第15話 決意

対抗戦 前日の朝


「オイ!転送生!!―――ちょっと、ジャンプしてみろよ!」

仮病を使い、学園を休もうとしたが、またもや失敗に終わり、一人 校舎を歩いていたら、この世界の不良と思われる生徒に絡まれてしまった。


うわ~ 古いタイプの不良だな~


「いや・・・あの・・・お、俺・・・お、お金 持ってない、持ってないですよ」

金髪で強面の顔に怯んでしまい、正直に話しているのに嘘をついているように答えてしまった。


この世界での通貨や紙幣が、何か知らないが ジャンプしても小銭の音は、聞こえないのだが・・・


「いいから、ジャンプしてみろよ!!」


―――怖っ!!


そんな至近距離で睨まないで欲しい


・・・もう、わかった!わかったよ!・・・ジャンプするよ!ジャンプすれば良いんだろ!?


タンッ!タンッ!タンッ!

タンッ!タンッ!タンッ!


「・・・・・・」


・・・気が済んだかな?

いくら飛び跳ねても小銭の音は、聞こえないのに・・・


「オイ!誰が止めて良いって言った?もっとだ!もっとジャンプしろ!!」


「・・・?・・・いや・・・あの、これ以上ジャンプしても、小銭の音は、聞こえないですよ」


―――本当のことだ!

お前ら異世界の住人は、俺たちより聴覚が優れているのだから、何も持っていないことは、わかる筈なのに・・・


この世界には、このクソッタレ異能力ラッキースケベ以外、何も持たず、転送されて来たのだから・・・


「・・・さっきから何言ってんだ!?転送生!!」


・・・・・・?


「―――俺は、8mジャンプしろって言ってんだ!!」


「―――できるかっ!!」



・・・・・・あっ

もちろん、殴られましたよ




「いててって」

殴られた、頬を擦りながら教室の引き戸へ手を伸ばす


「―――おっと!?危ない危ない・・・日課のギロチンチェックを忘れるところだった」


異世界流のイジメが始まった日から、教室やトイレ、自分の部屋のドアでさえも開ける前には、必ず戸の隙間にギロチンが挟まっていないか、確認するのが日課になっていた。


それを怠ると命に係わることなので真剣になる


「今回・・・ギロチンは・・・なしっと」

安全の為、しっかり指差し確認を終えて 勢いよく引き戸を開ける



―――パンツ パンツ パンツ パンツ



目に映る。光景全てがパンツ一丁の男の姿!


・・・・・・あれ?

・・・教室?・・・間違えた?


「―――おい!!いい加減にしろよ!!転送生!!」

机を叩き、声を荒らげながら詰め寄ってくる。


「毎回、毎回 着替えてる時にドアを開けやがって!・・・一体どういうつもりだ!!」

この男の言葉を皮切りにみんなが日頃、俺の行動に対して溜まっていた苛立ちが不満の声と成り、次々と漏れ出していく


「毎度、毎度、着替え中の時ばかり開けてきやがって、嫌がらせをしてるのか!?」


・・・わ、わるい!悪気は、ないんだ!


「何度も躓いて、迷惑かけやがって!」


・・・本当に・・・すまない


「―――本当だぜ!・・・階段の上から落ちて来たと思ったら股間に顔を埋めて来たり、転んだ拍子にズボンをずり下げ、パンツ丸見え、状態にさせられたり・・・挙げ句の果てに、大浴場で何の前触れもなしに突然タオルが落ちてあられもない姿を見られたり!!」


―――お前だけ 災難だな!!


「初めての異世界に緊張し、焦ってこうなっているのかと思ったけど・・・俺らをおちょくってるのか?」

その一言に教室の雰囲気が一変し、眼を血走らせ、指や肩の骨を鳴らしながら、引野の周りを取り囲んでいく


・・・ヤ、ヤバイ

みんな本気で怒っている!


このままだとマッソとの対抗戦より先に袋叩きに合い、殺戮ショーが開演してしまう


・・・・・・でも

・・・無理もないよな

みんなは、俺が異能力ラッキースケベが発動し迷惑を掛けていることは、知らないのだから、俺が異世界ここの人間をおちょくっている様に思われても、しょうがないよな・・・



―――パキポキ! パキポキ!!



―――だけど痛い目に合うのは、嫌だ!!


・・・一体、どうしたら!?


「―――あれ?引野くん、そんな所でなにやってるの!?」


「―――アラトモ!!・・・本当に良いところに来てくれた!ちょっと、コイツらに言ってやってくれよ!」

簡単に、こうなった経緯を伝える


「みんな、何してるの?・・・もしかして、引野くんに手を上げようとしてる?」

取り囲んでいる、人混みを掻き分けながら歩いて来る。


「・・・今まで通り、楽しい学園生活を送りたいよね!なら、こんなことしてたら・・・どうなるか・・・わかるよね!」

鬼気迫るアラトモの口振りや目付きに俺を取り囲んでいた。生徒に動揺が走り、散り散りになっていく


・・・アラトモの奴

この大人数、相手に戦える程の力や奥の手があるのか!?


「―――対抗戦前に引野くんに手を上げたら、マッソさんは、黙ってないよ!」


―――まさかの人任せ!?


みんなアラトモじゃなくて角刈りゴリラに怯えてたんかい!!

・・・でも、アラトモが危険な目に遭わなくて良かった!


「―――ほら、教室に帰ろう」

「お、おう・・・アラトモ、ありが―――っと!?うおっ!!」


アラトモに引っ張られた勢いで足が縺れ、その拍子にアラトモのズボンをずり下げてしまった!



「「「はーはっはははーーー!!」」」



「―――ご、ごめん!?アラトモ!!」

「・・・う、うん」


かわいいお花パンツが丸見え状態になり、慌ててズボンを履き直す



「「「はーはっははは!!・・・花って!花って!!」」」



みんながアラトモを指差し、大笑いする。


「なんだよ、お花って、女かよ!?」

「見た目も女っぽいしな!!」

「お前、ちゃんと付いてんのか!?」



「「「はーはっははは!!」」」



「お前ら、いい加減にしろよ!!」

―――流石に頭にきた!!

俺が原因でこんなことになったけど・・・そんなの関係ない!友達アラトモがここまで言われて、黙っていられる訳がない!もう袋叩きにされたって構わない!玉砕覚悟で黙らせてやる!!


「―――引野くん!!」

大笑いしている連中へ殴りに行こうとしたがアラトモに制され、廊下へ連れ出されてしまった


「なんだよ アラトモ!良いのかよ?アイツら・・・」


いくら優しいアラトモだからといってこれは、優しいにも程がある!あの手の連中は、相手が怒らないとわかれば、いくらでも付け上がるぞ!


「・・・引野くん!今、本気で怒り、異能力を使おうとしたでしょ!!」


「―――うっ!?」

・・・た、確かに!

自分の記憶にもないぐらい、久し振りに怒った!


「僕は、大丈夫だよ!!あの時、引野くんが怒ってくれた!その気持ちだけで充分だよ!!」

女の子と見間違うほどの優しい笑顔を見せる


・・・・・・アラトモ


「それに、あんな連中に引野くんの異能力ちからを使うのは、勿体ないよ!異能力は、対抗戦の時のお楽しみでしょ!!」


・・・ごめんな・・・アラトモ


「フフフ・・・アイツらの驚く顔を見るのが楽しみだね!」


その異能力でアイツらを笑顔にしてしまったんだ!


「・・・・・・」


・・・言おう

親友アラトモに!!がっかりされたって構わない!今までの人生で俺のことを信じ、ここまで想い続けてくれた人は、一人もいない!!


そんな人に嘘なんか付きたくない!


・・・伝えよう

俺の持ってる異能力ちからは、アラトモが思っているような凄い力なんかじゃない!俺の持ってる異能力ちからは、この世界では、無意味な力だと!!



・・・・・・いや



―――違う!!



無意味な力なんかじゃない!俺とアラトモを引き合わせた 最高の異能力だと言おう!!


「・・・アラトモ・・・あのさ」

「―――あっ!もうこんな時間、次の授業に遅れる!」

学園の鐘の音が鳴り始める


「―――引野くん、早く行こう!」

「ちょっと、引っ張んないで!?このパターンは―――」



異能力ラッキースケベ 発動!!



「―――ご、ごめん!引野くん!!」

走り出そうとしたらアラトモにぶつかり、二人して倒れてしまい、倒れた俺の顔の上にアラトモの下半身が覆い被さる形になってしまった!!



もう~ やっぱ嫌だ!!

こんな異能力!!

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