第80話 雲を掴む

「―――引野のバカーー!!エッチ!変態ーー!!」


「・・・バ、バカ止めろ!落ちるだろ!ヒマワリーー!!」

眩しい日差しが照り注ぐ、入道雲の頂上で引野の頭をポカポカ叩き、入道雲の端へと追いやる


・・・な、なんで

こんな上空ところに引野が!?


―――まさか!

命懸けであたしを説得しに来たの!?


「ヒマワリ!1つ頼みがあるんだけど・・・」


「ま、待って・・・!!」


・・・どうしよう

何て答えよう・・・


引野は、あたしを連れ戻しに来てくれたんだ!


あたしを風族嬢にさせない為に・・・


―――嬉しいっ!!


「頼む!ヒマワリ、聞いてくれ!!お願いがあるんだ・・・!!」

引野が真剣な眼差しで頼み込む


「あーー!!待って待って待って・・・!!まだ、心の準備が・・・」

ヒマワリが早口で捲し立てる


「―――地上まで送ってくれ!」


「・・・・・・へ?」

ヒマワリが間の抜けた声を漏らす


「・・・今、なんて?」

もう一度、聞き返す


「だ・か・ら!一人じゃ降りられないから、無事に送り届けてくれって言ったんだよ!!」


「あ~なんだ・・・」


・・・なによ・・・それ


「早く・・・言ってよ・・・」


・・・あたし、バカみたい

一人舞い上がって・・・


あたしを心配して来てくれたんじゃないんだ・・・


「それなら、直ぐに降りられるように・・・」


「―――どうした?ヒマワリ、何か怒ってる!?」


「・・・・・・別に」


・・・ったく!

うるさいな・・・


「胸を触ったのは、謝るよ!でも、わざとじゃないんだよ!事故なんだよ!事故!!」


・・・なんで

わかんないかな・・・


「ごめん!ごめんって!許してくれよ!ヒマワリ!!」


「・・・・・・」

引野に背を向けたまま、何も答えず、黙って俯く


・・・あれ

あたし、イライラしてる?


・・・な、なんでだろう


「―――はい、これで良いでしょ!地上まで続いてるから・・・」

ヒマワリが異能力を発動させ、入道雲から地上まで伸びた滑り台を雲で造り上げる


「・・・ほら、もう帰れるでしょ?さっさと帰れば・・・」

そっぽを向き、愛想なく言い放つ


「何だよ!どうしたんだよ?そんなに怒って・・・!!」


「・・・うるさいな!あたしのこと、なんてどうでも良いんでしょ?―――早く帰って!もう帰って!!」

涙目になりながら大声を上げる


「・・・なんだ!風族嬢になるのを止めて欲しかったのか!?」


「・・・ち、違う!別にそんなんじゃ・・・」


「止めなかったのは、ヒマワリを見捨てたからじゃない!ヒマワリを信じているからだ!!」


「・・・信じる?信じるって何を!何を信じているの!?風族嬢の誘いに心を揺さぶられたあたしの・・・何を・・・もう、不安しかないでしょ?」


「・・・不安?そんな心配しないよ!最初、風族嬢に誘われた時は、驚いたけど・・・でも、なるんだろ?」


「・・・・・・?」

ヒマワリが首を傾げる


「―――この世界の王に!!」


「・・・・・・!!」


「王になって、この国をこの世界を変えるんだろ?そんな立派な夢を抱いてる人の何を心配することがあるんだ!!」


・・・そうだ

忘れるところだった・・・


「風族嬢の元へ行くのも、その為の寄り道みたいなもんだろ?」


近道なんかしちゃ、ダメだ!

楽な方へ進んでは、いけない!!


「まーある種の社会勉強みたいな感じだな・・・!!」


・・・そうだよ!

何を勘違いしてんだ!あたしは!!


ルールや規律を守らずに生きていたら、あたしの嫌いな男と同じになるところだった!!


「―――引野!ありがと!!」


「・・・・・・?・・・何が?」


「・・・フフッ・・・別に~」

不思議そうな顔を浮かべる引野に満面の笑みを見せるヒマワリ


「あたしの夢は、一筋縄じゃいかないね!雲を掴むような話かも・・・!!」


「・・・だったら、ヒマワリなら楽勝だな?―――ほら!!」


「―――っ!?」

ヒマワリの手を取り、目の前にある雲を触り合う


「不可能じゃないよな?」

「フ、フフ・・・何それ・・・」


「「―――ハーハッハハーー!!」」

上空で2人の笑い声が響き渡る・・・


―――そんな入道雲の真下では、ホウオウバードにより、吹き飛ばされた風族嬢達が集まっていた。


「―――カサ様!カサ様!!何で全員を殺さず一度、退いたんですか?ギャルでも解るように教えて下さいよ!!」

ギャルの風族嬢、ネチューがカサへ訊ねる


「ヒマワリは、風族嬢わたしたちの仲間になるんだ!少しぐらいのワガママは、許そう!!―――それに!明日は、最高の天気だからな・・・」

カサが不敵な笑みを浮かべ、空を見上げる


「・・・楽しみだ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る