第21話 寝癖

「ふぁ~あ~!!・・・・・・眠い・・・」


大きな欠伸をして、目を擦りながら、引野は、校舎裏に流れる川辺を歩いていた。


何故、こんな早朝に大嫌いな早起きをしてまで、こんな所を歩いているのかというと・・・


昨夜、暴力教師ことコドナ先生の指導という名の体罰を受け、ケガを負ったので、寝れば傷を癒してくれる寝具を利用したのだが・・・


―――寝癖が酷い!!


身体の傷は、治せても、髪型までは、元には、戻らないようだ!

まー 流石に、髪型をセットした状態とまでは、言わないが・・・寝癖は、付かないで欲しい!!


・・・朝起きたら、髪の毛が全て逆立っていて、手ぐしで髪をいくら整えようとしても、直ぐに はね上がってしまう


・・・まさか

これは、寝具を使用した副作用か!?


これからの学園生活では、なるべく波風を立てず、過ごしていきたいので、今の この髪型は、悪目立ちしていて、非常に不味いので 髪を濡らして元に戻す為にわざわざ川辺まで来たのだ!


「―――冷たっ!!」

冷たい川の水で頭を濡らし、寝癖を直す


「・・・・・・ん?・・・あれは!?」

川辺にある小岩の上に綺麗に折り畳まれた制服がある


・・・なんで、こんな所に?

もしかして俺と同じように、川で水浴びでもしている人がいるのか?気になり、小岩の反対側を覗き見てみると・・・


―――濡れた体を拭いている人がいる!

・・・あの、白く長い髪!・・・ということは!?


「おーーーい!!トキド・ケーさん!!」

「―――っ!?」

俺の存在に気付き、慌てて服を着替え始める。


・・・そんな慌てなくても

別に、男同士なんだから、焦らず、ゆっくり着替えたら良いのに・・・


そんな他人ひとに身体を拭いている姿を見られるのは、格好悪いことなのか?


・・・俺なんか

自分の家のベランダまでなら平気で全裸でウロチョロしたもんだけどな!


・・・相変わらずこの世界の人間の感性は、良くわからない!!


・・・・・・それにしても

やけに顔が赤いような・・・


「―――で なに?」

さっきのは、なかったかのように振る舞い尋ねてくる。


「昨日は、ありがとうございました!シャイ先生から聞きました!保健室まで運んでくれたそうで・・・」


「別に・・・問題ない!・・・良いトレーニングになった」

人命救助もトレーニングの一つか!?


「・・・本当・・・本当にスゲーな!尊敬します!」

「・・・・・・?・・・なにが?」


「この学園でナンバーワンの実力者とまで言われ、敬われいるのに、それに、一切甘えず、慢心もせず、トレーニングを続けて・・・俺には、考えられないな・・・」


「―――そんなことは、ない!!」

引野の言葉を真っ向から否定し、顔色を変えないまま熱い口調で語り始める。


「学園ナンバーワンと呼ばれているのは、今だけ!!明日には、その記録も塗り替えられているかもしれない!休んでいる時間は、ない!毎日毎日、常に全力で一歩一歩、前進していかないと現状は、維持できない!!―――ここでは、実力の無い者は、家畜以下の存在!実力が全ての世界だから・・・」


・・・そうか

トキド・ケーは、この実力至上主義の、この世界に真っ向から挑み、勝ち進み、伸し上がって来たんだな・・・


この終わることのない棘の道を休まず歩んで来たのか・・・


一人、孤独に 無縁で孤立の中、心を休める暇もなく


・・・辛かった・・・よな

・・・苦しかった・・・だろうな


・・・・・・


保健室まで運んでもらったお礼とは、関係なく!

何かしてやれることは、ないだろうか?少しでも力を貸してやることは、できないだろうか・・・



「・・・・・・じゃ」

足早に、この場を去ろうと歩き始める。


何の力も経験もない、俺なんかじゃ!トキド・ケーが抱え、背負い続ける悩みや苦悩を無くしてやることは、できないだろう・・・



―――だけど!!



苦悩それを理解し励まして、気持ちを軽くしてやれる筈だ!!


「なーんだ!・・・トキド・ケーさんも異能力を使えたんだ!?」


「―――なっ!?い、1回も使ったことは・・・」


「―――努力という名の異能力を!!」

この場から立ち去ろうとしていたトキド・ケーが立ち止まり、話を聞く体勢へ入る。


「俺も同じ異能力者なんで、わかるんですよ!その異能力は、厄介ですよね~ 一度や二度、発動したところで効力は、薄く 常にその異能力努力を発動し続けないといけない!!―――俺なんかじゃ、使いこなせない異能力ですね!! 」

トキド・ケーを讃える言葉と笑顔を贈る


「・・・・・・やっぱり」


・・・・・・?


「・・・あなたは、不思議な子・・・でも・・・なんとなく・・・この世界へ転送されて来た理由がわかった気がする」


・・・トキド・ケーさん

褒めて頂いたところ申し訳ないんですけど・・・


俺は、元いた世界で突然いなくなっても騒ぎにならない人間ってだけで転送されて来たんです!


・・・すいません

しょうもない理由で!


「・・・少し、話して・・・楽になった・・・気が・・・」

「それは、良かったです!トキド・ケーさんには、もう少し息抜きをする必要があると思うんです。ほら、休むのも 修行の内でしょ」


「・・・・・・一理・・・あるかも」


「―――あっ、そうだ!?言い忘れたけど・・・俺、今日からCクラスへ編入することになったから・・・」

「―――っ!?何故!」

瞬時に距離を縮めて来る


「・・・いや・・・その・・・あの・・・い、いじめ・・・られてるから・・・その・・・一時的に・・・」

トキド・ケーが至近距離まで近付いて話を聞きに来るから、照れて、上手く話せない!


・・・べ、別に

トキド・ケーのことなんか好きでもなんでもないんだからね!!


・・・まさか

この台詞を自分で言う日が来るとは!?


「・・・・・・そう」

あのたどたどしい説明で理解したのか、冷静になり 普段通りの距離感へと戻る


「と、ところで、Cクラスの教室ってどこにあるんですか?」

今まで、ずっと気になっていた疑問をぶつける


「・・・Cクラスの教室は、別校舎にある」


―――通りで!!

今までCクラスの生徒に出会わない訳だ!!


「・・・案内する」


「・・・―――えっ!?いやいや、悪いです!悪いです!!」

「問題ない!いつものトレーニングコースだから・・・」

そう言い終えると同時に走り出す


「・・・え?ウソ!?は、走って行くの!?」



・・・何故!?

この異世界の移動手段が原始的なんだ!?と疑問に思いながら、トキド・ケーの後ろ姿を見失わないように着いて行く

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