の女の子らはタオルとかで体を隠しながら脱いだり来たりしとるからもうちょい時間掛かるかも。別に女同士なんやで隠さんでもええと思うんやけどなあ」


 どうやら綴は周囲の視線などには全く頓着せずに服を脱ぐタイプらしい。

 本人は無意識だろうが、普段は和装なのであまり意識したことのなかった着痩せする胸が腕を組んでいることで強調されていて目のやり場に困る。

 常日頃からゼルダ達と鍛錬に勤しんでいる成果なのか腰にも無駄なお肉もなくキュッとしたくびれが魅力的で、パレオから伸びるすらりとした脚線美も見事だ。


「あっ、アレン様だ!」


「パパ、着替えてきた」


「綴ってば、全く隠す気配もなくポンポン服を脱いじゃうんだもん。来るのが早すぎだよ」


「夢にまで見たバカンス……!! リストラされて傷心気味の心を癒すにはうってつけですね!」


 自分自身の真紅の髪と似た色合いのセパレートの水着に身を包んだエルザ、花柄のワンピースタイプの水着を着た天使(シャーロット)、ピンク色のビキニが眩しいカレン、菫色のビキニが大人っぽいエリーゼの四人も姿を現す。

 エルザは溌剌とした笑顔とほっそりと引き締まった肢体や意外と自己主張の強い胸元がどこか色香を感じさせる水着姿。

 我が愛しい愛娘(※違います)のシャーロットは、起伏に乏しい体形ではあるが子供らしく愛らしい彼女の可愛さが清楚系の水着で強調されていてナイスだ。

 大きな胸を覆うピンクのビキニと、まっすぐに伸びた背筋がまるでモデルのような印象を与えるカレンも可愛らしくて良い。

 この中では最年長の女性竜騎士のエリーゼは大人っぽい菫色のビキニが大人っぽい色気があって、とても魅力的に見える。

 総合的に言えばここは天国だった。

 いつも身近にいる少女達が水着姿でこちらに笑顔で歩いてくるのだ。

 眼福なのは勿論、何か非日常感があって非常にたまらない。

 あれ、俺って今変態になってませんかね……?


「なんや、えらい時間掛かったな」


「それは綴がタオルで何も隠さずに、すぐにスッポンポンになって着替えてたからでしょ」


「別に女しかおらんのやし、隠す必要もないと思うんやけどなあ~」


「綴さんやカレン様は、胸が大きくて羨ましいなあ……。私のももっと大きくなればアレン様喜んでくれるかな?」


「ぶっ!? ゴホゴホッ!」


 突然爆弾を投下してきたエルザの発言に思わずむせ込む。

 いきなり何を言い出すんだエルザは!?


「アレンさん、貴方……」


「ちょっ、エリーゼさん! その『見損ないましたよ』って風な冷めた目はやめてくださいよ! 俺は断じてエルザに手を出してなんかないですから!」


「そ、そうだよ! 私、アレン様が大好きだから少しでも喜んでくれることをしてあげたくて、もっと女らしくなったらもしかしたらアレン様に振り返ってもら……な、なんでもない!」


 エルザは途中で口が滑ったとばかりに慌てて口元を両手で覆い、耳まで真っ赤に染まった顔を伏せてしゃがみこんでしまう。

 何、この可愛すぎる生き物は。すげー、抱き締めたいんだけど。

 まあ、自重しますけどね!

 言葉の続きが凄く気になるところではあるけども。


「あああああっ、私今何を言おうとしてたの!? 何でこんなに心臓がバクバクいってるんだろう? 顔も熱すぎて顔上げられないよおぉぉ……。も、もしかして、私アレン様のこと? ……ああああああっ、もうアレン様の顔がまともに見れないよおぉぉぉぉぉっ……」


 両頬に手を当て、ボンっと茹で上がった顔をフルフルと振るっているエルザの姿に、


「ああ、やっぱりあの娘ってアレンさんのこと……」


「エルザがアルトの村に来ることになった経緯は聞いとったけど、そりゃ奴隷やった自分を有り金全部はたいて買ってくれて、一つ屋根の下で暮らしながらいつも優しく側で守ってくれる少し年上の男の子と一緒におったら、そりゃ惚れるやろな。本人は完全無自覚で、さっきの自爆未遂で気付いたみたいやけど」


「エルザ、この前ドロシーにパパのぬいぐるみをこっそり作ってもらって、それを抱いて寝てるよ。寝言で、「うう~ん、アレン様大好き~」ってぬいぐるみに頬ずりしながら言ってた」


「うわ~、エルザもアレンのことが……。私としてはエルザの恋路も応援したいんだけど、どうしようかなあ。……まあ、いざとなったら皆でアレンのお嫁さんになるのもアリかも? アリーシャ騎士団領って重婚OKみたいだし、ハーレムも選択肢の一つとしてはあるのかも」


 顔から湯気を立ち昇らせそうな程上気して紅潮した顔でしゃがむエルザから少し離れた場所で女性陣が何やら集まって内緒話をし始める。

 会話の内容までは聞こえてこないが、チラチラと俺とエルザに意味ありげな視線を送って来るのだが、一体何を話しているんだろう。

 会話の中身には非常に興味があるが、女同士の会話に割って入る勇気があれば、こちとら長年ぼっち人生を送ってこなかった(『ブレイブ・クロニクル』でリースとパートナーを組むまではずっとぼっちでしたよ、こん畜生!)

 ここは下手に藪をつついて蛇を出すこともなかろうと、話題の転換を図るのが得策か。

 そう結論した俺は、プールの通用口に視線を向け、


「そういえば、ゼルダとドロシーはどうしたんだ? 中々来ないけど……」


 何気なくそう発したその言葉に、カレン達はピクッと肩を揺らし、


「そ、そういえば、まだ来てなかったよねあの最終兵器が」


「ドロシーさん、あの破壊力抜群の兵器を目にして自分の胸元をペタペタと触った後に、絶望し切った表情で『……ちょっと海の風に当たってきます』と言って亡霊のような足取りで更衣室を出ていかれてしまったんですけど……」


「ママのとっても大きかった」


「エルザも年の割には結構ある方やと思うけど、本人が胸のこと気にしとるこのタイミングであのメロンを見たら心ポッキリ折れるんちゃうか!」

 

 女性陣が円陣を組んで何やら深刻そうな話を始め、俺が困惑していると、


「す、すまない。遅れてしまった。用意してもらっていた水着なんだが胸がどうしてもきつくて、新しい物を用意してもらっていたんだ」


 通用口からペタペタと渇いた足音と聞き慣れた蜂蜜色の髪の少女騎士の声が聞こえ、俺達は自然とそちらに視線が吸い寄せられたのだが……。

 結論から言おう。

 女神がいた。

 まごうことなき女神様がいた。


「うわあ、これは予想以上の破壊力だ」

「これは同性であっても羨望の目線で見てしまいますね」

「ママ、とっても綺麗」

「あちゃ~、あれが相手じゃライバル候補に名乗り出るのも二の足踏むわ」

「ゼ、ゼルダ様……ううっ、あんなの絶対に勝ち目なんてないよおぉぉ」


「な、なんだ。そんなにマジマジと見詰められると照れるではないか……」

 

 五者五葉の反応にタジタジな様子のゼルダだが、俺は無理もないと思う。

 だって、めっちゃ可愛いんだもん! この女の子!

 ゼルダが身に付けているのは、純白のビキニだ。

 『従僕せし餓狼ヴァイ・スレール』の奴隷オークション会場に潜入した際のドレス姿からも、彼女が普段身に纏っている騎士鎧のせいで分かり辛いが巨乳の持ち主であることは分かっていたが、鎧を脱ぎ捨て水着だけの姿になったことでそれが大胆にオープンになっている。

 かつてのニーナや綴が先程メロンと例えたのも頷ける深々と開いた胸元から覗く特大の谷間には、視線を向けてはならないと分かっていても自然と視線を吸い寄せられる魅了の魔法があり、どうしても目が離せない。

 髪留めでポニーテールにまとめたレモン色の艶のある金細工のような美しい髪。無駄な贅肉等一切存在しない細く引き締まりながらも出る所はバッチリと出ている芸術品のような体。

 すらっと伸びた脚線美も、滑らかに伸びたシミ一つない真珠のように美しい肌も、マジマジと周囲の視線に晒されて戸惑いながら頬を桜色に染めてモジモジと自分の身を腕で抱く姿(そのせいでとんでもない破壊力を持つ双丘がより強調されて無自覚に爆発的な威力を底上げしている)も、その全てがゼルダ=フローレンスという少女騎士の浮世離れした天使の如き美しさを構成していた。

 可愛い。

 とてつもなく可愛い。

 抱きしめたいぐらい、ほんっとうに可愛くて仕方がない。

 騎士として皆を守ろうと必死に頑張っていて、皆のお姉さんみたいなしっかり者。

 だけど、今のように騎士の姿ではなく年相応の少女らしく女の子らしい表情を見せてくれる彼女が愛おしくてたまらない。

 ああ、駄目だ。

 変なスイッチが入っちまったかもしれん。

 自然と体が動いてしまう。


「お、おい、アレン。皆は一体どうしたんだ? 私の水着に何かおかしい所でもあるのだろうか?」


 首元を曲げて自分の水着姿を慌てて確認しているゼルダの手を俺は自然と握り、


「ゼ、ゼルダ」


「ど、どうしたんだ? そんな改まったような顔をして」


「言いたいことがあります」


「な、何だ? やっぱり私に水着姿に何かしたの問題があるのか?」


「違う。ゼルダの水着姿に問題があるとすれば、可愛すぎることだけだ」


 ボンッ!!(ゼルダが耳まで顔を一気に真っ赤にした音)


「ななななななな、何を言い出すんだ!? 私のような堅物な女が可愛い訳ないだろう!」


「いや、ゼルダはすげー可愛い。普段のゼルダの笑顔とか照れた表情も可愛いけど、今のゼルダもすげー可愛い」


「そ、そんなに可愛い可愛いと連呼しないでくれ! 頬が緩んで仕方な……いや、何でもないぞ!」


「だって、可愛いんだから仕方ないだろ」


「だ、だからそんなに可愛いって言わないで……。……嬉しくて死んでしまう(蚊の鳴くような小声)」


「ゼルダ!」


「は、はい!」


「俺と結婚してください!」


「はい、よろこんで」




「「「「「…‥‥えっ?」」」」」






 その後、ゼルダのあまりの可愛さに衝動的にプロポーズしてしまった俺と、なぜか一切躊躇する様子もなく即答で俺のプロポーズをOKしてくれたゼルダは、互いに真っ赤な顔で、他の少女達に「「い、今のは聞かなかったことにしてください」」とプルプルと体を羞恥で震わせながら懇願しました。

 プールから出るまで二人共いじられまくりで、プールで遊んだ記憶がゴッソリと抜け落ちてしまった。

 だけど、それでも。

 プールに浸かっている間中、頬を真っ赤に染めながら幸せそうな笑みを浮かべて、「アレンと結婚かあ……。……良いなあ、それ」と幸福を噛み締めるように小声で漏らしていた彼女の言葉だけはどうしても胸に焼き付いて離れなかった。

 

 

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