第6話 学園

「ハァハァ・・・ハァハァ・・・」


「ここが職員室だよ」

「―――遠っ!!」

転送して来て、初めて出会った。 異世界の学園の生徒、アラトモ

そんな優しいアラトモに職員室へと案内されるがまま後ろをついて歩いていたのだが・・・


―――広過ぎる!!

校舎を何㎞歩かされたか!?

脇腹を押さえながらもアラトモへ視線を移すが・・・

アラトモは、ここの生徒だからか息一つ切らしていない


「職員室の行き方は、覚えられた?」

「いや、無理無理無理無理・・・職員室へ辿り着くまでに、何度階段を上り下りしたか!?」

この学園の内部は、外観のお城とは、裏腹にダンジョンへ迷い込んだのかと錯覚してしまうほど・・・入り組んだ構造をしている。


「すぐに覚えられるよ!職員室は、一階だから!」

「一階!?な、なんで!?何度も階段を上り下りしたのに・・・」

今までの上下運動は、なんだったんだ!

「そうしないと行けないんだよ」

精神と時の部屋か!!

遠回りルートの!


「馴れれば、すぐに覚えられるよ」

まー 職員室なんて、普通に学園生活してたら何度も入る場所では、ないから・・・別にいいか

「それじゃあ、ボクは、教室に戻るよ」

「アラトモ、ありがとうな!・・・それと・・・なんか・・・色々とごめんな」

さっきのお詫びとお礼をする

「いいよいいよ・・・別に気にしてないし ―――あっ そうだ!?」

教室へ戻ろうとしたが何かを思い出し、振り返る

「言い忘れてたけど・・・この学園には、脱ぎ癖の激しい先生がいるから・・・もしかしたら転送生の引野くんには、刺激が強いかも・・・一応、伝えとくね!」

そのまま手を振りながら教室へと戻って行く



・・・脱ぎ癖

・・・は、激しい・・・先生かぁ~



「フゥーーー!!」

深く深呼吸をして呼吸を整え、緩みきった頬を戻し 職員室の前へ立ち、全神経を集中させる

さぁ~ お膳立ては、出来た!前フリは、完璧だぞ!

ここで戸を開けた時に、その脱ぎ癖の激しい先生が着替え中なら・・・


俺の異能力は!!

このラッキースケベは、本物だということだ!

・・・・・・信じてるぞ!異能力ラッキースケベ!!


「失礼しま―――っ!?」

職員室をノックもなしに勢い良く開けるが・・・

そこには、妄想していた。ボンッキュッボン の脱ぎ癖の激しい先生の姿や着替え中の先生の姿形すがたかたちは、なかった


・・・・・・そう姿すがたは!!


だが、さっきまでここにいたという形跡が確かにある

靴下にタイツ、上着にシャツ、そしてブラジャーまでもが脱ぎ捨てられている


「・・・まだ・・・温かい」

散乱した衣類へと手を当てるとどれもコレもまだ温かい!脱いでまだそれほど時間は、経っていないようだ



―――びくっ!!



突如、職員室の奥にある部屋から何かを床に落としたような物音がした

「・・・・・・給湯室」

よく見てみると散らばった衣類が点々と給湯室へと向かっている。


・・・・・・いる!!

給湯室に!は、半裸・・・半裸の異世界系女教師が!?


「・・・お、おちつけ・・・落ち着け」

期待で高鳴る胸の鼓動と鼻息を落ち着かせ、姿勢と鼻の下を伸ばし、恐る恐る給湯室を覗き込む


「あら、ずいぶん、遅かったじゃな~い」

「オカマじゃねーーーか!!」

半裸の異世界系男教師だった!!


「オカマじゃないわ!マカオよ!マ・カ・オ」

そこには、俺を異世界へ転送させたオカマ!

オカマことマカオがパンツ一丁のまま仁王立ちで待ち構えていた。

「こんな所で何やってんだよ」

やはり、想像通りの細マッチョである!

「何って ここは、給湯室よ!日課のコーヒーを飲んでたのよ」

「あ~ そういうこ―――いや、なんで裸なんだよ!」

「日課だからよ」

「そんなもん日課にするな!」

想像通りの細マッチョな体型である

「わかったわ・・・・・・コーヒーを飲むのは、諦めるわ」

「裸になるのをやめろよ!」

「わかったわよ・・・そこのエプロンを取ってもらえる?」

給湯室の壁に掛かったエプロンを指差す

「いやいやいや 脱いだ服を着ろよ!」

脱ぎ散らかしていた衣類をマカオへ投げつける

全く、オカマの裸エプロンなんて誰に需要があるんだよ!


あの服は、マカオのだったなんて・・・

あとで手は、洗っておこう!!


「も~う!」

駄々を捏ねながら、渋々着替え始める

「・・・ん? ―――なんでブラジャーなんか着けてんだよ」

マカオは、慣れた手付きでブラジャーのホックを着けている。

それは、男性用のブラジャーやボディービルダーが大胸筋の形を整える用のタイプでは、なく

白色のブラジャーにピンクのリボンにフリルまで付いていてどう見ても女性用のブラジャーにしか見えない


「ふっふふふ・・・そんなの決まってるじゃない・・・」

・・・・・・?

「そこにおっぱいがあるからよ」


「ねーーーよ!!何アルピニストみたいに言ってんだよ!そこは、平地だから着けなくて ―――ぃでででで」

「―――あぁあん?」

物凄く野太く低い漢の声で威嚇し、引野の頭を鷲掴みして握り潰そうとする


「痛っ!!いっだだだーーー!!・・・に、似合います!似合ってますよ!!すっごく似合ってます!!ブラジャーも有るべく場所へ還れて喜んでいると思います」

鷲掴みをしていた握力を緩め、引野の頭から手を放す


「ハァハァ・・・ハァハァ・・・」

「も~う・・・私を誉めても何も出ないわよ」

機嫌が戻ったのか、マカオもオカマ口調へと戻り 上機嫌に服を着始める。


・・・し、死ぬかと思った

一体なんて握力してやがるんだ!?


「あなたを職員室へ連れて来させたのは、担任の先生を紹介する為よ・・・ノマール先生!ノマール先生!!」

給湯室から職員室へ移動し呼びかける

「はい!」

職員室の一番端にある席に座って仕事をしていた。先生がマカオの呼びかけに応え立ち上がる


・・・ウ、ウソだろ!?

こ、この先生!

あの騒ぎの中、一人黙々と仕事をしてたのか!?


「ノマール先生!この子が転送生の引野優くんよ」

「キミが引野くんですが?初めまして 僕は、キミのクラスの担任になる・・・ノマールです!」

唖然としている俺の前に手を差し出して、握手を求めてくる

「趣味は、読書 特技は、料理です」


ノマール先生か~

見た目は、20代後半ぐらいで眼鏡を描けていて、真面目で誠実そうな先生だな


「よろしくお願いします!」

そう言いながら握手にも応える

「・・・では、行きましょうか」

「はい」

「じゃあ あとは、よろしくね~」

職員室にマカオを残し、ノマール先生と先生と教室へと歩き始める。




Bクラスの教室

急遽、訪れた転送生という存在に色めき、生徒達の歓喜の声が廊下にまで響き渡っている

「・・・はい!みなさん、お静かに!!・・・今日は、このクラスに転送生がやって来ます!みなさん仲良くするように」


「「「はい!!」」」


クラス全員が一斉に返事をする

「では、引野くん!入って下さい」


・・・やっとだな

とうとうこの時がやって来たんだな

念願の異能力!ラッキースケベを手に入れ、ムフフでワクワク、ドキドキの異世界学園ラブコメ生活が始まるのか~

楽しみだ!!


意気揚々と教室の引き戸を開ける

「はい!みんな初めまし―――っ!?って男じゃねーーーか!!」

教室へ入るとそこには、男子生徒だらけ、目に写る全ての人間が男の子!!

端から男の子、男の子、男の子、一つ飛ばすことなく、みーーーんな男!!


「「「そんなセリフ初めて言われた」」」


思い描いた理想と現実の振り幅の大きさに驚愕し言葉が出ない


・・・・・・あれ?

お、女の子は!?


「・・・引野くん?何を騒いでいるのか解りませんが・・・ここは、男子校です!そのセリフは、転送初日の今日しか使えませんよ」


・・・えっ!?

「・・・だ、だ・・・男子校!?」

「そうですよ」


―――異世界なのに!?


・・・え、え?えっ!?

・・・嘘だろ!?


「―――そうだ!?せ、先生!?先生だ!!先生の中には、女の先生が・・・」

「―――いませんよ!」


―――ぐはっ!!

膝から崩れ落ちる


え、え?えっ!?

・・・ラッキースケベ


・・・・・・え!?

だ、男子校


「それでは、引野くんは、卒業するまでは、元の世界に帰られませんので・・・みなさん仲良くしてあげて下さいね!」


「「「はい!!」」」


クラス全員が一斉に返事をする

「それでは・・・引野くん、みなさんへ何か一言」

「・・・あの・・・・・・早退しても良いですか?」

「フフッフ・・・転送初日から何を言ってるんですか!?―――全く面白いですね」


「「「はーはっはは はっはは!!」」」


教室全体が笑いと絶望の渦に包まれていく

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