第71話 舞台前

「本番まで、あと僅か・・・みんなー!!気合い入っているかー?円陣だ!円陣を組むぞ!!」

ミスコングランプリ会場の舞台裏で引野がヒマワリ達に檄を飛ばす


「どうしたの、引野?突然そんな必死になって・・・」

引野の様子が気になったヒマワリが引き気味に訊ねる


「そ、そそ、そんなの文化祭なんだから、当たり前だろ!」


―――嘘である。


この引野おとこ、会場の警備をマッソやドッポに押し付けて、自分は、安心安全の下、ミスコングランプリを楽しもうと目論んでいたのに・・・


既に風族嬢が会場に潜んでいるとわかってから大声を上げ、虚勢を張らないと冷静を保てない程にビビり散らしているのである。


・・・こ、怖いんだよ~


「そっか・・・あとは、よっちゃんとトキド・ケーさんを待つだけだよ!」


「―――えっ!?トキド・ケーさん、まだ来てないの?」

もう本番まで時間がないっていうのに・・・


「その2人なら、ウチ見たで」

「ど、どこで・・・!!」

エトムに詰め寄り、問いただす


「ヨミは、舞台袖で衣装が地味って文句言うてて、トキド・ケーさんは、さっき擦れ違って出て行ったで!」


「よし!ヨミは、無視してトキド・ケーさんを追い掛けるぞ!!みんな、エトムに続けー!!」

「引野ーー!!もう少しよっちゃんにも優しくしてあげてーー!!」

ヒマワリの言葉をスルーして先導するエトムの後ろを付いて行く



「―――追い付いた!トキド・ケーさん!!」


「・・・・・・何?」

駆け付けて来た引野達に不思議そうな顔を浮かべる


「な、何って、ミスコングランプリ もう始まってしまいますよ!こんな所にいないで早く用意し・・・」

「―――出ないよ」

トキド・ケーが食い気味に断る


「・・・えっ・・・いや・・・な、なんでですか?いきなり・・・もうこんなに人が集まったんですよ!!」

動揺し慌てふためく引野


「・・・?集まったんなら出る必要は、ないよね!」

「・・・で、でも、折角ですし・・・ミスコングランプリ出ましょうよ!絶対楽しいと思いますよ!!」


「私の目的は、風族嬢を返り討ちにすること・・・わざわざ公衆の面前で笑い者になる必要は、ないよね!」


・・・う、うう

トキド・ケーさんの意見は、ごもっともだ!


な、なにも・・・

言い返せない・・・!!



「―――トキド・ケーさん!・・・引野は、バカでドジでちょっとHだけど・・・たぶん大丈夫だと思いますよ!!」

静まり返った空気の中、ヒマワリが口を開く


「あたし達が傷付いたりするようなことをさせる男じゃないですよ!!」


「ウチもそう思う!なんでスカート履いたり、ミスコンとかいう意味不明なのに出なアカンのか、わからんけど・・・たぶん、出たらその意味がわかるんやと思う!!」


・・・お、お前ら

俺のことをそんな風に思っていたなんて・・・!!


「・・・・・・ずいぶん、信頼されてるんだね・・・そんな男は、初めて見たよ・・・」


「・・・な、なら!」


「それでも、出ないよ!別に私が出なくても、ここにいる子達は、みんな可愛いし、私が出なくてもお客さんは、満足するでしょ!」


「そ、そんなことないですよ!?ね、ねー えっちゃん!!」

「せ、せやな!トキド・ケーさんがいないと華がないわ!華が!!」

トキド・ケーを説得するエトムとヒマワリ


・・・た、確かに

ヒマワリ達だけでもミスコングランプリは、充分に盛り上がると思う!


―――だけど!

俺は、トキド・ケーさんにも知って欲しいんだ!!


男装しなくてもいい喜び!女の子としての幸せ!!


こんな男尊女卑が色濃く残る世界しか知らないなんて嫌だろ!!


何か方法は、ないのか!?



「―――お待たせしました!衣装の準備に少々、手こずってしまいました!!」

「ヨミ!今は、取り込み中だ!!どっか行・・・―――って なんて格好してんだ!!」

俺が用意した衣装とは、全く別の!上下黒ずくめの全身タイツ姿でやって来た。


「「「・・・・・・」」」

ヒマワリ達もヨミの姿に呆気に取られる


「ミスコングランプリの私の出番は、最初トップ最後トリでお願いします!!」

出す訳ねーだろ!!

そんなコントみたいな格好をした奴を!!


「トキド・ケーさん気付きましたか?このままトキド・ケーさんが出場しないと集まった人達は、みんな帰ってしまい風族嬢の思う壺ですよ!!」


「・・・・・・負けたよ!まさか、こんな変な格好までして、引野を信じて私を出させるなんて・・・」


・・・いや

ヨミは、自分が目立つ為に本気で、その格好で出る気だったよ!!


「これで役者は、揃った!ミスコングランプリ、気を取り直していきましょう!!」

舞台裏へ戻ろうとした、その時、会場から大歓声が鳴り響く


「な、なんだ・・・何が起こっている?」

直ぐ様、会場へと戻る引野達



「「「・・・・・・だ、誰?あの人達??」」」

舞台を覗くと、そこには、セクシーな衣装を身に纏った女性達が脚光を浴びていた


・・・ん?

一体、誰だ?あのセクシーな女性達は!?


Cクラスの生徒なら、ここに全員いるぞ!

あんな子達なんか知らないぞ!!



・・・・・・



―――ということは



アイツらが風族嬢っ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る