第112話 旅は道連れ

「もう~疲れた~!けど・・・ここなら、一安心だね!!」

「せやけど・・・この建物の中に誰かおるかもしれへんから、大声は、アカンで・・・!!」

街中を走り回っていたエトムとヒマワリは、マンションのバルコニー部分で身を潜め隠れている。


「えっちゃん、この後どうする?」

「ん~・・・引野は、同じ服着た人らに連れてかれて行方不明!ほんで待ち合わせの引野の家もドコかわからん!!オマケにヨミの所在も掴めてないからな・・・」

バルコニーの隙間から警察官を見下ろしながら今後の行動について悩む


「───いや、そうなんだけど!あたし気付いたの!!もう逃げ回る必要ないんじゃない?」

「・・・え・・・なんでや?」

「冷静になってみたらさ~ あたし達は、24時間したら自動的?に元の世界へ戻れるから、何も今まで通りのこそこそした日常をおくらなくて良いんじゃない!?折角、引野のいた異世界せかいにいるんだから・・・もっと面白おかしく!周りの目なんか気にしないで遊ぼうよ!!」

満面の笑顔でエトムへ語り掛ける


「確かに・・・言われたらそうやな!遠路遙々、異世界の地から来て、異世界あっちにいる時と同じ生活スタイルなんて、バカらしいなっ!!」

屈んで身を潜めていたが立ち上がりバルコニーから身を乗り出す


「・・・ほな、ヒマワリ!修学旅行気分で行こか!?」

「───うんっ!!」

こそこそ逃げ回るのを止めた2人は、笑いながら初めての土地を満喫しに出掛ける。


──────


「え、えっちゃん!・・・ひ、人が・・・多すぎる・・・ね・・・!!」

「テ、テンパんな!ヒマワリ、田舎者やと思われんで・・・今日は、アレや!祭りなんや!!」

干されていた女性物の衣類を拝借し元の女の子の姿に戻ったエトムとヒマワリは、人生で見たことない高層ビルや科学文明、体験したことのない人の多さに田舎者丸出しのセリフを吐いてしまう


「もう一回、街に戻って来たんわ良いものの、お金もないから何も買われへんし、腹減ったわ!それに言葉も通じひんからコミュニケーションも取られへん!!・・・どうする?・・・・・・ヒマワリ?」

上の空な様子のヒマワリへ声をかける

「───あっ!ご、ごめんごめん!!ちょっと見惚れてた!!」

「・・・ん・・・何に?」

「この世界の女の子達は、本当に生き生きしている!道の真ん中を楽しそうに笑いながら歩いたり、自由に好きな物を食べたり、一生懸命、働いて、遊んで、暮らして・・・───ここは、あたしの理想!あたしの作り上げたいと想う国の姿!!」


ヒマワリには、夢がある

女性初の王様になるという夢が・・・


男しか働けず、女は、学問すら受けられない不自由な世界

そんな世界は、間違っている!

そんな世界を変えたいと本気で思っていた!!


・・・だが

その未来図ビジョンが浮かばなかった!

学問も学べず、見聞もない女の子には、理想な国というのが解らなかった!!


「えっちゃん!あたし、この世界みたいにしたい!!あたしが王様になって女の子も自由に笑って暮らせる平等な国を創りたい!!」


目標を・・・理想を・・・

明確に描けた人間の成長は、早い!!


「・・・フッ・・・約束したやろ?ウチは、ヒマワリに着いて行くって・・・どんな事でも最後まで応援し協力するで・・・!!」


期待された人間の向上心は、凄まじい!!


「あたし、もっと異世界交流したい!異文化に触れ合いたい!!見聞を広げたい!!」

「お、落ち着け、ヒマワリ!せやけども、言葉がわからんからな・・・・」


「───お困りですか?そこのお嬢さん!」

「よ、よっちゃん!?」

「どないしたんや?その乗り物は!?」

戸惑う2人の前にバイクで去って行った筈のヨミがタクシーに乗って現れた


「これは、ですね!タクシーといってお金を払えば、目的地へと運んで行ってくれる乗り物なんです!!」

ヨミの説明にエトムとヒマワリが感銘を受けタクシーへ乗り込む


「よっちゃん、ありがと~!!」

「・・・で、ヨミ!どうやって、この世界の言語覚えたんや?」

「フッフフ・・・簡単ですよ!この異世界せかいの住人と引野が会話してたやり取りと周りのリアクションで内容を把握して、この世界の言語を理解しただけです!!」

エトムの疑問に自慢気に答える


「流石、よっちゃん!スゴいスゴい!!」

「勉強は、何気に出来るもんな~!」

「勉強は、って余計ですよ!!」


「「「───あっはははーーー!!!」」」

タクシーの中でみんなで大笑いする


「・・・・・・」


タクシー運転手、尾田栄二郎49歳

30年以上部屋に引きこもり、漫画家を目指していたが・・・


夢を諦め就職しセカンドライフとして、この仕事へ就いた。

今日が初仕事で最初に乗せた客が年齢不詳の黒髪のチンチクリン!


ずっと机にかじりついて生活し、人と話さなかった弊害か・・・


何を喋っているのか理解できない!


・・・外国人?


───いや、違う!多分、違うと思う!!


・・・こ、ここ、怖いよぉぉぉーーー!!


「あたしさ、この世界の学校を見てみたいんだよね!!」

「よっしゃ!ヨミ、学校見学、頼むわ!!」

「───了解です!目的地を最寄りの学校へ変更でお願いします!!」


「───ひっ!!」

・・・ま、まただ!

また、何か話し掛けられた!?

今、何を指示されたか、わからないよーー!!


エトム、ヒマワリ、ヨミを乗せたタクシーは、行き先不明の状態で目的もないまま、走り続ける。

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