第三話 初戦闘

 念のため、何があってもいいようにスマホを出して悲鳴がした方へ慎重に近づき、近くにあった木の影に隠れて様子を見てみると、なにやら馬車の一団が盗賊であろう集団に襲われているようだった。


 人道的に助けるべきだよな~、しかし使えるのはスマホのアプリだけ、剣とか具現化してもちゃんと扱える気がしないしな……う~ん、遠距離から魔法とかならまだ何とか戦えるかもしれないけど、近距離戦闘になったら文字を打ってる余裕なんてあるわけないだろうから簡単に殺されそうなんだよな……う~ん、他になにかいい方法は無いものかな?


 とりあえず、盗賊らしき相手がどれほどいるのか、馬車の方の護衛はどの程度かと戦況観察をしてみると、盗賊の方はいかにも盗賊と言った簡素な装備の者が十名ほどで、馬車の方はしっかりした革鎧などの護衛が十二名であとは馬車の荷台で中で身を潜めているのが数名と、見えていた範囲ではこんなところだった。


 十名か、ちょっと多いな……ちょっと考えている武器の具現化を試して、成功したら助けに入ることにするか。


 そしてスマホを出して、具現化アプリで『CZ75B』と打ち込んで具現化してみると、目の前に一丁のハンドガンが現れた。


 お、成功したか! この世界は剣と魔法の世界らしかったから、銃は具現化できないかとも思ったんだけどよかった。さて、次のも成功してくれよ。


 次に、『M84スタングレネード』と打ち込み具現化すると目の前に棒形の手榴弾の様な物が現れ、それを右手で持った。


 こっちも成功か、時間制限がある事だしすぐに行くか。


 スマホを腰のポーチにしまい覚悟を決め、左手にハンドガンを持ち戦闘中の現場、約20m手前まで走り、スタングレネードのレバーを握って二つの安全ピンを左手で抜き、盗賊の数が多く、馬車や護衛の人たちからある程度離れた場所へ投げつけた。

「うお、何だてめぇ」

「うぬ、盗賊どもの増援か?」

「なんだあいつ、変な筒投げてきやがって」

 などと声が聞こえていたが、そんなことは気にせず、俺はすぐにうずくまり、下を向いて目を瞑り両手で耳をふさいだ。

 数秒置いてスタングレネードがさく裂し、辺りは閃光で白く染まり、大きな爆発音で辺りの喧騒が書き消え、その場にいた者たちは何が起こったのか理解することもできずに突発的な目の眩みや耳鳴りに苦しみ、方向感覚の喪失や見当識の失調と言った状態に陥り、その場にうずくまったり倒れたりしていた。


 銃の具現化時間も少ないし、一気に、一方的にやらせてもらおうか。


 それから俺は、まともに動くことのできずにうずくまっていた盗賊たち十名を、ハンドガンを両手で構えて装弾数十六発全てを使って撃ち倒した。弾がなくなり、具現化して一分過ぎてハンドガンが消えたので、一応スマホを取り出しいつでも再度ハンドガンを具現化できるよう構え、辺りを警戒した。

「あの、すいません。大丈夫ですか?」

 俺が近くでうずくまっていた革鎧を着た三十歳くらいの荷馬車の護衛らしき茶髪でちょっと怖そうな顔の男に声をかけると、男は頭を振りながら俺に抗議の声を浴びせてきた。

「き、貴様! 先程の魔法は何のつもりだ!」


 そりゃ、この世界にスタングレネードなんてないだろうし、やっぱり魔法だと思っちゃうよね。


「ま、待ってください。まず先に、攻撃した事は謝りますが、俺はリン・クスノキと言いまして、決して怪しいものでは無く、盗賊の仲間などではありません。ここには悲鳴が聞こえたので来たんですが、そうしたらあなたたちが盗賊に襲われているようでしたので、助けに入っただけです。先ほどの魔法は光と音は凄いんですが人体に怪我や後遺症が残るような物ではありません」


 俺の言葉に男は周りを見て状況を確認していた。


「確かにお前の言う通りのようだが、盗賊どもは皆始末したのか?」

「いえ、何人かは死んでいるとは思いますが、生きていても結構な深手は負わせているはずですよ」


 あ、そうか……俺……人殺しちゃったんだよな。


 男は「そうか」といって仲間に、生き残っている盗賊を縛りあげるように指示を出していた。

「俺はこの商隊の護衛を請け負っている冒険者パーティー『黒翼』のリーダーをやっているガイラルだ。すまないが俺はただの雇われ護衛なんで、俺個人の判断でお前を信用するわけにもいかないんだ。いまから雇い主に話をしてくるから、ここでおとなしく待っていてくれ」

「分かりました。あ、回復が必要な方がいるなら回復をかけますが?」

「なんだおまえは回復魔法まで使えるのか、それじゃ怪我してるやつらに回復をかけてやってくれ。ただし、助けて貰っておいて心苦しくはあるんだが、見張りとして一名付けさせてもらう」

 俺は納得し、見張りに付けられた二十代前半くらいに見える赤毛で気の弱そうなハイルと言う男と共に怪我人をスマホで回復して回ったが、最後の一人を回復し終えた所でスマホの魔力バッテリーの残量がほとんどなくなっていた。

 しばらくすると、ガイラルが仕立ての良い町人服のような服を着た俺と同じくらいの歳に見える金髪ショートの、整った顔はしているが気が強そうな女を連れてこっちへ歩いてきた。


「私はこの商隊の代表でシャルディアと申します。リンさん、このたびは助けていただき誠にありがとうございました。失礼とは存じますが、珍しいお顔立ちをなさっていますが、どちらの方なのでしょうか?」


 んー、なんと答えればいいものかな? あ、他の世界から来た人の事を『落ち人』って言うってのが記憶にあるな。それにしても、こっちの世界の常識がなんとなく分かるって言うのも変な感覚だな。


「実を言うと、俺は落ち人なんですよ」

「あら、それは珍しいですね。こちらの世界は長いのですか?」

「いえ、先程こちらの世界にきたばかりです」


 ああああ、ミスったー! いきなりこっちの世界にきた奴が魔法みたいなのをいきなり使えたり、落ち人って単語を知ってたりしたら怪しさ満点だ! やべー、どうやってごまかそうかな。


「え、こちらの世界にきたばかりなのですか?」

「は、はい、そうです」


 わぁぁ、やべーよ! テンパってて言い訳が思いつかねーよ! ど、どうしよう……ああ、もう! 頭ん中は真っ白だー! ……もういいや、なるようになれだ。


「落ち人の方がこちらの世界にきてすぐだと、普通は混乱していたり放心していたりして、こんな森に近い所では魔物や獣に襲われて死ぬことが多いはずなのですが……それに、この世界にきていきなり魔法が使える方は聞いたことがありませんよ。しかも、こちらの世界に来たばかりだというのに、なぜ落ち人と言う言葉をご存じなのか」

「自分でも良く分からないのですが、何故だか知識があるんですよ。こちらの世界の事が分かるから分かる。魔法が使えるという事を何故か知っていたから使える。としか説明できないんです」


 我ながら説明になって無い説明だな。


 何とか信用して貰えないかと、信用して貰えなかった場合は俺はどうなるんだと思いながら、シャルディアの言葉を待った。

「んー、悪い人ではない様なのですが……リンさん。やはり、あなたを信用する事はできません」

「信用して貰えませんでしたか……それじゃ俺はここで殺されてしまうんですね」


 こっちの世界にきて壱一日もたたない内にもう人生終了なのか……こんなことなら異世界になんか来ないで、リュースに魂消してもらった方がよかったかな。


「いや、あの、そんなこと言って——」

「あの、苦しいのとか痛いのは嫌なんで、一思いにお願いしますね」


 俺は、もう命は無いものと覚悟を決めて、目を固く閉じて最期の瞬間が来るのをじっと待っていた。

「話を聞いてください! 誰も殺すなんて言ってないですよ! 一応は恩人でもあるのですから、信用できないくらいでリンさんを殺すようなことはしませんよ! 人を悪魔のように言わないでください!」

 そうシャルディアが言っていたすぐ後に、ガイラルが俺の肩に手を置いて。

「そうだぞ! 情けない話ではあるが、さっきのような得体のしれない魔法を使われたら俺たちの方が殺されかねない」

 なんてことを言ってきた。

「じゃ、俺はどうなるんですか?」

「助けていただいたことには感謝いたしますが、ここでお別れと言う事になりますね」


 えー、もしかしたら一緒に行動できるかもとちょっとは期待してたんだけどな。


 命は助かったようだが、馬車には載せて貰えそうになかったので、近くの町の場所などを聞くことにした。

「えーと、ここから一番近い町の場所と名前を教えて貰えませんか?」

「この道を真っ直ぐ歩いて三日ほどの所に、私たちも行くホラブと言う町がありますよ」


 三日か、バイクくらいなら具現化でき……あ、できても一分しか持たないか、消費魔力次第ではバイクでいいかもしれないけど、さすがに途中で野宿しないといけないよな。寝てる間に魔物や獣なんかに襲われたら確実に死ぬ自信があるぞ。金を出したら乗せてってくれないかな、乗せてくれなくても一緒についていかせて貰えるだけでも……でも、金をどこで手に入れたのかを話せないから頼めないな。


「それじゃ、これが盗賊討伐と仲間を治療してくれた分の金だ。この世界に来たばっかりなら金も持ってないだろうし、多少多めになってるらしいぞ」


 ん、金くれるのか……あ、ならその金いらないから……。


「あの、お金はいらないんで町まで一緒に行かせてもらえないですか?」

 俺は、頭を下げてどうにか連れて行ってもらえないかと頼み込んだのだが。

「ん、あれだけの魔法が使えれば一人でも行けるんじゃないのか?」


 良く分からない世界に放り出されて、迷子同然な状態の人間に何を言いやがりますかね。


「昼間はまだしも夜寝ることもできないじゃないですか! 何でもするんで連れて行ってくれませんか?」

「話は聞こえていたわ、助けて貰っておいてここで見捨てると言うのも義を欠く事ですし、何でもすると言うのでしたら条件次第では同行を許可してもいいわよ」

 シャルディアから出された条件と言うのはこうだった。


  1.こちらの命令には従ってもらいます。

  2.魔物や盗賊などが出た時には戦闘に参加してもらいます。

  3.監視役を一名付けさせてもらいます。

  4.勝手に魔法を使ったり、おかしな行動をとった時には命を奪う場合もあります。 

  5.戦闘に参加しても報酬は出しません。ただし、食事は出します。

  6.これはホラブの町までの事とする。


 ホラブまで連れて行ってくれるって言うなら、このくらいの条件は全然かまわないな。


「その条件でいいので、一緒に連れて行ってください」

「ちょっと待っててね、今契約書を作ってくるわ」

 シャルディアが契約書を持ってくるまで待っている間に、スマホの魔力バッテリーの残量がほとんどなくなっていたことを思い出した。  

「はい、お待たせ。これにサイン……って、あなたはこちらの文字を書けるのかしら?」

 落ち人ならこちらの世界の言葉は話せても文字は書けないことが多いらしく、俺の事もそうかも知れないと聞いてきたらしかった。

「それと、あなたの事は今後『リン』と、呼び捨てにさせてもらうわね」


 ま、そりゃ呼び捨てにされるのは当然だろうな。


「こちらの世界の文字は一応書けますよ」

 そうシャルディアに言って、契約書にサインをした。


 これで何とか無事に町まで行けそうだな。


「それじゃみんな、出発するわよ!」


 こうしてシャルディアの商隊に同行させてもらい、ホラブの町へ行くことになった。

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