第19話 保健室

「うわぁぁーーー!!・・・はぁはぁ・・・はぁはぁ・・・」


「・・・目が覚めたか」


「・・・・・・誰?」

 悲鳴を上げ、目を覚ますと、そこには、知らない天井、見に覚えのないベッド、そして目の前にお年寄りが立っている。


・・・・・・どういう状況?


「そういえば、初めましてじゃな・・・ワシの名は、シャイ・・・この学園の保健の教師じゃ」

腰が曲がった白髪の老人が自己紹介をする


「・・・保健の先生?・・・えっ?なんで!?・・・え?・・・ということは・・・ここは、保健室?―――・・・あれ?なんで俺、保健室で寝てるんだ!?」

状況が飲み込めない


「記憶にないのも、無理もない・・・なんせ、お主は、階段の下で傷だらけで倒れとったんじゃから」


・・・・・・・


―――思い出した!!


 俺は、あの時、体育館を後にし、速く寮へ戻ろうと階段を降りていたら、いきなり背中を、突き飛ばされ・・・転がり落ちて・・・


「―――あれ?・・・でも身体は・・・なんとも・・・ない」

 学園の敷地の中にある。石造りの段差の激しい、長い階段から落ちた筈なのに、どこも痛めてない!

身体の隅々、調べても青アザどころか傷一つ付いていない!

 

 ・・・どうなってるんだ?


「―――今は、 な!

 保健室ここへ来たんじゃから・・・」


 ―――そうか!!


 忘れては、いけない!ここは、異世界!!

 元いた世界を基準に物事を考えては、いけない!

 ここでは、俺の想像もつかないことが沢山あるんだろうな!


 傷口に塗れば、直ぐに効く薬草や、飲めばたちどころに痛みが消えるポーションのような飲み物まであって、この世界の医療技術は、凄まじい進化を遂げているんだろうな・・・


「このベッドで寝れば一発で治る」


 ―――寝具が進化してた!!


「目を覚まして 何よりじゃ」


「あ、ありがとうございます!シャイ先生!ここまで運んでくれて」

 体育館付近のあの階段からここまで、どれぐらいの距離があるかは、わからないけど・・・


「こんな、老いぼれに、そんな力仕事は、できんよ」


「・・・?一体誰が?」


「トキド・ケーじゃ」

「―――トキド・ケー!?」

思わず声が裏返ってしまった。


「ここまで運んでくれたのは、あの子じゃ・・・礼ならあの子に言っておやり」


 ・・・一体、なにがなにやら

 どうしてこうなったんだ!?


「―――引野くん 大丈夫!?」

 状況が全く整理できてない中、アラトモが慌てふためきながら保健室へ入って来た。


「聞いたよ!階段から落とされたんだって・・・怪我の具合は?」


 ・・・ア、アラトモ

 優しいな~!!心配してわざわざ様子を見に来てくれたのか!?

 流石!この男子校の心のオアシスだ!!


「大丈夫!大丈夫!!心配してくれてありがとう!もう平気だから」

不安そうな顔から、早く解放させてあげよう


「・・・・・・」


「・・・・・・アラトモ?」


「・・・あっ、そう!なら良かった!」

いつもと変わらない笑顔を見せる


「ほれ、もう用は、済んだじゃろ?寮へお帰り」


「はい!シャイ先生!!・・・じゃ 引野くん、ボクは、先に帰るね・・・シャイ先生 さようなら」

 手を振りながら 元気良く保健室から出て行く


・・・アラトモ

なんか、いつもと様子が違うように見えたけど・・・


―――俺のことで、そんな悩まなくてもいいのに!


「・・・何じゃ、お主にも、お主のことを心配してくれる子もいるんじゃな」


「・・・な、なんだよ!その言い草! いくら先生でも・・・それは、失礼なんじゃ・・・」


「―――でも、お主いじめられとるじゃろ?」


「―――な、なぜ・・・それを!?」

核心を突かれ、呆気にとられてしまう


「放課後の・・・それもあんな人気のない時間に傷だらけで体育館付近に倒れとったんじゃから・・・どうせ、後片付けを一人で押し付けられ、その帰り道に、あんな目にあった・・・

 ――――そんなどころじゃろ?」


―――千里眼でも持ってんのか!?


・・・その通り過ぎて、何も言い返せない


「じゃから・・・お主には、一時的にCクラスへ異動してもらう」

「・・・え?」

「仕方ないじゃろ!?Bクラス内でイジメがあるんじゃから」


・・・?


「なんでBクラス内って言い切れるんだよ」


・・・ま、まさか

見てたからわかるとか言わないよな?シャイ先生の風貌は、完全に千里眼使いだからな


「そんなもん、少し頭を捻ればわかるじゃろ?Aクラスの生徒は、格下と思っとるB、Cクラスの生徒をイジメるわけないし・・・Cクラスの生徒じゃ、Bクラスの生徒をイジメる力なんて皆無じゃから、自然とBクラス内としか考えようがないじゃろ?」


・・・な、なに

その推理力!?


見た目は、大人!頭脳も大人!!名探偵シャイじゃん!?


・・・・・・あっ そのまんまか!?


「もうCクラスへの異動の手続きは、済んどるから・・・」

「―――えっ!?嘘だろ!」


「なんじゃ?イジメがあるクラスに未練などないじゃろ」

思い掛けない俺の反応に訊ねる


・・・確かに、このBクラスには、何の思い入れもない!Bクラスにいても授業には、ついていけないし、異世界流のイジメにも遭う!だから、クラスが変わることには、何の不満もない!


・・・・・・けど


―――アラトモと別れるのは、な~


 折角、元いた世界も含め人生で始めて 出来た友達だから・・・ここで離れるのは、少し寂しい

 この先こんな良い友達には、出会えないと思うし・・・

 

「それに、ずっとCクラスで過ごすんじゃなく一時的なんじゃから問題ないじゃろ」


・・・・・・ま

一生って訳じゃないし、一時的なら我慢するか!!


納得し、シャイ先生にその旨を伝える


「そうか!Cクラスの先生も、お主の顔を見たいと言うとったから・・・そろそろ来る頃じゃと・・・」


「――――邪魔するぜ!じじい!!」


チンピラのような台詞と共に保健室の引き戸が開く

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